いろいろ書き散らしてます。 なお、掲載している内容につきましては、原作者様その他関係者様には一切関係ありません
日中に日が差せばそれなりに温かいが、朝夕はすっかり冷え、気をつけて置かなければ風邪を引きそうな10月31日。
クラウスはいそいそと、両手で抱えないと持てないほどの大きさのカボチャを、自分専用のキッチンに持ち込んだ。
「うん、うまそうじゃねぇか」
こんこんとカボチャを拳で軽く叩き、実が詰まっている音にご満悦になる。
「さーて、作るか」
愛用のエプロンをして、腕まくりをして調理に取りかかる。
作るのはこの時期に、必ず作られるパンプキンパイだ。
今日は10月31日、ハロウィンだ。
故郷では、毎年この時期になるとたくさんのカボチャを買い入れ、ジャックランタンを作って火を灯し、中身を使ってパンプキンパイを作ったものだ。
(クロウディアの作ったパンプキンパイはうまかったな)
作りながら味を思い出し、舌なめずりする。
今回目指すのは、その姉の味だ。
クラウスの故郷の味は、姉の作る料理の味だった。
まず、カボチャを軽く蒸して中身をくりぬく。
本当ならここでジャックランタンを作るところだが、この国にはハロウィンの習慣はないし、作っても不気味と思われるだけだろう。
姫さん達はおもしろがるだろうが、三爺共がうるさく言うにちがいない。
ただのランタン飾りでさえうるさいのに、これでお面を作りおどかしでもしたら、射殺ものだ。
死にたくもないし、たかがカボチャ飾りでうるさく言われるのもごめんなので、パンプキンパイだけを作る。
せっかくなので、カボチャの器を生かして作ることにした。
くりぬいた中身を砂糖やバターで味付けし、カボチャの器の中に戻す。
この国のカボチャは甘いので、カボチャの自然な甘みを生かしてみた。
目指すは姉の味と言っても、やはり味覚というモノは変わってくるモノだ。
少しずつ形を変えて、自分の味というものができあがっていくのだ。
上面に、作っておいたパイ皮で格子を作り、照りつけのために黄身を塗る。
「後は焼くだけだな」
あらかじめ、予熱して置いたオーブンの温度を確かめ、中にパイを入れる。
後は、様子を見ながら十数分待てば完成だ。
その間に使った道具を片付けてしまう。
片付けとか整理整頓をまめにするので、いつもこのキッチンはきれいだ。
前にダテが、「顔に似合わないっすね」といったので、おやつ抜きの刑を宣しところ、クラウスの作る菓子の熱烈なファンのダテは、半泣きで謝ってきた。
片付けを終え、一息入れようと、お茶を入れる。
だんだんと、香ばしいバターの臭いと焼けるカボチャの甘い香りが漂ってきた。
(そういや、この国でカボチャって言うと冬至の日に食べるって言ったな)
年によって日は異なるが、だいたいクリスマスイブの前日頃に冬至の日が到来し、その日にカボチャの煮物を食べるのだ。
醤油と砂糖で甘辛く煮付けられたカボチャをその日に食べると、無病息災になるという。
ハロウィンも悪霊払いから来た習慣であるから、意味は似ている。
たまに驚かされるのが、西の果てと東の果て、何百万kmという距離が離れているのに酷似している習慣に出会うことだ。
古今東西、願うことは一緒と言うことだろうか。
(意外に世界は狭いのかもな)
空にいれば、それが分かる。
空に国境はなく、どこまでも、飛べる限りどの果てへも行けるのだから。
なにやら感傷に浸っていると、香ばしいにおいがしてきた。
オーブンミトンを手にはめ、オーブンの中のパイをのぞき込む。
焼き具合を確かめて、
「うっし、できあがり」
上出来だ、とクラウスは、しっぽをぱたりと揺らした。
「お待たせ、タキ。できたぞ~」
焼けたばかりのパイをダイニングへ持って入れば、耳をぴんと立て、期待でしっぽ
をぶわっと膨らませたタキが、今か今かと待ち焦がれていた。
「いい焼き上がりだ。きっとうまいぜ」
目の前で切り分けられるパンプキンパイに、タキの目がきらきらと輝く。
「ほい。熱いから気をつけてな」
猫舌だから、熱いのが苦手なタキだが、パンプキンパイのおいしそうな匂いにつられたのか、小さめに切って、口に入れる。はふはふと口の中で冷ましながら、パイを
味わう。
「どうよ。お味は?」
「うむっ、うまいぞ」
熱さに舌を時折冷ましながら、一口、また一口と口の中に入れていくタキに、クラ
ウスはご満悦な表情を浮かべる。
(誰かに食べてもらうってのは良いよな)
戦場でもうまいものを味わえるようにと料理はたしなんだが、一人の時は作る気が
しなかった。
戦場では、食べさせる仲間がいた。
機甲学校にいた頃は、週末が来る度にタキに食べさせるのが楽しみだった。
ここでは、もっぱら自分用の料理を作っているが、こうしてたまに、タキでも食べ
られるのを作り、食べてもらうことで張り合いがでた。
そして、徐々に周囲の人間にも受け入れられるようになった今では・・・・。
「大尉~。今日は何つくったんすか~♪」
ノックもなしに勢いよくドアが開いて、上機嫌なダテが入り込んでくる。
「おう、早速かぎつけてきやがったか」
「そりゃーもう。廊下中に漂ってますよ~。うまそうな匂いが」
「すみません、大尉。ノックもせずに」
「後でちゃんと叱っておきますので」
後ろにアズサ、モリヤと続き、クラウスはふと口元を緩めた。
「いいから座りな。今切り分ける」
「後でスグリ少尉も来られるそうです」
「そっか。ダテにとられるのと、どっちが早いか勝負だな」
ははっと笑いながら、パイを切り分けていく。
カボチャの効用は確かにあった。
警戒心を取り除き、信頼という種を植えた。