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幻想庭園

いろいろ書き散らしてます。 なお、掲載している内容につきましては、原作者様その他関係者様には一切関係ありません

覇王の花嫁 エピローグ:戯れ

遊戯王ARC-V ゆやゆず ユト瑠璃 ユゴリン ユリセレ 健全
 すべてはおさまるべきところにおさまった。






「ここに来るのも久しぶりだね」
 遊矢は、過去を慈しむような顔で墓標の前に立った。
 ここにこの墓が建てられて以来、遊矢達はこれをとても大切にしていた。
 なぜならここには遊矢達の誰よりも何よりも愛した、大切な人が眠っているのだから。
「綺麗な花。ユーリがいけてくれたの?」
「ええ。でも選んだのはセレナですよ。なにげにセンスはいいですから」
 僕の教育の賜物ですねと、ユーリは自慢げな顔をする。
「ズァークもきっと喜んでるね」
「だといいですけど。でもまあ安心して下さい。僕がきちんとお世話をしますから。僕
がいる限り朽ち果てさせはしません」
「そっか。ありがとうユーリ」
 礼を述べ遊矢は、いまは亡き人に語りかける。
「ズァーク、貴方が亡くなってからいろんな人と出会ったよ。でもズァークより大切な
人はいなかった」
 遊矢は兄弟たちの中でもっとも人間が好きだった。
 そんな遊矢でもズァークを越える人とは出会えなかった。 
 彼女に出会うまでは。
「今もズァークを愛してるよ。けど、柚子もズァークと同じくらい好きなんだ。
 ねぇ、ズァーク。いつか約束したよね。ズァークよりも好きな人が出来たら連れて
こいって。俺、柚子を連れてきていいかな?」
『バカ、いいに決まってるじゃないか』
 そんな声が聞こえてきそうな風が吹いた。
『早く連れてこい』
「うん。ズァーク」
 遊矢は頷いた。


 他の二人と妻達を呼ぶべく、遊矢とユーリは宮への道を歩いて行く。
「早く連れてこいって。よかった。楽しみにしてくれて」
「そりゃそうですよ。いつも言われていたじゃないですか。お嫁さんはまだかとか早く
子供の顔が見たいって。雌のドラゴンに出会うと僕たちの嫁にならないかって言ってた
んですよ」
 ユーリは呆れたように言う。
「でもまぁ。子供は無理ですね。僕たちの奥さんは全員人間ですし」
「俺は、ユーリがセレナをお嫁さんにするとは思ってなかったよ」
 遊矢はユーリの人間嫌いが口先だけではないと分かっていたので、話を聞いたときは
心底驚いた。 
「僕もね。自分で自分が意外に思いますよ」
 ユートじゃあるまいしとユーリは言う。
「ユートは瑠璃の粘り勝ちですね。もともと人間が好きなのに逆鱗で怪我をさせること
を気にして近づかないようにしていただけですから」
「ユート、すっごく愛されてたもんね。エクシーズの復興が進まなかったのもユートに
見捨てられたのがショックだったみたいだし」
 それを証明するかのようにユートが戻った途端、すさまじいスピードで復興が進んで
いる。
 ユートもそれにかかりきりとなり、国を出ることは殆ど無い。
「今は両思いですし、幸せなんでしょう」
 人に縛られるなんて情けのない話ですけと、ユーリは悪態をつく。  
「ユーゴも働いてるんだっけ?」
「奥さんにお尻を叩かれたらしいですよ。ヒモは許さないって。特性を生かして運び屋
をしているらしいですね」
 ユーゴはいつの間にやらすっかりリンの尻に敷かれてしまい、今は殆ど人の姿で過ご
し、せこせこと働いていた。
「たまにストレスがたまって空を飛んでいるらしいです。でもどこへ行っても奥さんが
追いかけてきますからね。大変ですよ」
「追いかけるのって、ユーリとセレナみたいだね」
「昔の話ですよ。今は離れることがありませんから、追いかけることはありませんね」
「そっか、いつもいっしょにいるんだ」
 変われば変わるものだ。
 皆も自分も。
 人間に絶望したあの日から、もう一度こんな穏やかな日が送れるなんて、大好きな人
が出来るなんて夢にも思わなかった。
 もしあの日柚子を殺していたら、自分は今もあの甘い絶望の日々を送っていたのだろう。
 ほんの気まぐれが、遊矢を救い出す道しるべとなった。
「早く柚子をズァークの元へ連れて行かなくっちゃ。彼女が俺を救い出してくれた大切
な人ですって」
 急ごうと足を速めたとき、大きな泣き声を聞いた。
「あれは瑠璃の声ですね」
「どうしたんだろう?」
 二人は急いで彼らがいる中庭へと向かった。


