いろいろ書き散らしてます。 なお、掲載している内容につきましては、原作者様その他関係者様には一切関係ありません
弁慶草(ベンケイソウ) 静穏、平穏無事
百日の薔薇 クラウス+タキ
肉球cafe2にあったラフ画から思いついた話。
戦う者にとって、最も嫌悪する行為は背中をとられることである。
なぜなら、背中には目がないから。
生と死の境が、春の日の水面に浮かぶ溶けかけた薄氷よりももろく薄い戦において、
それは命取りでしかない。
だから、戦う者の後ろに立つこともまた、命取りと言えよう。
一流の戦士であればあるほど、命の危険に対する敏感さと敏捷さと反撃力はすさまじい。
まして、戦場にその身を置いているのならば、その者は最早、人と称することはできないだろう。
クラウスもまた、その一人。
狼男(ライカンスロープ)の二つ名は、戦場に立つその姿を目にした者達からの畏怖と敬畏の尊称。
彼もまた背中をとられるのを嫌い、その状況にその身をさらせば、己を狼と変えて、その鋭い牙で相手ののど笛を食い破る。
なのに・・・・・・・。
「く・・・・・・ぅ、く・・・・・・ぅ」
戦場に置かれ、絶え間ない緊張に包まれた身を優しく包み込むような、やわらかな
陽の光とおだやかな風が、吹きなでる草原の上で、クラウスは愛用の銃を解体し、肌触りのいいやわらかな布で丁寧に部品を磨いていく。
後ろをとられ、しっぽまでとられているというのに、その顔はおだやかだった。
唯一の武器を解体(バラ)してしまった今、背後から銃を突きつけられれば、クラウスは両の手を上に上げざるを得ない。
そんな状況など、クラウスは決して作らない・・・・・はずなのに。
出会って、しまったのだ。
後ろをとられてもかまわない相手。
背中を預けられる相手。
それは、戦士にとって夢であり、終わりの始まりでもある。
きゅむっとしっぽが抱きしめられた。
振り返ってみると、黒い猫が、クラウスのしっぽを抱き枕のように抱いて眠っていた。
その寝顔のなんと愛らしいことか。
その心がしっぽにまで伝わったのか、わずかばかりでも動こうとすると、たちまち猫が追いかけてきて、逃がさぬようにと抱き伏せてしまう。
胸にしっかりと抱いて、足を絡めて、しっぽを絡めて。
その姿に思わず頬が緩んだ。
「そんなに好きなのか?俺のしっぽが」
どうせなら、この身を抱きしめて欲しいとクラウスは笑った。
風が吹いた。
穏やかなままでいられる主従を抱きしめるように。
「いい夢見ろよ」
クラウスは、なごやかに目を細めてつぶやいた。
どうか、タキの見る夢が幸せなものでありますように・・・・。