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幻想庭園

いろいろ書き散らしてます。 なお、掲載している内容につきましては、原作者様その他関係者様には一切関係ありません

ツリーを買いに

 クラウス×タキ「やさぐれ犬」設定

12の月の物語 12月の話



 猫は基本的に寒さは苦手である。
 木枯らしが吹くと、すぐに冬支度をする。
 活動も鈍くなり、暖炉の日で暖かな部屋に閉じこもったり、こたつに入り込んで出てこなくなったりと、出不精となりがちだ。
 それでも12月も半ばとなり、町中でジングルベルの音が響き始めころには、さす
がの猫もぬくぬくとした空間から這い出てきて、喜々としてクリスマスの準備を始め
るのだった。


「クラウス、遅いな・・・・」
 ぬくぬくとしたこたつに入りながら、ツリーに飾るオーナメントの用意をしていた
タキは、注文していたクリスマスツリーにするもみの木を受け取りに行ったまま帰っ
てこないクラウスを心配していた。
 1週間ほど前に町に出て、二人で選んだクリスマスツリーは、クラウスの身の丈と
と同じぐらいの高さがあり枝振りも立派なもみの木だ。だからこそ重さはあるが、ク
ラウスが担ぎ上げられないほどではなかった。だからこそ、クラウスは一人で大丈夫だとタキを家に残したのだ。寒がりのタキに気を遣ったのかもしれないが、それにしても遅い。クラウスが家を出たのは昼過ぎで、今はもう夕方だ。この家から街中の市場までは距離はあるが、こんなにも時間はかからない。あまりにも遅すぎる。
 タキはちらりと窓の外を見た。空はまだ青いが薄暗くなりつつある。
 タキは、手に持っていたオーナメントを机の上に置くと、ゆっくりとこたつから這い
出し、壁に掛けていたオーバーコートに手をかけた。
 外に出ると、ヒューを吹いた冷たい風がタキの身をなで、ぶるりと身体が震える。
 西の空を見ると、天と地の境目が赤焼けに染まり、東の空がだんだんと闇に侵食さ
れていた。夜が来る前に町に入らねばと、タキは足を速めた。

 


「いらっしゃいませー、クリスマスセール開催中でーす」

「クリスマスケーキのご予約はいかがですか?」

「プレゼントにいかが?素敵な品がいっぱいだよー」


 クリスマスを目前に控え、町は活気に包まれていた。クリスマスの買い物客でいっ
ぱいの人混みの中を、タキはツリーを予約した店に向かって人とぶつからないように
気をつけながら進んでいく。


「すみません」
 ようやくお店に到着し、タキは店にいた店員に声をかけた。
「ツリーを予約していたレイゼンですが」
「レイゼン様ですね。少々お待ちください」
 店員は店の奥のレジの方へ向かうと、カウンターの奥の棚に置いてあったリストを
確かめている。
「あっ、はい。ご予約は受けたまわっております」
「昼間に注文していたツリーを受け取りに来た者がいたはずなんですが」
  すると店員は申し訳なさそうな顔をする。
「申し訳ありません。実は本日一部の入荷が遅れておりまして・・・。今店長と店に
来られた方が一緒に入荷に向かっているところなんです」
「だれです?」
「たしかに金色の狼の方でした」
「!」
 クラウスだ。金色の狼と聞いてタキはそう確信した。金色の狼はこの町ではクラウスしかいない。
「出荷場は遠いですが、出たのは昼過ぎでしたし、もうまもなく帰ってくると思うの
ですが・・・」
 帰るまで待っていて良いかとタキが聞くと、かまわないという返事をもらったので、
タキはそのまま店で二人が帰ってくるのを待つことにした。

 

 接客の邪魔にならないよう、隅の方にいると、親切な店員が椅子を用意してくれた
ので、そこに座り店の様子を眺める。
 クリスマスを控え、店はツリーを選ぶ客でいっぱいだった。
 一人客も多いが、親子らしい客もいる。中にはカップルで来る者もいた。
 あるカップルは植木鉢に植えられたミニツリーの前で選んでいた。
「ねぇ、わたしこれがいいなぁ」
「ちいさすぎねぇ?」
「ちいさいのが可愛いんじゃない。綺麗に飾り付けたらとっても可愛いツリーになる
と思うわ」
「まぁ、初めての二人だけのクリスマスだしな。お前の好きにしろ」
「わぁ、やったぁ」
 ありがとうという恋人に、相手はまんざらでもない顔している。
 一週間前、二人でツリーを選んだときもあんな感じだったのだろうか。ツリーは、
ほぼタキの希望で決めた。ミニツリーか大きなツリーかで悩んでいて、大きなツリー
に惹かれるタキの背中を押してくれたのがクラウスだった。
『せっかくのクリスマスだ。お前の好きな方を買ってやるよ』
(クラウス・・・・・・・)
 ふいに、何だか寂しくなる。
 今までタキは一人で過ごしたことがない。
 物心ついたときはすでに大勢の人に囲まれていた。
 でも、いつもどこか寂しかった。皆優しかった。タキを一人にはしなかった。でも
誰かが傍にいても、ふとした瞬間感じる寂しさ。
 けれどクラウスといるときは、そんなこと感じた事はなかった。
 クラウスが傍にいれば、他に誰もいなくても大丈夫だった。
 クラウスの姿を目にしてその呼吸を感じる。同じ空気を、空間を共有している。
 ただそれだけで心がふんわりと温まる。
 でも、今は寂しい。寂しい・・・。
 店の中に親に置き去りにされたような心細さに陥っていたとき、店の前で車が止まる音が聞こえた。


