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幻想庭園

いろいろ書き散らしてます。 なお、掲載している内容につきましては、原作者様その他関係者様には一切関係ありません

黄金の指輪 愛を受け入れぬ者


聖闘士星矢 アスガルド編 ジークフリート
「黄金の指輪」に出てくるジークフリートの心情を書いた作品です。
時系列的には、黄金の指輪の後になります。続編ではありません。
 私が考える、ジークフリートの人物像を書いています。



 




























 あの戦いからどれくらいの月日が流れただろう。
 オーディンはその慈悲により神闘士全員を復活させることを決めた。
 他の7人は先に復活したのだが、身体を消滅させてしまったジークフリートは身体を
再生させるのに時間がかかり、未だヴァルハラにいた。
 復活すればまたヒルダに逢え、今度こそ本当の意味で皆でアスガルドを守れるのだ。
 しかし   
「オーディンよ。俺は復活を望まない」
 暗い顔でそう言ったジークフリートをオーディンは黙って見つめた。
「俺はヒルダ様に対して、とんでもないことをした。そして、他のみんなにも・・・」
 ジークフリートは苦しげに自分の心の内を吐露する。
「みんなが神闘士となり、死ぬように仕向けたのは俺なんだ。」 
 ヒルダが指輪をはめられて以来、おかしくなっていった人間関係。
 少しずつ広がっていた不審の輪はやがて国中を覆い尽くしアスガルドを混乱させ、
それは他国にも広がりアスガルドを滅亡へと導く可能性もあった。
「俺はヒルダ様を護る者として、兵を束ねる者として、そして神闘士として、できうる
精一杯のことをやった。だがどうだ。」
 その結果どうなった。
 あれだけヒルダ様のことを敬愛していたトールの心を傷つけ、自分を信頼して懐いて
いたフェンリルと彼の大切なオオカミたちを死に至らしめた。
 ハーゲンとフレア様の仲を引き裂き、ミーメを頼むというフォルケルの遺言を果たせ
なかった。
 決め手に欠けたリングへの対策により、アルベリッヒの邪悪な野心を引き起こし、
シド、バド兄弟の仲を悪化させる一因を作った。
 世界の滅亡を防ぐために聖域から来てくれたアテナと聖闘士達を死ぬような目に
遭わせた。
 自分のまいた種になんの疑いもなくそれが自分の運命だと受け入れ戦い、傷つき、
死んでいった者達。
「それに対し俺はどうだ。ヒルダ様と勇気ある聖闘士達の前で猿芝居をし、ようやく
姿を現した黒幕に仕える戦士を倒すこともできず、犬死にだ」

 そんな俺が、どうして復活など許されよう!

 ジークフリートは手で自分の顔を覆い、涙を流しながら自分を嘲笑った。
「いつだってそうだ。  いつだって俺は・・・」
 愛する者を護りたいのに、幸せにしたいのに。
 なのに傷つけ、悲しませる。
「俺は、側にいないほうがいい」 
 ジークフリート。
 北欧神話随一の勇者の名前。
 愛する者を護りたいが故に手に入れた力なのに、それ故に傷つけた、強く愚かな
勇者の名。
 なぜ、そんな人物が愛される。


 オーディンは黙ってジークフリートの話を聞いていた。なんの口も挟まずに、
彼の心のたまった思いの全てを受け止めた。
 どれくらい時間が経っただろう。
 枯れ果てるまで涙を流しつくし嗚咽するジークフリートに、オーディンは初めて口を
開いた。
「本当にそう思うか?」

 それは、泣き言聞かされたことへの怒りの声でも、重い宿命を背負った勇者への
哀れみの声でもなく、偉大な父が泣きじゃくる幼い息子に語りかけるような声だった。
「ジークフリートよ。お前は、まるでお前がいるために邪悪がアスガルドにはびこるの
だと言いたげだな。そのために多くの戦士達が命を落とし、女達が涙を流すのだと」
 ジークフリートは顔を上げ、オーディンの顔を見る。オーディンの目は、優しかった。
「それは違う。邪悪が蔓延るからこそ、お前はアスガルドに舞い降りるのだ。そのお前の
勇気と心に惹かれて多くの戦士達が集まってくるのだ」
 ジークフリートは不思議な魅力を備えていた。
 オーディンに忠誠を誓う戦士のみならず、他の神の戦士。果てはかつて敵対していた
戦士達をも惹きつけた。 
「そんな彼らが、どうしてお前を責めよう」
 そして彼らを愛した者達が、どうしてお前を責めようか。正義の戦いに殉じた戦士達を
導いたお前を。
 その涙は悲しみを含んでいるだろう。だが彼らはお前に感謝し、命を明日へつないでゆく。

