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幻想庭園

いろいろ書き散らしてます。 なお、掲載している内容につきましては、原作者様その他関係者様には一切関係ありません

星が降る夜

七夕の夜に

クラウス×タキ 少ししんみり

12の月の物語 7月のお話



「あーまーのがわ、さーらさらー」
「のーきばーにゆれるー」
「おーほしさーまーきーらきらー」
「きーんぎーんすなごー」
  キャハハと笑いながら、6人の女子達が竹の周りをくるくると回りながら、竹の葉に
長方形に切った紙や折り紙で作った飾りらしきモノをつけていく。
「なんだありゃ?」
「七夕飾りだ。今夜は七夕だからな。クラウスは七夕は初めてか?」
「たなばた?」
「我が国では、毎年7月7日に竹を飾り祝うのだ。あの長方形に切った紙は短冊と言って
な。願い事を書いて、ああやって吊すのだ。そうするとそこに書かれている願いは叶うと
伝えられている」
「へぇ~」
 感心するクラウスにタキは短冊を手渡す。
「ほら」
「あん?」
「お前も書くといい」
 タキはにこっこりと笑って言った。
 
「クラウスにも願うことはあるだろう?」


 もらってしまったものの、いざ書くとなるとクラウスは困惑してしまう。
「まいったな・・・」
 なんて書こう。迷う必要なんかないのに、筆が進まない。
 願うことはただ一つ。
 なのに、その願いをこうして紙にしたためることができない。
「・・・・できた」
 背中の後ろからタキの声がした。
 なんて書いてあるのだろう。気になって後ろを振り向いた瞬間、それはタキによって
伏せられてしまう。
「私は書けたぞ。クラウスは?ちゃんと書けたか?」
「・・・・・・いや」
 いざってなると難しくてさ、とクラウスはごまかす。
「・・・・・そうか」
 まぁ、まだ夜まで時間がある、ゆっくりと書けとタキはクラウスを励ました。
 

 時間はあっという間に経ち、日は西の彼方へと沈み、夜の闇が空を覆い尽くすと同時に
夜空のガラス片が次々と輝き出す。
「うっわ、すげぇ・・・」
 クラウスは、テラスから夜空を見上げて感嘆の声を出した。
「今夜は晴れているからな。星がよく見える」
 タキは空のある方向を指さしクラウスを見るように促す。
「クラウス。天の川だ」
 空を流れる輝く星の川。この世界が生まれる前からとうとうと天を流れていく。
「よかった。今年は彦星と織り姫は逢えるようだな」
「誰だそれ?」
「我が国に、古くから伝えられる神話に出てくる二人の名だ」
  

 遙か昔、彦星と織り姫という夫婦がいた。
 彦星は牛使い、織り姫は機織りを仕事としていて、二人とも働き者だった。
 しかし、結婚すると同時に二人は互いの仕事を怠るようになる。
 それを怒った天帝は、二人を天の川を挟んで別れ離れにしてしまった。
 以来、二人は別れて暮らし、ただ年に一度、7月7日の夜にだけ会えるのだという。
 

「おいおい、仕事をさぼっただけで無理矢理別れさせたのかよ。乱暴な・・・」
 そこまで言って、クラウスは、はっと口をつぐんだ。
「クラウス?」
「・・・・いや」
 何でもねぇとクラウスは頭を振った。
「聞きようによっちゃあ、悲しい話だな」
「そうだろう。私もこの話は好きなのだが、いつも少し、悲しい気分になる・・・」
 そうつぶやいたタキの顔は、切なげで、儚い野花のようだった。
「・・・・・・なぁ、タキ」
「うん?」
「もし・・・・・・・もしも俺が・・・・」
 ああ、それを尋ねていいものだろうか。
 もし尋ねてしまって、タキが・・・・・・・なら、俺は・・・・。
「クラウス・・・?」
「いや、なんでもねぇ」
 そう言うと、クラウスはふらりと歩き出す。
「クラウス、どこへ行く?」
「短冊、吊してくる」
 お前はここで待っていてくれと後ろ手を振って、クラウスはすたすたと歩き出す。
 

 そうしてクラウスは、誰もいない人目につかない場所へ行った。
  手には、何も書かれていない真っ白な短冊。
 クラウスは、それをゆっくりと破っていく。
 

 これでいいのだ。
 この願いは、こんな風に願うモノではないから。
  この願いの代償は、己のすべて。
 知られてしまったら、タキとはもう、共にあることどころか、永遠に逢うことさえ叶う
ことはないだろう。
「いまは、このままで・・・」


  離した手のひらから、白い紙の花びらが風に乗り夜空へと舞った。
  舞い上がり、夜空を流れる花びらは、まるで星屑のようだった。



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