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幻想庭園

いろいろ書き散らしてます。 なお、掲載している内容につきましては、原作者様その他関係者様には一切関係ありません

黄金の薔薇 第11話

百日の薔薇 クラウス×タキ×クラウス クラウス女体化
アクア版1巻、2巻ベースでオリ設定があります。








 気がついたら草原の中にいた。
 足をなでる草がむずがゆくて、吹く風はさわやかでとても気持ちいい。
 子供の頃遊んだ、領内の森にそっくりだ。
 ふと見ると、目の前に見覚えのある少女が立っていた。
『エリーゼ』
 とっくの昔に捨てたはずの名前をいまでも呼ぶのは、この世で彼女だけだ。
「姉さん」
『どうしたの?一緒に遊ばないの?』
 姉さんが手を伸ばす。彼女だけがあの家でいつも優しくて手を差し出してくれた。
『いらっしゃい』
 その手を取ろうとして、ぐいっと右腕を引っ張られた。
 きがつくと、見知らぬ黒い髪をした女の子が立っていた。
『どこにいくの?』
 女の子は口を開いた。
『帰るんじゃないの?3人で』
 そう言って見上げた女の子の瞳は、自分と同じ金色の瞳だった。


「大尉、大尉しっかりしてください。大尉!!」
 あの爆発でも意識を失わなかったアズサは、必死に水の中をもがきながら沈みゆ
こうとするクラウスの体を支えていた。
「帰るって行ったじゃないですか。3人で」
 岸辺を目指しながら、アズサは必死に語りかける。
「だめじゃないですか。おなかの赤ちゃんを守らないと。母親でしょう」
 母親はこの世で最強の生き物なんですよと、アズサは叫んだ。


 決着をつけたベルクートは、鉄橋を抜けた列車の運転機関室から目前の封鎖た
鉄道の様子をうかがい、驚くべき光景を目にする
「なっ。フェルディナンド!?」
(信じられん。世界最重量級の大型戦車がこんな辺境の国にあるなんて)
 しかし、感心している場合ではない。むこうの照準はこちらに合わせられている。
「緊急ブレーキ。脱走に備えろ。陛下は先頭車両へ」
 ベルクートは指示を出しつつ、あのフェルディナンドの上に立つ人影をもう一度
確認した。
「やってくれるじゃないか。薔薇の師団長」



 フェルディナンドの上で、タキは内部に指示を送った。
「標準、正面機関車。装填、徹甲弾」
 よもやタキには機関車以外何も見えていなかった。
 クラウスの敵を討つ。
 それ以外は考えられない。考えない。
「発射用意。打ち砕け!!!」
 その瞬間、フェルディナンドの鼻が炸裂した。

 2発の砲弾を食らわされた機関車は大破脱線した。それでもベルクート達の命は
助かった。
「くそ。陛下、ご無事で」
 ベルクートは、とっさに庇ったエウロテ公妃の様子を確認する。
「まだ撃ち取りきれてなかったか」
 突如降ってきた声に、ベルクートは空を見上げる。
 そこには、朝焼けの空を背景に一人の男が立っていた。
 男は静かに、刀を抜くと、飛びかかってきた。
「陛下を!?」
 ベルクートは防戦のため銃を向けるも、相手の動きの方が早い。
 照準を合わせる前に銃を吹き飛ばされ、手のひらを貫かれ、地面に縫い付けられ
る。
「ぐぁぁ」
「この程度の痛み、クラウスが受けたものに比べれば比でもない」
 タキのベルクートを踏みつける足の力がさらに強くなる。
「くそっ、おまえ、おまえが。クラウスの今の男か」
 ベルクートはタキをにらみあげる。
「馬鹿な奴だ。こんな今更出てきた奴に命を張るなんて」
 その瞬間タキは、ベルクートを縫い付けている刀をぐるっと回した。
「ぐがぁぁ!!」
「タキ様!」
 さらに空から言葉が降ってくる。
「タキ様、どうかお治めるを」
 追いかけてきた、スグリが必死に言葉をかける。
「き、貴様ら。こ、このような狼藉を働いてただですむと思うな」
 ぶるぶると震える男の銃を筆頭に、次ぎ次ぎと惨敗兵からタキに対して銃が突き
つけられる。
「タキ様!?」
 スグリが援護の銃を向ける。
「私のベルクートがあっけなくやられてしまったこと」
 エウロテ公妃が声を出した。
「犬をついばんだ満足感で油断したのかしらね」
 その瞬間、タキの刀の切っ先が公妃に向かって一直する。
「姫様!?」
 男が公后を庇うように体で包み込んだ。
 そこへ、ダテがやってきて叫んだ。
「タキ様。アズサが見つかりました。クラウス大尉も一緒です」
 その男の体を貫く直前、タキは動きを止めた。
「ほんとうか?」
「はい。ここから2キロ下流で」
 素早く構えを説いたタキは、列車から脱出し、外に止めてあったジープに乗り込
んだ。


