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幻想庭園

いろいろ書き散らしてます。 なお、掲載している内容につきましては、原作者様その他関係者様には一切関係ありません

うたたね

クラウス×タキ

眠るクラウスとタキと猫

12の月の物語 3月のお話







 狂犬と呼ばれるクラウスは、実は猫派だった。

 タキはそれをよく知っている。
 ルッケンヴァルデの学校には、たまに野良猫が迷い込むことがあった。
 クラウスは、その姿を見かけるたびに目元をゆるめ、えさになるような食べ物を持
っているときはいつも投げ与えていた。
 週末に手料理を食べさせてくれた店の裏通りにも猫は住み着いていたらしい。店の
勝手口から帰ってきたクラウスにどうしたのだと聞くと、「小さな俺の料理のファン
が来てたんで、ふるまってきたんだ」と、クラウスはよくそう言っていた。
 猫はえさをくれる人間には懐く者。
 クラウスが気を引こうと、ちっちと舌を鳴らせばすぐに猫は寄ってきた。地面に寝
っ転がって伸びている猫は、クラウスがそっと近づいて来ても大人しくしており、な
でるにまかせたりしていた。


 だから、今目の前に広がる光景もきっとそうなのだろうと、タキは自分を納得させる。
 現在ローゼンメイデン師団本部となっているレイゼン家冬の別邸の庭は原生林を生
かした造りになっており、その一番奥には庭の主(ぬし)とも言える巨木が根を張っ
ている。幹はは太く腕を伸ばすように広がる枝と生い茂る葉は影をつくり、心地よい
空間を生み出している。
 クラウスはその巨木の下で昼寝をすることがよくあった。
 訪れる者が少ないその場所は、クラウスが一人きりになれる数少ない場所。
 好奇や嫌悪、嫌疑の視線に晒されることもなく、口騒がしい声を聞くこともなく・
・・。
 異国の地に同胞もなくたった一人でいることの怖さ、寂しさ、心細さを知っている
からこそ、タキは、クラウスが一人庭の奥へ行くことへ嫌疑の目を向ける側近の者達
に放っておくように申しつけていた。

 今、クラウスは一人きりのハズ。

 けれど、巨木の下で右腕を枕に眠るクラウスの腕の中では、鼻と口周り、それに手
足の先が白い黒い猫が、気持ちよさそうに添い寝していた。

 師団では、軍用犬は何匹かいるが猫は飼われていない。
 特に役にも立たないし、戦争中に動物を飼うことは不謹慎と禁止されている。
 けれど、迷い込んだ動物を可愛がることまでは禁止されていない。
 終わりが見えない中で、昼夜生死の狭間で生きているからこそ、癒やし・慰めは必
要だった。

 この猫も迷い込んだ一匹なのだろう。
 なじみなのか、猫はクラウスの頬に額をすり寄せて、身体をだらしなく伸ばしてい
る。クラウスのことを信頼している証だ。
 クラウスは猫をなでている途中で眠ってしまったのだろうか。左手が猫の身体に添
えられたままだ。 
 夢の中でも猫と戯れているのか、ときおりクラウスの頬か喜ばしげにゆるむ。
「・・・・・・・」
 クラウスの姿を見つけたばかりの時は、この光景はほほえましかった。
 けれど、タキが傍にいるのにクラウスはいっこうに目覚める気配はなく、眠りなが
ら猫を愛でる
仕草に、タキはだんだんとおもしろくなくなってくる・・・。
「すまない・・・」
 つぶやくなり、タキはそっと猫の身体の下に手を差し入れた。
 ゆっくりと起こさないように持ち上げたつもりが、気配に敏感な猫はビクリとして
ぱっと目を開けた。そしてタキの姿を目にするなり、耳を逆立てじたばたと身をよじ
り、タキの腕から逃れると一目散に木立の中へと消えていった。
 タキは呆然と猫が消えていった先を見つめていたが、すぐに気を取り直し、クラウ
スの寝顔を見下ろす。
 クラウスは、突然いなくなった毛玉の感触を探してぺたぺたと地面を叩く。中々見
つからないせいか、だんだんと眉間にしわがより始める。
「・・・・・」
 タキは周囲をきょろっと見回し、静かにそっとクラウスの身体に寄り添うように己
の身体を横たえさせた。

 クラウスの手がタキの髪に触れる。

 その瞬間、クラウスの顔がにまっとほころんだ。
 ようやく見つけたと、クラウスの指は髪のさらめきを楽しむように流れていく。 
 クラウスの指に己を任せながら、タキは静かに瞼を閉じた。
 その二人を守るように巨木を枝葉を伸ばす。

 穏やかな春の陽の木漏れ日が、二人を優しく包み込んだ。


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