いろいろ書き散らしてます。 なお、掲載している内容につきましては、原作者様その他関係者様には一切関係ありません
薔薇のために死ねる。
そのなんと甘美なことか。
目を閉じる前に見たのは、すべてが馬鹿馬鹿しく思えるほどに澄んだどこまでも広がる青い空だった。
目を開けると見えたのは、見覚えのある天井だった。
身体の感覚がだんだんと蘇ってくる。
動かそうとして、走った痛みと鼻につく消毒液の臭い、それに目に入った白い包帯が、今自分がどうなっているかを教えてくれた。
「・・・・まだ・・・生きてんのか」
もう何度目だろう、死の淵まで知らぬうちに行ってしまうのは。
いつ死んでもおかしくはなかった。
日増しに激しくなる戦局。
身体につく傷は、絶えることがない。
けれど、死に神にはまだ嫌われているらしい。
こうしてまた、生きて帰ってこれたのだから。
ふと、すぐ近くで寝息がするのに気つく。
ゆっくりと顔を動かすと、ベットの端に頭をうつ伏せて眠りにつくタキの姿が目に入った。
「ずっと、傍に居てくれてたのか」
重い腕を動かし、そっとタキの紙に手を触れる。
眠る横顔を見つめて、目尻の端に涙の跡があるのに気づいた。
「また、泣いてたのか」
こんなこともう幾度となく体験しているというのに、タキは変わらず涙を流す。
「馬鹿なヤツ・・・」
そう言いながら、クラウスは、顔がほころぶのを止めることはできなかった。
タキの流す涙は、まだタキがクラウスのことを思ってくれている証拠だ。
この涙が流れている限り、クラウスはまだこの世で生き続けていられる。
「タキ・・・・」
流された涙で酔ったように、クラウスは告げた。
「俺は、お前のために死ぬ」
タキと出会って以来、タキはクラウスのすべてだった。
唯一無二の存在を見つけた。
そのために死ねるなら、自分のこのくだらなき人生は幸せなものだったのだと、そう笑って逝ける。
目尻に溜まる涙を指でぬぐって、口に含んだ。
ひどく甘い甘露であった。