いろいろ書き散らしてます。 なお、掲載している内容につきましては、原作者様その他関係者様には一切関係ありません
パラレル クラウス(犬神)×タキ(人間)
前提 クラウスは普段、狼の姿で過ごしています。
菩提樹(ボダイジュ) 結ばれる愛・結婚・熱愛・夫婦の愛
甘い花の香りがすると引き寄せられてみれば、そこにいたのは花ではなく人間の子供だった。
膝を丸めて泣いていた子供。
それが俺とタキとの出会いだった。
あれから10年。
「精が入ってるねぇ・・・・・」
狼の姿で屋根の上にすわり、眼下でせわしなく行き来する城の人々の姿を眺める。
皆、明日の儀式の準備が最終段階に入り、万全にしようという熱気がむんむんと伝わってくる。
それもそのはず、明日行われる儀式はただの儀式ではない。
この国の皇子タキが成人の儀を迎えるのだ。
「あの子供がねぇ」
あの日出会ったタキは、まだまだ親が恋しいと泣く子供だった。
けれど、やがて泣かぬ少年となり、身も心もしっかりとして、国と民と平和を愛する立派な青年へと成長した。
その成長の過程を、クラウスはずっと傍らで見守ってきた。
10年という歳月は、クラウスがこの国で暮らした年月でもある。
もう何百年も前に、神界から下界へ通り、気ままな放浪の旅を続けてきた。
時に、人に交じり暮らすことはあったけど、一つのところにこんなに長く居着いたことはない。
時の流れが人と違うクラウスは、姿を人の形に似せても、長くはとどまれなかった。
それでも、寂しいと思うことはなかった。
別れがあるからこそ、新たなる出会いがあった。
別れと出会い、その繰り返しの日々。
けれど、タキとの出会いは、今までの出会いと大きく異なった。
初めて、別れがたいと思った。
あの日出会ったタキを一目で気に入って、無理矢理くっついて、この国に来た。
この世を守護する12の長の一,神狼一族の長の息子といっても、人慣れし、態度がちっとも神々しくないクラウスは、その事実を中々信じてもらえなかった。
単なる人間の言葉がしゃべれる式神の犬という扱いされたが、それでもこの10年で起こった人では手に負えぬ出来事を解決し、徐々に受け入れてもらった。
今では、ちゃんとこの国の守護獣として、民に受け入れられている。
クラウスが、クラウスとして受け入れられた。
己がままで、ここにいて良いのだと。
それは、長くの放浪の中で初めてのことだった。
そのなんと、幸福(しあわせ)なことか。
(だからこそ、けじめをつけねぇとイケねぇ・・・・・)
それは、タキと出会ってまもなくのこと。
この国で最初の、人の手に負えぬ事件を解決したときのことだった。
『ありがとう、クラウス。民を助けてくれて』
首に抱きついてくるタキに、クラウスは頭をすり寄せる。
『いいってことよ。それより無事でよかった』
『・・・・・・あのな、クラウス』
『なんだ?』
『ずっと、傍にいてくれるか?』
また、離れていくかもしれない・・・・そんな不安が入り交じる声で、タキはそう聞いてきた。
『いるよ』
『・・・・ほんとか!?』
タキの目が興奮で輝く。
『けど、条件がある』
『何だ?』
『俺の嫁になってくれ』
『嫁?』
『おうよ。今じゃなくていいさ。俺は。子供に手を出すほど恥知らずじゃねぇしな』
『将来、お前が大人になったら。そのときは、俺の嫁に・・・』
「我ながら、とんでもねぇこと言ったよなぁ・・・・・」
今振り返ってみると、「なに言ってんだ、そのときの俺!?」とツッコミたくなる。
そのとき、タキはまだ8才だ。おまけに男。
確かに、タキは子供の頃から美人だった。
可愛いと言うより、きれいと言うより、美しいという表現がぴったりの子供だった。
それは、10年経った今でも変わりなく、麗しの華の皇子と同姓からも賞賛されるほどだ。
(最も中身は男前だけどな)
不埒なる者は、貴人の家に生まれ下の特有の誇り高さと、国一番の剣道範士が賞賛したほど腕前で一撃された。
普段は優しいが、大切な者を傷つける者は断固として許さない。
見た目の華奢な外観からは想像もできないほどの、胸の内に秘めた激しさ。
それを知るものは、そのギャップが良いと言うし、クラウスもそう思う。
まぁ、とにかくいい男に育ったと言うことだ。
ただ、ここまで来てクラウスの胸に迷いが生じてしまった。
嫁になれと言ったばかりの頃は、そういうつもりが心の中にあった。
だから、タキを独り占めしたくて、時にタキを困らすような行動をしてしまったこともある。
けれど、それからもいろんな出来事があって、周りの者に、この国の民に段々と受け入れられて、タキとみんなと、いくつもの季節を過ごすうちに、少しずつそんな思いは薄れてきて、ここ数年はそんなこと、どうでもいいと思うようになった。
