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幻想庭園

いろいろ書き散らしてます。 なお、掲載している内容につきましては、原作者様その他関係者様には一切関係ありません

女王の結婚 第4話 炎の父娘


 光の塔を復活させた光の女王は、宮殿には帰らないことにするが、追っ手が。
 逃れようとしたらなぜか地下に落ちてしまい・・・。




エテルナ・ノクティス 闇の王×光の女王 光の女王主人公
 原作で闇の王がやったことを光の女王がやったとしたらどんな感じになっただろうと
思い、書きました。
 立場が逆転してるので、キャラの性格も原作とは違います。
 なんでも大丈夫な方のみお読みください。















「さぁ、これからどうしようかしら」
 塔の上部から世界を眺めながら女王はこれからのことを考えていた。
 一度外に出た以上、エテルナの宮殿にはもう戻れない。
(何が戻るよ。あそこは私の宮殿では無いのよ)
 いけないいけないと女王はかぶりを振る
「そもそも愛妾扱いに怒って出てきたんじゃない。戻るも何もないわ。さぁ、
せっかく脱出したんだし、このまま世界を旅するのもいいわね」
 緩衝地帯も気になる。光も闇の混在する地帯。いったいどんなところなのだろう。
「面倒なのは、追っ手ね。本当に出す気なのかしら」
 本来、破れた後転生し、力を蓄えるために世界を放浪する王を執拗に妨害する
ことは無粋とされている。力を蓄えた王を玉座で出迎えて対峙することに矜持があ
り、己の真の実力を示せるのだ。
 とはいえ、今の闇の王の状態では油断はできない。
 目覚めた光の女王を傍に置くのみならず、女王が捨てた剣と鎧を再び与えようと
したのだ。
 自ら今の平穏を壊すまねをしようとする闇の王の思惑は、計り知れない。
「彼とは長きに渡り戦ってきたけど、戦闘狂いではなかったはずなのに」
 共にカオスに呼ばれ、呪いをかけられた際、懺悔する自分の隣で彼も静かに絶望
していたはず。
「今の闇の王とは戦いたくない」
 相手は知らぬこととはいえ、彼は自分の夫なのだ。
 夫殺しにはなりたくないし、ワームホールの対処法も見つけた今、エテルナの平
穏は壊したくなかった」
「とにかく、今は塔を降りないとね」
 塔の復活は下に居る者達にもわかっただろうし、エテルナの宮殿に伝わるのも時
間の問題だろう。
 光の塔には闇の王も昇ってこられるのだ。
 彼がここに来ないうちに去らねばならない。
 今後のことや闇の王の対処法は、とりあえずこの塔を離れてから考えることにし、
光の女王は、地上へ通じるポータルがある至聖所に戻る。
 ポータルの中に入る前に、女王はもう一つだけ力を取り戻した。
「光の矢-セレスティアル・コンパニオン-。久しぶりね。また一緒に行きましょ
う」
 剣は捨てたが、平穏とは言えエテルナの各地には、危険な魔物や盗賊などが徘徊
している。対処する力は必要だ。
 光の矢は、女王自らが作りだした。彼女の強い力となる。
「さぁ、これで準備は整ったわ」
 今度こそ旅立とうと、光の女王はポータルの中に入った。



 しかし、塔の下には光の女王の予想より早く、宮殿からの捕縛隊が到着していた。
「ようやく出てきたか、光の女王よ」
 全身を輝かぬ黒い鎧で身を包んだ隊長らしき男が、光の女王に向かって冷静な
口調で語りかける。
「長きに渡り時を止めていたこの塔が再び動き出した。あなたもようやく運命を
再開したようだ」
「その姿とその語り口。闇の王の精鋭。暗黒の騎士団か」
「いかにも。そして私が暗黒騎士団団長。前の戦いでは光の騎士団長に阻まれ、
あなたとの戦いとはならなかったが、このようなチャンスに巡り会えるとは。
この身は滅べど、魂をこの鎧に宿して王にお仕えし続けたかいがあったというもの」
 その言葉に光の女王は驚きを隠せない。
「まさか、当時の団長本人なの?」
「いかにも。光の騎士団長があなたと共にあるように、私もまた闇の王と共にある」
「じゃあ、私のこと覚えてるの?」
「闇の王の宿敵を忘れたことなど一度もない」
 その言葉を聞いて、光の女王は、

