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幻想庭園

いろいろ書き散らしてます。 なお、掲載している内容につきましては、原作者様その他関係者様には一切関係ありません

夜明け前

百日の薔薇

アシュレイ独白 アシュレイ→カツラギ

 
その想いはどこから来るのか。



*久しぶりの更新です。綺麗にまとまったと思います。







『君がそう決意したのならば、もう俺は何も言わんよ』

『ただな、アシュレイ。教えてくれ』

『君のその想いは、どこから来る?』

『愛か、恋か、もしくは情か』

 それとも      

 

 


 深淵の縁から浮上するように、ゆっくりと目を開ける。
 誰かに包まれているようなまどろみ中、ぼんやりと見上げた天井はいつも見ていた
ものとは違う。
 ゆるゆると覚醒していく意識は、まだここがどこなのか告げてはくれない。
(・・・・・?)
 すぐ近くから誰かの寝息のようなものが聞こえてくる。
 ゆっくりと頭を聞こえてくる方に向けると、目に入ってきたのは、ぐっすりと
寝入っている黒い髪の青年。
(あ・・・・・・)
 青年は、アシュレイの身体を抱きしめるようとするように眠っていた。
 体格の違いから、その腕の中にきちんと抱きしめることはできていないが、
それでも精一杯伸ばして、アシュレイを抱きしめようとしていた。
(カツラギ・・・)
 その一生懸命さがうれしくて、アシュレイは思わず頬を緩めてしまう。
 青年と言っても、まだ元服を迎えたばかりで、その顔には少年の面影が残っている。
 皇室に繋がる名家の長子として、年の割に大人びた振る舞いをし、アシュレイにも
年の差を感じさせないように接しようとするが、ときに年相応の仕草を取ってしまい、
それを必死に取り繕うとするところが、アシュレイには可愛かった。
 家庭教師をしていたタチバナ家の生徒たちへの想いとは、また違ういとおしさ。

 

 ふとアシュレイは真面目な顔つきになり、懊悩を孕んだ瞳でカツラギの寝顔を見つ
めた。
 八枝族と呼ばれる上級貴族のうち第2位という家柄。
 幼い頃から神童と呼ばれていたと言うほどの、優秀な頭脳。
(この人は、いずれ国の中枢で、この国の行く先を導く人)
 そして、カツラギ家の当主として子をなすために、どこかの名門の女を妻に迎える
のだろう。
 そう考えた途端、胸の奥に冷ややかなものつたった。
 夕べ、カツラギに触れられた箇所は、うずき、熱を持ち、アシュレイの身体を侵食して、奥深いところを灼いていった。
 その熱はとうに冷え、背中が寒くて、アシュレイは自分で自分を抱きしめる。
(今の自分との関係もきっと、変わってゆく)
 このようなことは、青春の思い出か過ちの一つにでもなるのだろう・・・。


 アシュレイは、起き上がるために、カツラギの腕から逃れようとした。
「ん・・・・・」 
 しかし、逃れようとアシュレイが身じろぐ度に、カツラギは腕を伸ばしてくる。
 アシュレイは、カツラギは起きているのではとその顔を伺ったが、カツラギは瞼を
固く閉じ、唇からは上品な寝息しか聞こえてこない。
 アシュレイは、そっとカツラギの腕をとった。腕をとり、手を握りしめるようにふれて・・・、安心したのか、カツラギは腕を伸ばそうとはしなかった。
 けれど、腕から逃れ、上半身を起き上がらせ、そっととった腕をシーツの上に寝かせた途端、
「あっ」
 すかさず腕か伸びてきて、アシュレイの腰を捉える。
 すがりつくように腕を絡め、アシュレイが身動きをとれないようにする。
「カツラギ・・・」
 アシュレイが困ったように、カツラギの顔をうかがい見た途端、カツラギの閉じられていた唇がうっすらと開いた。
「あしゅ・・れい・・・」
 吐息にかき消されるような声。それでもカツラギは、はっきりとアシュレイの名を
口ずさんだ。
「・・・・・・・・・・・・・」
 からだから力が抜けていく。
 代わりに胸の奥で、ポッと小さな灯が灯る。
 寒さは、どこかへと追いやられていた。
 アシュレイはベットボートを覆うように置かれたクッションのような枕に背中を預
け、カツラギの頭を膝の上に乗せ、そっとその髪に手を添えた。

 
 この想いはどこから来るのか。


 愛か、恋か。もしくは情か。


 それとも、ただの執着か    


(そのどれでもないようですよ、タチバナ卿・・・)
 カツラギの手を取ることを、その瀬戸際までずっと心配し続けていてくれた恩人に、
アシュレイは心の中で話しかける。

 この想いは、


 愛も、恋も、情も、執着も、


 すべてをひっくるめて、


 そして、それを超えたもの。


 その名は    




 ふと、アシュレイは、厚いカーテンの隙間から金色の光の筋が差し込んでいるのに
気づく。
 絡みつくカツラギの腕をなんとか解き、落とさないようにそっとカツラギの頭を膝の上からベットの上に置くと、ベットから降りる。すぐ近くに落ちていたバスローブ
を羽織ると、窓辺に近づき、カーテンを開けた。
 飛び込んできた光に目をくらませながらも、アシュレイは窓の外を眺めた。
 つい先程まで、世界を浸食していた闇は去り、金色の閃光が世界を包んでいた。
「日が昇る・・・」


「んっ・・・・?」
 背後からの声に、アシュレイは急ぎカーテンを閉め、後ろを振り向いた。
 見ると、カツラギがまぶしそうに腕で瞼をさえぎり、身じろいでいた。
 アシュレイは、ベットまで戻り、ベットサイドに腰掛けると、カツラギの耳元でそ
っとささやいた。
「おやすみください。まだ、朝は早いですから」
 すっと、カツラギの腕が伸びて、アシュレイの腕を捉える。
「いく・・・な」

 


「・・・・・どこにも、行きませんよ」
 カツラギが再び眠りに落ちたのを確認して、アシュレイは、愛おしげにそっとカツラギの頬に口づけを落とした。

 

 もう、どこにも行かない。帰らない。


 今日、私は、あなたの騎士(もの)となる。

 

 

 

 

 

 

 


 

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