べつに、タキを嫁にしたくなくなったわけじゃない。
ただ、もしタキに「嫁になれない」と言われても、それでも良いと思ったのだ。
タキが嫁であっても、嫁でなくても、傍にいたい、守りたい。
そう思うようになったのだ。
(きっと、俺、寂しかったんだろうな・・・・)
自分を自分として受けいられたからこそ、知ってしまった感情。
10年もこの国いて、そしてこれからのこの国にいたいと思うのは、きっとそのせいなのだ。
だから、もう関係にこだわる必要はない。
「『婚姻』か『主従』か・・・」
タキを守護すると良いってこの国に入り込んだクラウスだったが、実はまだタキと正式な契約を結んではいなかった。
そのときは、まだすぐどこかへ行こうという浮ついた気分があった。
守護するには契約を結んだ方が、力がふるいやすいのだが、長く下界でいてこの世界になじんでいるうえに、元々の力が強いクラウスは、契約なしで充分な力をふるうことができた。
だから、今まで何となく締結せずに過ごしてきたのだが、タキが成人の儀を迎える今、いいタイミングではないかと思ったのだ。
「タキ、お前はどっちがいい?」
まだ、聞いていないので、タキがどちらを選ぶのかは分からない。
どちらにしろ、クラウスがとるのはただ一つ。
(タキとタキの愛する者達を、この国を、この命がつきるまで愛し、守護する)
それは、神が人と交わす約束だった。
翌日、神々が祝福してくれたかのように、空の境界まで雲一つなく澄み渡った青空の下、タキの成人の儀は行われた。
国中のみならず、周辺諸国からも祝う人々とが訪れ、儀式は盛大に華やかに行われた。
格式張った儀式が嫌いなクラウスだが、今回ばかりはと儀式に参加し、守護する者としてよき未来を掲示する言霊を送った。
そのときに、どちらを選ぶかは聞かなかった。
儀式の前に考えておけと伝えておけばよかったのだが、なぜか中々伝えることができず、いきなり本番ではと、ここでは聞かないことにしたのだ。
儀式は何事もなく無事にすみ、宴席へと移った。
宴席は好きなクラウスだが、選択のことが気になり、祝いに来てくれた顔見知りに挨拶して、早々に宮に引っ込んだ。
「聞きたいことがあるから、宴が終わったら、俺の宮へ来い」
タキにそう伝え残して。
城の裏にある鳥居。
その向こうには向こう側の景色が見えるだけで、鳥居だけがぽつんと立っているよ
うに見えるが、この鳥居の向こうにクラウスの屋敷があるのだ。
選ばれし者のみが入るとこができる神の聖域。
というのが建前だが、クラウスは特にそんなこだわりがないので、基本、この国の人間は出入り自由だ。
もっとも、厄介ごとが持ち込まれそうなときは、入ることができないようにしている。
とにかく、クラウスにとって便利な場所に作ってあった。
この屋敷の庭が一番美しく見える部屋に、クラウスは宴の用意をした。
二人分だけ用意された、ささやかな祝宴。
ここにクラウスは、タキを招き入れることにしていた。
今日の日のために、わざわざ神界へ戻り、とってきたとっておき酒を用意して、タキと二人だけで成人を祝い、その場で決めてもらおうと思ったのだ。
出会ったとき、二人きりだった。
新たなる縁も二人だけで・・・・。
「にしても、遅せぇな」
もう宴は、はけたはずだが・・・。国を挙げての慶事だから伸びてるのか?と思い直し、一人待つ。
今日は、いつまでも待つつもりだった。
クラウスにとっても特別な夜だった。
「夜は長い・・・」
あいつは来るまで、別の酒でも飲んでるかと、ここに住まう従者を呼ぼうとしたとき、衣擦れの音を聞いた。
長い廊下をしずしずと歩むの音。
クラウスが不敵な笑みを口音に浮かべた。
「やっと、来やがったが・・・」
従者を呼ぶのをやめ、姿勢を改め、訪問客を待ち受ける。
部屋のふすまの目で、足が止まった。
がらりと独りでにふすまが左右に開く。
「タキ・・・・」
それ以上、言葉が続かなかった。
クラウスはあんぐりと口を開けて、ぽかーんと目の前に立つ人物を見た。
言葉を考えていた。
選択を問う際に、かけよう言葉をいろいろと考えていた。
『成人、おめでとう』
『これで、お前も大人だな。一緒に酒が飲めてうれしいぜ・・・』
『お前はどっちがいい?』
『安心しろ、どちらを選んでも、俺がお前の側を離れることはないから』
『守るよ。すべて。お前も、お前の大切なものも、全部』
だが、出てきたのはそのどれでもなかった。
「な、なにかな。その気合いの入った衣装は・・・・」
目の前に現れたタキは、成人の時に来ていた直衣ではなく、純白の花嫁衣装を身にまとっていた。