「うぅ・・・・・」

 顔を両手で塞いで、泣いた。
「あの・・・・・、女王よ。そのような想定外の態度を取られると困るのだが・
・・」
「だって、うれしくて。みんな、私のこと本物の光の女王だなんて思ってないし、
神聖な戦いが夫婦喧嘩だなんて言われるし」
「夫婦・・・・え・・・?」
 暗黒騎士団団長は、フルアーマーで身体がないので仮面の下にどんな表情を浮か
べているかわからないが、明らかに困惑していた。
「けど、闇の王以外にも私のことをわかってくれる人がいるなんて・・・」
 涙を拭う光の女王。
 その涙は真珠のように輝き、うれしげに涙を拭うその仕草は悲劇に見舞われた
美しき亡国の女王のようだ。
 鎧も剣もなく、暗黒騎士団への戦意はみじんもみせず、ただただ感動に涙する
光の女王は、とても光と闇の戦いで語られる光の女王と同一人物とは思えない。
(いや、しっかりするのだ。この気配、彼女は確かに光の女王だ)
 何度も対峙したことから魂で、女王の姿と彼女の鮮烈な光と彼女への憎しみを
覚えている暗黒騎士団団長は、つられないが、部下達は世代交代を重ね、光と闇の
戦いが伝説となっている世代だった。
 彼らは、光の女王の光り輝く美貌に惹かれ、涙する姿に動揺し、本当に目の前に
いる女性が目的の人物なのかと疑いはじめる。
「本当に、彼女が伝説の光の女王なのか?あの美しい人が?」
「実は違うんじゃないか。ほら、隊長は魂の存在だし、実は見えてないとか」
「なぁ、本当に彼女と戦うの?俺、嫌なんだけど」
(ぬぬ、まずい・・・)
 このままでは任務どころか、隊の統率に影響が出る。
(だが、陛下からは、なんとしても光の女王を捕らえよとの命令が出ているのだ。
命令には逆らえん)
 暗黒騎士団団長は自ら剣を抜いて、女王に突きつける。
「光の女王。丸腰のあなたに剣を向けるのは自分の正義に反しますが、闇の王のご
命令です。一緒に来ていただきます」
「暗黒の騎士団長よ。あなたの闇の者ながら正義を大事にするところは、敬服する
わ」
 でもね、
「私は、闇の王の下へは帰らない」
 光の女王は素早くクリスタルアローを放つと、一瞬で暗黒騎士団の後ろに抜ける。
「しまった」
「じゃあね」
 光の女王はもう一度クリスタルアローを放ち、さらに遠くへ行ってしまう。
「クリスタルアローの飛距離はそう遠くない。早馬を出せ。なんとしても捕まえろ」
 暗黒騎士団団長は素早く命令を出し、女王捕獲に向かう。
 ここは、紫の花の群生地故に高い木々がなく女王の姿は見えている。
 しかし、一瞬女王の姿を見失う。
「どこへ行った?」
 暗黒騎士団の隊員達は見失った周辺を探すが、光の女王の姿はどこにもない。
「まさか、クリスタルアローでこんなに早く?」
「探せ。もっと捜索範囲を広げるんだ」
 隊員達は広範囲に散らばっていった。
 足下には花が所狭しと咲き乱れていたため、彼らは気づかなかった。
 女王が姿を消した辺りに、ちょうど人一人が通れるくらいの穴が開いていたこと
を。


 ***********


「いたたたた・・・・・」
 光の女王は痛みをこらえながらなんとか身体を起こす。
「なんで、こんな所に穴が」
 まさか、クリスタルアローで着地した地点に穴が開いているとは思わなかった。
 簡単なトラップに引っかかったようなまぬけっぷりだわと言いながら、女王は
自分自身に癒やしの魔法をかけ傷を癒やす。
「ふぅ。でも、これで騎士団を捲けたわね」
 光の女王は、立ち上がると天井に開いた穴を見上げた。あそこから落ちたらしい。
  クリスタルアローを放てば地上に出れそうだが、その瞬間騎士団に捕まるだろう。
 幸い彼らの声が聞こえてこないので、どうやらこの穴の存在や女王がここから
落ちたことには気づいていないようだが、ここからは脱出できない。
「別の道を探さないと」
 周囲を見渡すと地下なのに明るくキラキラときらめいている。地表から顔を出し
ている光のクリスタルのおかげだ。
 光の塔の地下は、光のクリスタルが産出するのでそれを掘り起こすために坑道が
無数に広がっている。光のエネルギーの源である光のゆりかごもこの地下さらに奥
深くにある。
 その講堂を作る輩を鉢合わせをするのは厄介だが、この坑道を利用すれば、闇の
王に知られずに彼から遠く離れられるはずだ。
「さぁ、いこう」
 光の女王はクリスタルの坑道を歩き出した。


