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幻想庭園

いろいろ書き散らしてます。 なお、掲載している内容につきましては、原作者様その他関係者様には一切関係ありません

変わり身の衣(2)

百日の薔薇 カツラギの独白  
アシュレイも出てきます。  

ちなみに私は、カツラギ×アシュレイ推奨です。









 シャツのボタンを一番上まで留められる。
 着慣れていないシャツではないが、首回りにぴたりと寄り添う襟ぐりの感触になれ
るには、ほんの少しの時間をおく必要があった。
 その間にシャツの裾がトラウザーズの中に入れられ、ベルトを締められる。
「キツクないですか?」との声に大丈夫だ、と応える。
 そもそも、彼は締めすぎることなどしない。
 傍にいるようになって、自分に服を着せるのは彼の役目だった。それ以前も服を脱いだ
ときは彼が着せてくれた。数えることができなくなるほどの機会を経験していたから、
彼はちょうど良いところをちゃんと知っていた。そうして自分も・・・。
 少しそちらの方に意識が向いている間に、いつの間にか彼が私の背後に回っていた。
「どうぞ」と促す彼は、上着を着せられるように構えていた。
「? どうしました?」
「・・・・いや」
 先ほどまで頭の中にあったことを悟られないように、素知らぬ顔をして上着の袖を
通す。
 肩まで袖を通したあと、彼が素早く背後から前に回り、下から一つずつボタンを留めて
いく。
 その間は彼を見下ろすような形になるのだが、それが嫌いではなかった。
 何せ彼は背筋を伸ばすと、自分よりも頭が一つ以上もとびぬけているのだ。
 西洋人はみな背が高いとは言え、悔しい。
 おかげでこうして・・・。
  

 アシュレイは、カツラギの上着のボタンを一番上まで留めおえ、ボタンに集中していた
視線を上に上げた。とたんにカツラギと目が合った。
 その瞬間を逃さずに、カツラギはアシュレイの唇に自分のそれを重ね合わせたのだ。
 アシュレイはその瞬間には目を大きく見開いたものの、すぐに瞳を閉じ、カツラギ
にゆだねた。
 けれど、唇を離した途端、アシュレイはカツラギを胸にぎゅっと抱きしめる。
 コレもカツラギのうれしいけれど、悔しいことの一つだ。こうされると否が応でも
身長差を思い知らされる。
 アシュレイはカツラギから身を離すと少しかがんで、微笑んだ。
「お似合いですよ」
 視線を重ねられて、思わずカツラギは視線をそらしてしまう。
「そうかい?」
「はい。皆さんはあなたを文人とおっしゃられますけど、士官服がとても似合ってい
らっしゃる。やはりあなたは軍人です」
 そう告げられ、カツラギは正面を向き、じっとアシュレイの姿を見た。
 アシュレイはいつも見苦しくない、礼儀正しい服装を心がけていた。 
 シャツのボタンと一番上まで留め、ネクタイをきちんと締め、黒を基調とした上着を
羽織って・・・。
 けれど今、目の前に立つアシュレイは、カーキ色の一般兵の服に身を包み、足首に
はゲートルを巻いている。
「・・・・・君は似合わないな」
 カツラギの言葉に アシュレイは目を伏せがちにする。
「軍服なんて君には似合わない。いつもの姿の方が君にふさわしい」
「・・・・ですが、身にまとわないわけにはいきません」
 アシュレイの声は、カツラギの言葉に負けぬほど厳かなるものであった。
「私はあなたの騎士です。だからこそ行かないわけにはいかない・・・」
「私の傍にいればいい。私も行くのだから・・・」
「いいえ。それでは皆が納得しません」
 アシュレイは静かに頭を振った。 
「私は、異国出身ですから・・・」
 アシュレイは、けっして敵国出身とは言わない。
(なぜだ・・・・)
 カツラギはぐっと奥歯を咬む。
 騎士とは、国を捨て、家族を捨て、人としてもあらゆる権利を放棄して主の所有物と
なった者。
 なのになぜ・・・・。