 落下地点から2キロも流された二人の体はすっかり冷え切っていた。それでも
アズサは意識があり。応答にも答えることができた。
「大尉が。大尉を先に助けて。赤ちゃんが・・・」
「大丈夫だ。すぐに助ける」
 しかし、クラウスの容態を見た医療班は絶望の声を上げる。
「息が止まってる」
「脈を急いでとれ」
「腹部の様子はどうだ。流産の可能性は?」
 そこへ、タキを乗せたジープが到着した。
「クラウス!」
 タキは、アズサには目もくれずクラウスの元に駆け寄る。
 しかし、触れようとするタキを医療班が押しとどめる。
「いけません、タキ様。汚れます」
「離せ!」
 彼らを振り切り、タキはクラウスにすがりついた。
「クラウス。クラウス」
 必死で名を呼び、息がないことを知ると、その唇に口づけ息を吹き込んだ。
 何度も、何度も。
「タキ様、もう・・・」
 いつの間にやら到着していたスグリが声をかけるが、タキは振り払う。
「だまれ、愛する女一人助けられなくて、何が領主だ。しん華の者だ」
 タキは、熱を分け与えるようにクラウスの頬に己の頬を寄せる。
「クラウス。クラウス。頼む帰ってきてくれ。まだ何にも言ってないんだ。このま
ま何も告げさせぬまま、おまえはいくのか。おまえと私の子とともに、私を置いて
いくのか」
 行くなとタキはクラウスの耳元で叫んだ。


 声が聞こえる。
 私の名を呼ぶ声がする。
『あの人は誰?』
 姉が聞いてきた。
「可愛い人。まっすぐで生真面目で、一生懸命で。領民思いで」
 でも、そこに私はいなかった。
『いるよ』
 女の子が声をあげた。
『いるもん。だってあの人言ってたもん。二人は互いに愛し合ってるから、二人の
子供産まれたら、絶対に幸せになるって』
「あのひとって?」
『わかんない。でも言ってたもん』
 だんだんとべそをかきそうな女の子にクラウスは、向き合った。
「そうか。タキはあたしのこと愛してくれてるのか」
『うん。だから帰ろう。帰るんでしょう3人で』
 女の子は、クラウスの手を取った。
『でも、彼はあなたのことを呼んでないわ』
 姉が言った。
『呼んでないのにどうしてそう言えるの』
『だって』
「大丈夫。あたしが呼ぶわ」
 クラウスは姉に毅然と言い放った。
「あたしが呼んであげる。だから帰ろう」
『うんでも、今呼んでほしい。今呼んで』
 女の子はその場で飛び跳ねた。
「生まれたあとじゃだめ?」
『いまがい~』
 全く、いったい誰に似たのやら。
 しょうがないなと、クラウスは決めた。
「じゃぁ、あたしの名前をあげる。でもそのままだとこっちで使えないから、皇国
風にしようね」
『なんて言うの?』
「あのね・・・」
 こしょこしょっとクラウスは女の子の耳元でささやいた。
「どう、気に入った?」
『うん』
 女の子はその場でぴょんぴょん跳びはねた。その子の手を取って、クラウスは
姉に別れを告げた。
『いくの?』
「うん」
『またつらい目に遭うかもしれないのに』
「でも、タキはあたしの名前を呼んでくれた」
 はじめの名前を捨ててから、自分はクラウスとして生きた。
『今のあたしはクラウスなのに。その名をタキは呼んでくれる。それだけで安心で
きるの』
 なぜなら、彼は運命の人なのだから。


 目を開けると、雨に濡れた夜の闇が広がっていた。
 その中を一筋の閃光が走る。
「タキ・・・」
「クラウス」
 タキはクラウスを抱きしめた。
「ただいま」
「おかえり」



 ローゼンメイデン司令部には、その名を象徴する5月の薔薇が咲き乱れていた。
 その館へ向かって、黒塗りの車が数台走り込んでくる。
 部屋の窓際から、外の様子を見下ろしていたタキはため息をついた。
「めんどうなのがきた」
「しかたがないでしょ。エウロテ公妃を預かってるんだもの」
 その後、エウロテ公妃は、レイゼン領で拘束監禁することになった。その中には、
ベルクートもいる。
 この間、散歩時間がちょうどかち合い、ベルクートとあったのだが、クラウスの
姿を見たベルクートはいささかショックを受けたようであった。
 無理もない。
 実は密かな恋心を抱いていた女が、すでに他人のもので妊娠しているのだから。
 少し前まで激しい戦闘をし、爆発で吹っ飛ばされ、冷たい水につかったというの
に、クラウスの腹の子は、順調に育っていた。
 これは男の子で間違いないとハセベ達は言っていたが、この子がどちらであるか
はクラウスだけが知っていた。
 それに肯定するかのように、ぽこんと腹の子が蹴った。
「動いた」
「ほんとうか」
 タキが慌てて腹にすり寄ってくる。
「・・・・・感じん」
「まぁ、タイミングよね」
 ふふっと笑って、クラウスはタキを抱きしめた。
「大丈夫。何勝手も私がついているから」
「ああ」
 そうして二人は口づけた。
 戦争が終わる4年前の出来事であった。




 終戦から20年後。
 突如、レイゼン家当主は隠居を表明した。
 次の領主は女性で、若い身空で領主の座を継ぐのが嫌だったのか、清浄なる
宸華の者でありながら酒も飲み、たばこも吸うという、前代未聞の不良領主となった。
 しかし、それで領内の状況が悪化することはなく、逆に成長を遂げることになる。
 いつしかレイゼン領内ではこのようにささやかれるようになった。
 彼女の黒い髪のような闇の中をさまよっても、彼女の黄金の瞳の輝きが消えぬ
限りは、いつしか闇から逃れられるだろうと。




  
 
 
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