 坑道内は、クリスタルの結晶からできた魔物が多く生息するが、光の矢がある
女王の敵ではない。
 しかし、問題はそっちではない。
「参ったわね。東と西、どっちに向かってるのかしら?」
 落ちたのが突発的だったので、光の塔から東に向かっているのか、西に向かって
いるのかわからない。
「せめて、何か目印があればわかるのだけど」
 その時、
「助けて・・・」
 坑道の奥から女の子の声が聞こえてきた。光の女王はその声がした方へ急ぐと、
旅装束の女の子が痛そうにしながら地面に座り込んでいた。
「あなた・・・誰・・・?」
「動かないで。どうしたの?」
「穴から落ちて。出口を探してこの坑道を通ってたら、魔物に襲われて・・・・」
「打撲と捻挫、それにクリスタルの欠片が刺さったのね。見せてちょうだい」
 光の女王が傷口を確認し、刺さっているクリスタルの欠片を抜くと、自らの癒や
しの力で少女の傷を癒やしてやる。
「ここの魔物に毒を持つ生物はいないから、これでもう大丈夫よ」
「すごい、全然痛くない。ありがとう。こんな力が使えるなんて。あなたは女神様
なの?」
(女神・・・か・・・・)
 自分を慕う者達からよく言われた言葉だ。そう言われるのはいつぐらいぶりだろ
う。その言葉が重くなったのも。
「まさか、不思議な力が少し使えるただの人間よ。貴方はどうしてここに?見たと
ころ採掘者じゃないようだけど」
「誘拐された父を助けに来たの」
 なんとも健気なことを言う少女の話を女王は聞いた。
「父は村一番の鍛冶師なの。でもある日、火の狂信者と名乗る奴らが現れて父を
連れて行ったの」
「火の狂信者? 溶鉄教団ね」
 溶鉄教団の信者は人間では無く、火を崇め、神々に捧げる武器や防具など様々な
ものを作っている。光の塔の制御装置を作ったのも彼らのはずだ。
(でも彼らの教祖である火の鳥は温厚な性格のはず。いったいなぜ?)
「彼らの後を追って塔の近くまできたわ。兵士さんに聞いたら火の狂信者のことを
知っていてとても危険な奴らだから近づくなって。それにここは一般人は立入禁止
ですぐに離れろって言われて。花畑の中を歩いていたら穴に落ちたの」
 鍛冶師の娘の落ちた穴とは、もしかしたら自分が落ちた穴と同じものなのかもし
れない。
「そうだったの。確かに彼らは危険と言われているけれど、不用意に近づかなけれ
ば害はなさないわ。そんな彼らが、わざわざあの鋳造所の外へ出て人を誘拐する
なんてよほどのことよ。あなたのお父さんは、何かしたの?」
「そうなの?なら・・・・あの素材かしら」
「素材?」
「ある日、父は成型できない謎の素材を見つけたの。父はそれを何とかしようと
日夜研究を続け、ついには鋳造所の場所を探り当てようとしたの。鋳造所は、私達
の間では伝説的な存在で、代々語り継がれている場所なの。そこではありとあらゆ
るものを成型し、生み出せるって」
「鋳造所は溶鉄教団の集会所よ。彼らはあなたのお父さんを危険視したのね」
 しかし、殺すのでは無く誘拐するところを見ると彼女の父親は、よほど腕の立つ
鍛冶師らしい。
「たぶん、あなたのお父さんはまだ生きているわ。彼らは一定以上の実力を持つ
鍛冶師には敬意を払い、仲間に引き入れようとする習性を持つから」
「あなたは彼らに詳しいのね。お願い、お父さんを助けて。私のたった一人の家族
なの」
 泣きつく鍛冶師の娘を女王は慰める。
「泣かないで、きっとあなたのお父さんを助ける方法はあるはずよ。まずはここを
出ましょう。ここは危険だわ」
 さぁと鍛冶師の娘を立ち上がらせて女王は、出口を見つけるために坑道の奥へと
進んだ。