 
 異国の者であると言うこと(すてさったはずもの)が、

 こうまでもまとわりつくのか        



「カツラギ・・・・」
 カツラギの心情を察したのか、アシュレイはまたそっとカツラギを抱きしめた。
「私のことで悩まないでください。あなたはこれから西方面軍と向き合わなくてはな
らない。それ以外のことで頭を患わしてはいけません」
 カツラギは、これから対西方面軍の参謀を務める。カツラギの予測する西方面軍の
動き、それに合わせて考案され展開される作戦が、戦況の行方を、この国の未来を決
めるのだ。
「あなたはただ、皆を導くことだけを考えてください」
 勝利のために、未来のために、皆が一人でも多く生きて帰るために。
 この肩に皇国全軍の命のみならず、未来も背負っている。
 それはあまりにも重く・・・。
「大丈夫。あなたなら必ず成し遂げられます」
 カツラギを抱きしめるアシュレイの腕に力がこもる。
「私はあなたの騎士です。あなたの手足となって、あなたが考えた作戦を遂行しまし
ょう」
 頼もしく聞こえる言葉だが、カツラギはクスリと笑う。
「アシュレイ、君は銃が撃てるのかい?」
 意外な問いかけにアシュレイは、少しむっとして答えた。
「もちろんです。向こうの人間は、誰でも一度は銃を手にしますから」
「では質問を変えよう。君は銃を撃つのが得意なのかい?」
「得意・・・とはいきませんが・・・」
 うむむとうなってしまったアシュレイに対し、カツラギはおかしいと今度は大いに
笑った。
「そんなに笑わないでください」
「ククッ・・・ああ、わるかった」
 まだ湧きでるおかしさをこらえながら、カツラギはアシュレイの顔を見上げる。
「どちらにしろ、君は行くのだろう?君が意外と頑固な性格なのは知っているからな」
 柔和で穏やかで優しそう見えて、意外に厳しく、頑固で、こうと決めたらそれを貫く
意志の強さを持っているのだ、アシュレイは。
 だから、こんな時勢でありながら、私の騎士となって傍にいることを選んだ。
「カツラギ・・・・」
  今度はアシュレイから、カツラギに口づけを落とす。すぐに離れる軽い口づけを落として、アシュレイはカツラギの額に己に額を合わせた。
 そしてささやいた。

 

                        必ず、戻ってきます。

 





「嘘つきめ」
 突然つぶやかれたカツラギの言葉に、傍にいた副官がドキッと肩を浮き上がらせる。
「・・・カツラギ副大臣。どうなさいました?・・・・」
 恐る恐る声をかけてきた副官に、カツラギは何でもないと頭を振る。
「・・・・ああ、すまない。昔のことを思い出してね」
 はぁ・・・と副官がまぬけた返事をしたタイミングで、執務室のドアがノックされた。
 失礼します、と入ってきたのは・・・・。
「君、すまないが席を外してくれたまえ」
 先程とは打って変わった覇気の込められた声に、副官はまたもドキッと肩を浮き上がらせる。
「茶もいい。しばらく誰も近づかないよう皆に申し伝えてくれたまえ」
「は・・・」
「何をくずくずしている。さっさといきたまえ」
「はっ、はい!」
 カツラギに冷たさを含んだ目を向けられ、副官は飛び出すように部屋を出て行った。
「すまない。新人でね」
「我々のことを知らない者ですか」
「そういうことだ。そのうち他に回すよ」
 すわってくれたまえとカツラギはソファへと訪問客を促す。
 対面に座ったカツラギは、さてと態度を改める。
「例の件のことだけどね・・・・」
 語りはじめたカツラギの目は、策略と陰謀を喜びとする者の目であった。

 

 軍服は人を変えると言うが、服をまとったくらいで人が変わるものか。
 変えるのは戦そのものだ。
 戦はすべてを変える。
 大地を、国を、未来を、運命を、人の心までも・・・。
 私は、それを知っている。

 あの戦いを通して、私は悟った。
 戦の行方は、実は戦場ではなく、戦場の外で決まるのだと。
 軍にいるのは無意味なのだ。
 だから、私はもう軍服なぞまとわない。
 その必要はない。


 着せてくれる者がいない軍服など、まといたくはなかった。
 


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コメント

1. 嬉しいです

いつもほぼ毎日ですが(笑)本当に楽しく読ませて頂いてます。
新しく更新されてとても嬉しくてコメさせて頂きました。
百日の薔薇を知る前は、BLにまったく興味がなかったのに、百日の薔薇を知ってから世界が変わってしまいました。
百日の薔薇の同人誌、CDなど買い漁る日々を過ごしています(笑)
このサイトを見つけすぐファンになりました。これからも物語楽しみにしていますので頑張って下さいネ^^

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