百日の薔薇 クラウス×タキ
延齢草(エンレイソウ) 奥ゆかしい心・奥ゆかしい美しさ
この国の人間は、素直じゃない。
感情を露わにすることが得意ではなく、それどころか感情を出さないことが美徳とされ
ている。
それにしては、奥手すぎないか。
本来は「愛しています」と訳す言葉を「月が綺麗ですね」と訳していた文章を読んだと
きは、この翻訳者は単語の意味を知らないんじゃないかと思った。
だが、これこそ皇国人であり、これを「奥ゆかしい」と言うらしい。
「素直じゃねぇなぁ」
クラウスは、自分の月を眺めた。
「もっと自分に正直になりゃあいいのに」
「お前は正直すぎる」
クラウスの下で月がささやいた。
「所構わず愛をささやくなど、はしたない」
「ほぉ~」
クラウスは、冷たい月の白い頬をなでる。
「そうか、そうか。俺の愛の言葉はいらないってか」
「そういうわけでは・・・・」
「ふ~ん」
クラウスは、月の耳元に唇を寄せてささやいた。
「月が綺麗ですね」
「・・・・・・っ」
それからクラウスは、月の白い肌に唇を寄せながら愛をつぶやいた。
「綺麗な月だな。俺の月は綺麗だ」
「やめよ」
クラウスの月がクラウスの身体をはねのける。
「そんなことを言うな」
「おやおや、月に嫉妬かぁ?」
クスクスと笑うクラウスに月はぷいっと顔を横にそむける。
「タキ」
月の名を呼び、クラウスはその耳元でささやいた。
「愛してる」
タキは、正面を向いてクラウスの顔を見つめるとその唇に口づけた。
「ほら、正直が一番だろ」
クスクス笑うクラウスに、タキはむっつりとしながら腕をその背中に回したのだった。