************


「あなた、ゴブリンを見た?」
「ううん。見てないわ」
「そう。ここはすでに掘り尽くしたようね」
 ゴブリンは、地下に住む魔物でエテルナ中のいろんな場所を掘っているが、光の
クリスタルを掘っているゴブリンも居たはずだ。彼らは様々な場所を掘り進む習性
があるため、それを利用して様々な地下道が作られている。
(たしか、英雄の安息所の墓所の地下とつながっていたはず)
 そこに合流できれば外には出られる。目的方向と反対になるが、少女を逃すため
だ、仕方がない。
 その算段で、女王は鍛冶師の娘を連れて、坑道を進んでいった。

 坑道は魔物がいるが、クリスタルの輝きできらめいて、明るく進みやすいのが
助かる。
「綺麗・・・」
 鍛冶師の娘は坑道を見るのは初めてらしく、うっとりとする。
「光の塔の近くでは、光のクリスタルが採れるの、地表から奥へ掘り進むめば進む
ほど純度の高いものがとれるのよ」
 道を塞ぐ魔物を光の矢で倒しながら女王は説明する。
 ある程度降りたところで今度は横の道へ行く。
 記憶が正しければ、この坑道を進めばやがては英雄の安息所にある墓所につなが
る地下道へつながるはずだ。
 しかし、そこへ行く前に女王は火の狂信者の一段に遭遇する。
 その中に、あきらかに人間らしい体格のよい白い髭の老人がいた。
「お父さん」
 鍛冶師の娘は名を呼ぶが、老人は一瞥もくれずに、火の狂信者達と坑道の奥へと
去って行った。
「どうして?私がわからないの?」
「おそらく彼らに洗脳されているせいね。やはり、彼らは、あなたのお父さんを
仲間にしたんだわ」
「助けに行かなきゃ」
「待って、あなたは外に」
 女王が止める間もなく鍛冶師の娘は走り出し、
「まったくもう」
 光の女王は鍛冶師の娘の後を追った。

 火の狂信者達も乗ったであろうエレベーターを降りると溶岩の河のほとりにある
巨大な鉄の扉を見つけた。
「ここが、鋳造所の入り口よ」
「ここが伝説の。この中にお父さんが」
「待って、あなたはこれまでよ。ここから先は私がゆく」
 今度こそ、光の女王は鍛冶師の娘の行く手を阻んだ。
「でも・・・」
「私はこの中の仕組みをよく知っているし、彼らの教祖とは旧知の仲よ。ここに
いて、話をつけてくるわ」
 私を信じて嫁げて、光の女王は鋳造所の中に入った。


「まずは三つの炉を止めないと」
 光の女王は、鋳造所内を駆け回り、要である炉に向かった。
 炉には、少女の父親である鍛冶師がおり、彼の目は異様に光っていた。
 洗脳されている証拠だ。
「光の女王。お久しゅう」
 洗脳の主が鍛冶師の身体を借りて女王に挨拶をする。
「久しぶりね。単刀直入に言うけれど、その老人を解放してくれないかしら」
「女王。この者は禁忌に触れたのです。よもや人間の世界に戻すことはできません」
「でも何もいきなり誘拐することはないでしょう。その老人の娘がか弱き身一つで、ここまで追ってきたのよ」
「残念ながら女王。あなたの頼みでもこればかりは聞きません」
「仕方が無いわね。なら直に会って片をつけましょう」
 光の女王は炉を壊した。
 鍛冶師は姿を消したが、次の炉で出会えた。
「女王よ、どうか引いていただきたい」
「できないわ。少女との約束なの」
「あなたが長い間現れず王に戦いを挑まないために、世は平和となり武具を求める
者はすっかりいなくなった。私を崇める者は年々少なくなり、今ではわずかしかな
い」
「お前は素晴らしい腕を持ってるのに、どうしてそれを武具ばかりに注ぐの」
 光の女王は二つ目の炉を破壊した。
 鍛冶師は姿を消し、最後の炉では困惑と怒りを露わにした。
「やめよ、やめよ。いくら光の女王でもそれ以上は許さぬ」
「誇り高かったお前がすっかり狂ってしまって。光に属する炎から生まれながら
猛々しい闘争心から闇に堕落した鳥よ。おまえにひとときの眠りを与えよう」
 女王は最後の炉を壊し、教団の教祖である火の鳥がいる部屋へ向かった。
 火の鳥フェニックスは怒っていた。

