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幻想庭園

いろいろ書き散らしてます。 なお、掲載している内容につきましては、原作者様その他関係者様には一切関係ありません

タキの鯉のぼり

テーマ 鯉のぼり 

 百日の薔薇  クラウス+タキ ほのぼの

 12の月の物語 5月のお話



 この国では、雲一つない澄みきった青空に鯉のぼりがたなびく様子を「鯉の滝登り」と
呼ぶ。

「って、はずじゃなかったのか?」
「何をしているクラウス。早く後ろに乗れ」
 ビチビチと全身をくねらす鯉の背に乗ったタキが、こいこいとクラウスを手招きする。
「急げ、出発するぞ」
「いや、出発って」
 クラウスは目の前の広がる光景に動揺と冷や汗を隠せない。
「それ飛行機じゃないだろ?なのに、何で中に浮いてんだよ・・・」
「鯉の滝登りだからに決まっている」
 バカか貴様と近くにいたスグリが、あきれた声を出す。
「ライカンスロープと呼ばれた男が、鯉に乗るのが怖いとは」
「な、だれが怖いつった!誰が!!」
 クラウスは、むっかーと耳としっぽを膨らます。
「クラウス、乗らないのか!」
 タキの叫び声にクラウスは怒鳴るように返した。
「乗るよ。乗ればいいんだろ!」
 ドスドスと怒りの足取りで目にゴーグルをかけつつ鯉に近づき、その背にまたがる。
 ムラクモと違って、鯉はクラウスを振り落とそうとはしない。
 そのまま大人しく背に乗せる。
「よし、出発!!」
 タキの号令の元に、鯉の顔が天を仰いだ。


「うっ、うおわぁぁぁぁ」
 クラウスの叫び声が天に吸い込まれていく。
 鯉はあっという間に雲を突き抜け、青空へと舞い上がった。
 眼下に広がる光景にクラウスは息をのむ。
「これが・・・・タキの国・・・」
 森と海と見知らぬ風と。
「どうだ、クラウス。我が祖国は」
 先頭で、タキが誇らしげに笑う。
「ああ・・・悪くない・・・・・」
 感無量だとクラウスが笑った。



 

 

「おいおい、鯉に食われてるぞ」
 クラウスは、足下の光景にクスッと笑った。
 折りたたまれた、大きな鯉のぼり。
 顔の辺りだけが、ぷっくらと膨らみ、口から猫のしっぽの先がちょろりと出ている。
 すやすやという寝息がまで聞かれた。

 側面からそっとのぞき込んでみると、見るも愛らしい我が主が可愛らしい寝顔でぐ
っすりと眠っている。
 俺のために鯉のぼりを探しに行ったんじゃないのか?と、ちょんと鼻の頭を指の先で
つつく。

 突如現れた空にたなびく無数の鯉のぼりに、ぽかーんと見とれていたクラウスに、
タキがこの国におけるこの季節の習慣を教えた。
『アレは鯉のぼりというのだ。この初夏の頃、男子がいる家庭で掲げられるのだ』
 周辺の国から大昔に伝わった習慣で、男子の立身出世を願って掲げるのだと。
 この時期の風物詩であり、他の領ではこれを観光名所にしているところもあるという。
『おまえも持ってんのか?』
『もちろんだ』
 タキはえっへんと耳としっぽをぴんと立たせる。
『よい機会だ、私の鯉を見せてやろう』
 と閉まってある鯉を探しに行ったのがちょっと前。
 鯉を掲げるポールを立てるのを手伝っていたクラウスは、なかなか帰ってこないタキを
心配して探しに来て見つけたのだ。


「さて、どうするかね」
 探しに行った手前、早く見つけ出さないと三爺共が騒ぎ立てそうだが、さりとて
ぐっすり眠っているのを無理に起こすのも気が引ける。
「・・・くぞ、クラウス・・」
 むにゃむにゃと口走る寝言に、クラウスはまたもクスッと笑った。
「ったく、どんな夢見てやがるんだか」
 でもきっと幸せな夢に違いないとクラウスは、納戸の窓から見える空を泳ぐ鯉に目を
やった。 
 
 


『行こうクラウス、どこまでも』
『ああ、この空の果てまで・・・・・』
 タキとクラウスを乗せた鯉は、晴れ渡る空を、どこまでもどこまでを泳いでいった。



 

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