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幻想庭園

いろいろ書き散らしてます。 なお、掲載している内容につきましては、原作者様その他関係者様には一切関係ありません

空の涙

百日の薔薇 クラウス×タキ
 
「やさぐれ犬・・・」設定  ほのぼの

12の月の物語 6月のお話


猫は基本的に水が嫌いだから、雨はそう好きじゃない。  
 けれど、タキは雨の日が好きだ。   
 雨に濡れた街は、晴れた日の普段の表情と少し違って見えて何とも言えない風情がある
し、この季節に咲く紫陽花は雨に濡れている姿の方がきれいだ。   
 何より、雨は出会いをもたらす。  
 雨が降る日にタキはクラウスと出会ったのだ。  


 雨は空の神様が泣いているから降るのだと、幼い頃教えてもらった。 
 なぜ泣くのかと問えば、誰かのために泣くのだと言われた。
 この世には泣きたくても、泣けない人たちがいて、その人達の代わりに空の神様は涙を
流すのだと。

 『だから、雨の日には、もの悲しい気分になるのですよ』

 きっと、あの日のクラウスも泣きたかったのだ。
 「拾ってください」と書かれた濡れたダンボールに入れられて、道ばたに捨てられて
いたクラウス。 
 全身ずぶ濡れで、あの時拾わなければどうなっていたことか。  
 クラウスはあまり多くのことを語らない。  
 けれど、決して幸せなことばかりではなかったのだろう。  
 今も時折、こんな雨の日には、ぼんやりと窓の外を眺めているときがある。 
 タキは、空を見上げた。  
 どんよりとしたねずみ色の雲から絶え間なく大粒の雨粒が降り注ぐ。
(この雨は、きっとクラウスの涙だ) 
 泣きたくても、泣けないクラウス。  
 その彼の代わりに空の神様は涙を流す。
(癒やしてあげられればいいのに) 
 自分は神様じゃないから、彼の代わりに泣くことはできない。  
 知ることができないから、彼の悲しみは分からない。 
 せめて、その悲しみが癒えるように何かしてあげたい。

『タキ・・・』

  この頃よく見せてくれるようになった、クラウスの笑顔。 
 ただ明るさだけを秘めた少年のような彼の笑顔が・・・。

「タキ」
 聞こえた声に、耳がぴくりと動く。 
 声がした方を振り抜くと、傘を差したクラウスがそこに立っていた。
「クラウス」
「遅いから、迎えに来たぜ」 
 にかっと笑ってクラウスが手を指し述べる。
「帰ろうぜ」 
 その笑顔が、大地を照らす太陽のような笑顔が・・・。  
 タキはゆっくりと近づき、そっと差し出された手に己の手を乗せた。 
 握りかえされた手はすっかり冷えていた。
「冷たい・・・」
「悪い。ずいぶん長い間、この雨の中にいたからな」
「なぜ?」
「紫陽花に見とれてた」 
「紫陽花に?」
「お前と出会った日も紫陽花がきれいだったからな」 
 クラウスが入れられた段ボールがあった場所にも紫陽花は咲いていた。  
 まるで彼を見守るように、その大きな花弁をかざしていた。
「せっかくだから、摘んでこればよかったかな」  
 ハハッと笑うクラウスの顔を見やって、タキはきゅっと手を握り返す。
「タキ、どうした?」
「摘んで帰ろう」
「えっ?」
「紫陽花」 
 タキはふわっと笑った。
「欲しいのだろう?」 
 彼の願うことで、自分に叶えられることがあるのなら叶えてあげたい。  
 それで、彼の悲しみが癒えるのなら。 
 彼が笑ってくれるのなら。
(クラウスの笑顔が・・・・好き)


 雨はまだ降り止まない。
 けれど、きっと雨が止んだ暁には、雲の隙間から天の光が差し込んで二人を包み込むの
だろう。
 そしてクラウスは笑うのだ。  
 まぶしい太陽のように、きっと。



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