「許さぬ、許さぬ、許さぬ」

 フェニックスが羽を羽ばたかせる度に、溶鉱炉内の溶岩がぶくぶくと泡立つ。

「戦、戦、戦。戦いだけが我が心を高ぶらせ、我が存在を誇らせる」

 フェニックスも、闇と光の両王と同じように不滅の存在。
 倒されても炎の中から再び再生する。
 それが戦士達から不滅の炎の力を与えると崇められたが、今や忘れ去られようと
している存在となっていた。
(私と同じね)
 彼の気持ちはわかる。
 忘れ去られて、実像をゆがめられることのなんと腹立たしいことか。
(けれど、だからと言って他者を無理矢理信望者にすることは間違っているわ)
 光の女王は、容赦のない火の攻撃をかいくぐりながら、光の矢でフェニックスを
撃ち落とした。
「今一度炎の中へ帰り、灰の中に哀しみを置いて蘇るがいい、誇り高きフェニック
スよ」
 炎の羽根が抜けていくフェニックス。
 その目からは狂気が消えていた。

「久しぶりによき戦いであった。感謝する女王よ」

 火の鳥は自分の能力を女王に与えた。
「いつ、闇の王に戦いに挑むのだ?その時を心待ちにしている」
「ええ・・・・・いつか、ね」
 世界の終わりまで来ないであろうその時を待ち望んで、フェニックスは灰となっ
て眠った。




 扉の外に出ると、少女の父親である鍛冶師が放心状態で突っ立っていた。
「大丈夫?」
「あなたが・・・・助けてくれたのか?」
「ええ。フェニックスは眠りについたわ。さぁ、ここから出ましょう。あなたの娘
があなたの帰りを待っているわ」
「いや、それはできん」
 鍛冶師は首を横に振った。
「わしは禁忌の素材に手を出した。あの鳥に操られたのはその罰だ。あの鳥はやが
て蘇り、わしはまた悪夢へと引きずり込まれるだろう。娘は巻き込めん」
 鍛冶師は、小さなお守りを光の女王に差し出した。
「これを娘に渡していただきたい。娘のために作った物だ。これを見せなければ娘
は永遠にわしを探し続けるだろう」
「ここにいるつもりなのね」
 フェニックスは、自分を崇める者を求めていた。
 かつて鍛冶師の多くは火を崇め、武具に火の力を込めるため火の化身たる
フェニックスを崇めたが、戦が無くなるとやがてそれは忘れ去られた。
 この鍛冶師である老人が傍にいることは、いくばくか鳥の心の安らぎとなるかも
知れない。
「わかったわ。約束する」
「見知らぬ方。ありがとう」
 お守りを受け取ると光の女王は鋳造所を後にした。
 女王は待っていた鍛冶師の娘にお守りを探す。
「教祖と話はしたわ。でも、結局話が割れてしまって。教祖は倒したけど、狂信者
と共に洗脳されていたあなたのお父さんも亡くなったわ」
「そんな、お父さん・・・・・」
 泣く鍛冶師の娘に、女王は託されたお守りを渡す。
「でも亡くなる直前に洗脳が解けて、これを渡されたの。あなたのために作ったそ
うよ」
「お父さん、私を忘れていなかったのね」
 鍛冶師の娘は、お守りを大切に握りしめる。
 ふと、女王は自分の家族のことを思い出した。
 自分にも両親が居たはずだが、どうなったのだろう。
 光の指導者に選ばれ、闇の王との戦いに行く際に別れたきりだ。
 もう顔も声も名前すら思い出せない。
「それを大切にするといいわ」
 鍛冶師の娘は、それを見る度に父親のことを思い出すだろう。
(私には、何もない)
「そして、街に帰って父を弔いなさい」
 親を弔えることは、きっと幸せなことなんかじゃないかと女王は思った。
 自分は、そんなことはできなかったから。
「ありがとう」
「さぁ、今度こそここを出ましょう」
 光の女王は、鍛冶師の娘の涙を拭ってやると一緒に地上を目指した。



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