生まれた時から傍にいた。
あなたがいない世界など考えたことがなかった。
極北の地 アスガルド。
その王宮であるワルハラ宮の謁見の間で、二人は再開した。
「ただいま、戻りました、ヒルダ様」
「ジークフリート・・・・」
お帰りなさいと言ってあげたかった。しかし、それ以上は言葉・・・・。
「・・・・・っ」
「! ヒルダ様・・・・』
ぽろぽろと雪解けの雫のような涙をこぼし始めるヒルダに、ジークフリートは困ったような、途惑うような顔になる。
「ご・・ごめんなさ・・・」
「ヒルダ様・・・・」
「つぅ・・・」
あまりに胸がいっぱいで。
どれほど、この瞬間を待ちわびたことか。
「ヒルダ様、どうか泣かないでください」
ジークフリートは、困ったような表情を浮かべる。
それは、ヒルダがちょっとした茶目っ気や我が儘を言う時にジークフリートが浮かべる、あのいつもの表情で、なつかしくて、もう一度見たくて・・・。
ますますなくヒルダに、ジークは思わず苦笑するしかなかった。
「落ち着かれましたか・・・」
「ええ・・・・」
それでも、涙を拭った目元はまだ少し赤い。
だが、ジークフリ-トは安心したような笑みを浮かべる。
「よかった」
「えっ?」
「あなたが元に戻って本当によかった」
ジークフリートがヒルダに微笑む。それを見て、ヒルダも安心した。ジークフリートは、いつもその笑みを浮かべてヒルダを見守ってくれた。近ず離れずの距離からそっと。ジークフリートが、傍にいてくれる。その安心感の中でいた。
なのに、指輪をはめられたせいで、その安心感は奪い去られてしまった。
そして、あの屈辱。
でも、もう大丈夫。
ヒルダは取り戻したのだ。
ジークフリートを。彼が傍にいる日常を。
「もう、これで思い残すことはありません」
ジークフリートがすっとヒルダのそばを離れる。
「ジーク・・・?」
まるで親から引き離された子のような、そんな一抹の不安がヒルダの胸を襲った。
ジークフリートは、ヒルダからいくばかの距離を取り、臣下の礼をとり跪く。
「ヒルダ様、本日今この時をもちまして、このジークフリート暇をいただくたく存じます」