「おーい、帰ったそー」
 店に響き渡るような大声で店長が声をかける。
「誰か来てくれ。荷台から木を降ろすぞ」
 その声に反応してどこからか店員が2、3人出てきて、店の外へ飛び出していった。

「おーい、この木はこっちでいいのか?」

 その声にタキの耳がぴくりと反応する。
 タキは椅子から飛び降りると、店の外へとかけ出した。


「こいつはどうすんだ?」
「おお、すまんなクラウス。それはあっちへ運んでくれ」
「おう、わかった」
 クラウスは、もみの木を運んできたトラックの荷台に上っていた店員から木を受け取り、指示された場所へ運び出していた。
「クラウス!!」
「・・・!」  
 運び終えたクラウスは、体当たりするように抱きついてきたタキをしっかりと抱きとめる。
「タキ、来てたのか!?」
 クラウスはタキをのぞき込むように声をかけるが、タキはクラウスの身体に顔をす
りつけるようにしがみついて顔を上げなかった。
「・・・・心配させちまったな」
 クラウスはタキの心情をにわかに察し、よしよしと頭をなでる。
「おーい、クラウス。すまなかったな、もういいぞ」
 荷台からすべての木を降ろし終え、声をかけた店長はタキの姿におっと気がつく。
「ありゃ、心配かけさせちまったな」
「しょうがねーよ。予定よりずいぶん遅くなったからな」
「すまねぇな。寒いだろ。とりあえず店の中に入ってくれ」
 熱い珈琲でも入れるよと、店長は二人を店の中へと案内した。


 
「いやぁ、すまなかったなぁ。今日入荷されるはずの木が急に届かなくなってよ」
 今日入荷予定の木を運んでくるトラックが、途中で雪にタイヤをとられ事故を起こ
し、入荷されなくなってしまったのだ。
 当然そこにはクラウスが注文していた木も含まれていたわけで・・・。
「こっちから仕入れに行こうにも、ちょうど書き入れ時で人手も足りなくってな」
 どうしようかと頭を抱えていたところに、クラウスが木を受け取りにやってきたのだ。仕事を通じて顔見知りだった店長はクラウスに手伝いを申し込み、そういう事情ならとクラウスも応じ、二人で仕入れのために山の出荷場まで行っていたのだ。
「思ったより雪が深くてさ。事故らないようにスピード落として走ってたからこんな
時間になっちまったんだ」
「そうだったのか」
 熱い珈琲をふうふうと冷ましつつ、タキは二人から事情を聞いて胸をなで下ろした。「連絡を入れようと思ったんだけどさ、その暇もなくトラックに押し込まれてよ」
「いやぁー、あそこまでは結構遠いからな。早く行かねぇと間に合わねぇからな」
 悪かった悪かったと頭をかく店長に、全くだよとクラウスは相づちを打つ。
「まぁ、あんたには店のことで世話になってるしな。おあいこってことでいいさ」
「おっ、そう思ってくれるとうれしいねぇ」
 店長はガハハッと笑った。

 

「クラウス、今日は本当にありがとな」
「いいって。でも、いいのか?ツリーの代金ただにしてもらって」
「なぁに、今日の駄賃代わりだ」
 持っててくれと言われ、それならばとクラウスは注文していたツリーを担ぎ上げる。
「ありがとうございます」
「何、あんたにも心配かけさせちまったからな。おお、そうだ」
 ちょっと待ってなと、店長は店の奥へ入ると小さな植木鉢を持って出てきた。  
「これは俺からのクリスマスプレゼントだ」
 と言って、オーナーはタキに植木鉢を手渡した。植木鉢には、柊で作ったクリスマス仕様のアレンジメントが植えられていた。
「へぇ、よくできてるじゃん」
「可愛い」
 二人に褒められ、オーナーはうれしそうに胸を張った。

 


「じゃあな二人とも、メリークリスマス」
「メリークリスマス」
 店長に見送られ、二人は店を後にした。
「よかったな」
「うん」
 小さく見えた植木鉢もタキには少し大きかった。けれどタキは頬を上気させ、一生懸命運んでいる。
 その様子が微笑ましくて、クラウスは時折タキの姿に目を落とした。
 すっかり夜も更け、閉店時間を過ぎ、ほとんどの店は閉まっていた。
 昼間の喧噪が嘘のように、街中はしんと静まりかえっている。
 辺りにはさくさくと雪を踏む二人の足音だけが響く。
 空は闇に覆われ、ほのかな街灯の明かりが二人を照らしていた。
「静かだな・・・」
「・・・うん」
 そのとき、タキの目の前に小さな白い光がひらひらと舞い降りてきた。
「雪だ・・・」
「おっ・・・」
 空を見上げると、その白い光は次々と舞い降りてくる。
(きれい)
 タキはそう思ったが、クラウスはやべぇなとタキを促した。
「行くぞタキ。ひどくなる前にうちに着かねぇと」
 その言葉にタキは目を見張って、クラウスを見た。
「? どうした?」
「・・・・・ううん、なんでもない」
「? そうか?」
 重いなら持とうかと言うクラウスの申し出をやんわりと断り、タキは植木鉢をしっ
かり抱え直して、歩を速める。
 いつの間にかタキの胸からは寂しさは消え、こたつよりも暖かな灯がタキの身体を包んだのだった。

 

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