「ひどいわユート。私のこと愛してないのね」
「そういうわけでは」
「じゃあ、なんでプロポーズしてくれないの!?」
 瑠璃は、うわーんと泣き叫びながらユートの胸ぐらを掴んで激しく揺さぶっていた。
「ちょっ、これどうしたの?」
「遊矢」
 柚子が困った顔をして事情を話した。
「お茶を飲みながら近況を話してたら、瑠璃だけが結婚してないってわかって」
「えっ、ユートと瑠璃は結婚してないの?」
「瑠璃はユートの巫女だから、ユートは同じ様なものだと思ってみたい」
「全く乙女心の分かってない奴め」
 セレナがツンとして言ってのける。
「妻と巫女じゃ全然違うではないか。瑠璃が泣くのは当たり前だ」
「君の口からそんな言葉を聞けるとは、思ってもみませんでしたよ」
 いつの間にやら経験者ぶるようになったセレナに、ユーリは何とも言えない顔になる。
「す、すまない瑠璃。俺が悪かった」
 瑠璃の魔の手から逃れたユートはごほごほと咳をして呼吸を整えると、改めて瑠璃に
向き合う。
「死が二人を分かつまで君を大切にしよう」
「大切?愛してないの?」
「もちろん愛している。君は他の巫女とは違う。ズァークとも」
 ユートは瑠璃の手を取った。
「俺はドラゴンで君は人間だ。それでも俺は君を愛し続けると誓おう。俺の妻となって
くれるか?」
「はい」
 瑠璃は迷いなくその言葉を受け入れた。
「よかった。これで皆結婚できたのね」
 どうなることやらと傍らで見守っていたリンは、ほっと胸をなで下ろした。
「まぁな。あ~、これであいつも俺と同じように尻の下決定か」
「なに、なんか不満でもあるの?」
「べっつにぃ」
 ユーゴは何でも無いよと口笛を吹く。
「なんかまとまったみたいだね。じゃあ皆でズァークの所へ行こうか。早く連れてこ
いって言ってるんだ」
 遊矢の提案に、皆頷く。
「そっか、ようやく嫁さんの顔を拝ませてやれるわけか」
「生前に見せてやることは出来なかったからな」
「まっ、当時はズァークを越える人なんていませんでしたから」
 一概にズァークを慕う夫達に妻達はいかぶしげな顔をする。
「ズァークって、そんなに好きになるような人なの?」
「遊矢は愛してたって言ってたけど」
「国を統一したすごい人なのよねえ」
「ユーリからズァークが嫌いと言うことは一度も聞いたことはなかったな」
 妻達の心に対抗の炎が点火する。
「でも、もう死んじゃってる人だし」
「私たちはこれからよ」
「ユーゴの風は私よ」
「ユーリは私のだ。ズァークなんかには絶対渡さない」
 おのおのの決意を述べる妻達に、誰かが苦笑しているような気がした。



 一つの気まぐれから始まった物語は、世界を再生へと導いた。
 それは運命なのか神々の戯れなのか。
 誰も知るよしはないけれど、
 一つだけ言えるのは、ドラゴンの誓いは決して違えられることはなく、彼らの愛は深
く永遠であると言うことだ。


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