百日の薔薇 クラウス×タキ×クラウス クラウス女体化
アクア版1巻、2巻ベースでオリ設定があります。
『連れて行って』
「彼女」の手が差し出される。
けれど、青年はすぐにその手を取らなかった。
そもそも女性に手を差し出されること自体が男の沽券に関わることであるのに、それ
さえも恥と思えなくなるほどの強い不安が、青年の胸に渦巻いていた。
『大丈夫。女はそんなにヤワじゃない。とくにあたしはね』
彼女は悠然と微笑んだ。
週末の度に訪れていたあの町外れの店で出迎えるのと同じように。
天気は、雨。
薄暗がりの中、彼女の黄金の髪と瞳は、まるで太陽のように輝いていた。
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皇紀1928年、皇国国境付近。第15機甲師団「ローゼンメイデン」前線基地
本部。
西方諸国連合軍の前線部隊との戦闘を終えた兵士達が続々と帰投し、三葉の薔薇
の紋章をつけた戦車も無事帰投した。
「タキ様、お帰りなさいませ」
「お帰りなさいませ」
基地を統括する高級士官達が出迎えるのは、タキ・レイゼン。
先の戦闘指揮官にして、第15機甲師団師団長である。
ハッチを開け身を乗り出したタキは、指示を出しつつ周囲を見渡し、にわかに目
を細めた。
「クラウスは、どうした?」
出迎えに出ていたハセベ侍従長が答えようとしたとき、一台の大型オートバイが
走ってきて戦車の脇で停まった。
「お待たせ」
乗り回していたのは女性で、ゴーグルをとると金色の瞳がタキを見上げた。
「クラウス・フォン・ヴォルフシュタット大尉。ただいま戻りました」
「ご苦労」
「それだけかよ?冷たいな」
悪態をつくクラウスをタキは一瞥すると、戦車から降りた。
「司令部へ戻る」
タキは颯爽と歩き始め、クラウスは肩をすくめてその後を追った。
「きれいな人ですね・・・」
その様子をそばで見ていた少年がクラウスに見とれている様子を見て、ハセベは
苦々しい顔をする。
「どこの馬の骨か知らん女だ。いつも帰投が遅いし、どこで何をしているのやら」
ハセベの言葉に少年は驚く。
「ですが、彼女がタキ様の騎士なのでしょう?」
少年も噂は聞いていた。
レイゼン家に100年ぶりに騎士がついたと。
しかもその騎士は女性であると。
女性が騎士になるのは他領で一例があるだけで、レイゼン家にとって前代未聞の
出来事であった。
「遠くからしか見えませんでしたが、タキ様の砲撃の間から走り抜けてきた姿は炎
のようで・・・」
衝撃と爆音が炸裂する中を猛烈なスピードとテクニックで走り回る彼女の姿。
金の髪が舞い上がる粉塵の中で鮮烈に輝いていた。
「すっごくかっこよかったです。異国の地では戦場で闘う女の人を戦女神(ワル
キューレ)というって聞いたことがありますけど、まさしく彼女はそうだと思いま
す」
「女の騎士など、恥さらしなだけだ」
ハセベは、吐き捨てるように言うと本部へさっさと戻っていった。
唖然として見送る少年の横をすり抜け、タキと一緒に登場していた砲撃手兼タキ
の主治医であるスグリがハセベの横に並ぶ。
「口を慎め。彼女を卑下することはタキ様の評判を貶める」
「わかっておる」
ハセベは憤懣やるせない表情を浮かべる。
「だがなぁ、私はタキ様に楚々として清らかで、血筋も申し分ない良家の子女を
そばに置いていただきたかったのだ」
ハセベの言うところはつまり、皇国の婦女子の理想というものだ。
立てば芍薬座れば牡丹。歩く姿は百合の花。とまではいかなくても清楚で慎まし
く、口やかましくなく常に一歩下がって夫を立て、そっと寄り添うような女性だ。
もちろん教養深く、家庭的であることは言うまでもない。
「それをなんだあの女。女なのに男のような口調でしかもタメ口だわ、態度はでか
いわ。たばこは吸うし、酒も飲む。なにより許せんのは肌をさらすことだ。この間
など司令部内をシャツのボタンを上まできちんと留めないまま歩き回りおって!」
おかげで、シャツの隙間からこぼれるクラウスの豊満な胸の谷間に司令部内の将
校達視線が集中。うぶなもの達がトイレに駆け込むのが続出した。
その苦情を持ち込まれるのはいつもハセベであった。
「彼女を連れてくるのを許可したのはおまえ達だろう?」
「許可などしとらん!」
ハセベは強い口調で告げて、すぐにはぁ~~~と深いため息をつく。
「タキ様は、すでに成人し、領主たる自分がことをなすのになぜおまえ達の許可が
いるのだと、そう仰せになられた」
頭が痛そうなハセベの言葉にスグリも片眉をつり上げる。
「タキ様はすでにあの女に取り込まれておる。あの女の行動には注意せねば。レイ
ゼン家の危機だ」
タキは司令室で本日の戦闘報告を受け取った後、救護所へ向かった。
「マイスター」
「タキ様。いけません、あなたのような方がこんなところに来ちゃぁ」
「・・・・負傷名簿からあなたの名前を見たときぞっとした」
タキはマイスターの包帯の巻かれた手を取り、そっと唇を寄せた。
「手は刀匠の命だろうに」
「戦争ですから、仕方がないですよ。国がなくなるのよりましだ」
けれど、マイスターは手をさすりながらつぶやいた。
「あなたに太刀を作って差し上げたように、あなたの御子に太刀を作って差し上げ
られないのは残念です」
タキが救護所を出ると、外でクラウスが待っていた。
「お帰り」
「ついてくるなと言ったはずだ」
「泣いてるの?」
クラウスがタキの目元に白い指を添えると、タキはその手をパンッと振り払った。
「さわるな」
「・・・・馬鹿だな。男って奴は」
クラウスはクスッと笑って、
「シャワーを浴びたら部屋に行くから待ってて」
「・・・・・いらぬ」
「そんなこといわずに、さ」
クラウスは、包み込もうとするかのように両腕を広げた。
「いらっしゃい」