「お前はお前を信じる者、護るべき者を愛している。」

 愛してくれている者を愛さない者はいない。

「ジークフリートよ、お前は愛されているのだ」

 胸にしみいるような言葉。
 それでも、ジークフリートの顔は晴れない。ふいと背けてしまう。
 まるで自戒しているような、受け入れがたい・・いや・・認めてはいけない。
 そんな顔をしていた。
 オーディンは悲しげなため気を吐く
「ジークフリート、お前はまだ自分を責めているだな」
 神話の時代、彼が起こした罪。
 ジークフリートは、一人の乙女を愛した。
 その者の名は、ブリュンヒルト。
 オーディンの娘であり、彼の忠実な僕。戦場を駆けめぐり、戦士達の魂をヴァルハラへ
と運ぶ戦乙女(ヴァルキリー)。
 炎の中で眠っていた彼女を助け出し、愛を誓い、夫婦の契りを交わした。
 しかし、その後訪れた城で罠にはまり、彼女のことを忘れてしまう。
 そして、別の女と結婚し、その兄の頼みによりジークフリートの帰りを待っていた
ブリュンヒルトを欺してその兄と結婚させた。欺されたブリュンヒルトは復讐を誓い、
その奸計によりジークフリートは殺された。
「だが、お前は死の間際真の妻を思い出した」
 それ故ブリュンヒルトはジークフリートの罪を許し、来世での永遠の愛を誓って共に
炎の中に消えた。
「我が娘はお前を許した。なのになぜ今だにお前は自分を責める?」
「・・・・・・」
「ジークフリートよ、お前の宿命は知っていような?」
 ジークフリートの名を持つ者が抱える宿命。
「邪悪がアスガルドに現れるとき、地上代行者の元に集い、その力の限りを尽くして護る
こと」
「 不死身の身体にある唯一の弱点である左背中の葉の痣」
 そして   
「「愛する者と結ばれない」」
 あのときから幾度生まれ変わっても、愛した者と結ばれたことは一度もない。 
 それでいいのだと思った。愛した者達は、その後幸せに暮らしていた。自分ではきっと
できない。
「語られる宿命のうち二つは神が授けたもの。しかし、愛する者と結ばれないという宿命
を私は授けてはいない」
 ジークフリートはぼんやりとした眼で再びオーディンを見た。
「それはお前がお前自身にかけた呪いだ。裏切りを許せなかったが故に、そんな思いを
勝手に抱き、意識せぬうちに実行していたのだ」
「・・・・・・・」
 あのことは、最大の汚点だった。
 愛した者を裏切り、愛していくれていた者を裏切った。多くの悲劇をもたらした。  
   ブリュンヒルトは許してくれた。

 だが、俺は許せない。

 多くの者を裏切り、死に至らしめ、悲しみを呼んだ俺を、俺は許せない。

 ああ、この時からだ。

 自分が幸せになってはいけないと思ったのは。

 愛する者と結ばれてはいけないと思ったのは。

「ジークフリートよ、自分を愛してくれている者が、自分の愛を受け入れてくれないと
相手はどう思う?」
「・・・・・・・」
「つらいな。これほどつらいことはない。」
 オーディンはジークフリートの瞳を見据えていった。
「ジークフリート、お前の思いは単なるエゴだ。お前は感じたことがあるか、お前の
一方的に与える愛がどれだけ人を傷つけてきたか}
「・・・・・!?」
「お前は人傷つけたくないという、悲しませたくないという。だが、そんな自分よがりな
想いが人を傷つけ悲しませるのだ」 
 そんなこと想いもしなかった。
 自分が愛を受け入れないことで、人を傷つけていたなんて。
「与えられる愛に応えないことこそ、お前の重大な裏切りだジークフリート」
 衝撃だった。そうとは思わなかった。
「愛を受け入れることを畏れるな。愛し愛されよ。それがお前が愛する者達を幸せに
するのだ」
 だが、ジークフリートはまだ釈然としないようだった。
 愛しながら愛を畏れていた男が、そう簡単に受け入れられるというのが無理な話だった。
 それでも、胸につかえていたものがすっと引いていくような気がした。
 オーディンが落とした一滴の水が、大きな波紋となって隅々まで伝わってゆく。
「もう少し・・・考えてみようと思います」
 そんな返事しかできなかったけれど、オーディンは満足げにうなずいた。 
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