神闘士と聖闘士達の戦いが続く中、ジークフリートは、心の中で血の涙を流す。
聖闘士星矢 アスガルド編 ジークフリート
十数年前に書きました、ジークフリートを主人公として、「アスガルド編」に独自ねつ造設定を加えて書いた作品です。
なので「黄金魂」編の設定は入ってません。
たぶん、初めて書いた長編となります。
せっかくのなのでUP。

続々と神闘士達が敗れたという知らせがワルハラに舞い込んでくる。
そのたびにヒルダはいらだち、神闘士達は顔色を悪くする。
ただ一人ジークフリートだけが心の中で平然としていた。
己が手を下せぬが故に犠牲になる神闘士、傷ついていくアテナ、聖闘士達を思い、
静かな血の涙を流しながら。
ニーベルンゲンリングを屠る方法をジークフリートは知っていた。神闘衣に添え付けら
れているオーディンサファイア。これを7つ全て集めることで出現するバルムングの剣。
この剣で斬ることでニーベルンゲンリングはこの世から消える。
にもかかわらず、自分で実行できなかった。
リングがヒルダにはめられなければ、ヒルダでなければ。
自分は迷わずオーディンサファイアを集め、バルムングの剣を振るっただろう。
「ミザールのシド様、敗れました」
兵士がもたらす悲痛な報告にも、もう胸は痛まない。とっくに麻痺してしまったのだ。
「聖闘士達は城内へ侵入しました。いかがいたしましょう」
「全て私が片を付ける。残っている近衛に伝えよ。それぞれ手分けして城内に残っている
人々を城外に避難させよとな。兵も全てだ」
「我々も・・・ですか?」
「ああ。ここは人の力を超えた者達の戦いの場となる。逃げろ、そして生きろ」
「承知いたしましたぁ!」
兵は泣きそうな声で返事し、転びそうになりながらかけていく。
(見ているか?オーディンよ)
ジークフリートは、太陽はもとより星すら輝かないであろうどんよりと暗い空を見上げる。
(私は彼らにオーディンサファイアを渡すだろう。その時は彼らにバルムングの剣を与えて
くれ。そしてアスガルドに平和を )
もう一つ、目を閉じて心から強く祈る。
(今度は彼女を見放さないでくれ)
あの忠実で気高く美しいあなたの娘に慈悲を。
出陣の挨拶のためにヒルダの元へ向かう。
ヒルダは怒りを煮えたぎらせていた。
「役立たずどもめ!!」
ガンガンッと激しく槍先で床を殴る。
哀れむような目でジークフリートはその様子を見ていた。
本当のヒルダなら、ふがいなさと情けなさでこの場にいられなかっただろう。
(なんて遠い)
他人事のように感じる。
彼女の姿で醜態をさらすのをこれ以上見ていられなくて、ジークフリートは声をかける。
「ヒルダ様」
ジークフリートが一声かけるだけで、ヒルダは醜態を見られたことに顔を赤くし、
すぐににこやかな笑みを浮かべて駆け寄ってくる。
「我らのふがいなさはお詫びいたします。ですが、ご安心ください。聖闘士はこの
ジークフリートの敵ではありません。ヤツらの命もここまでです」
「おお、ジークフリート」
ヒルダはジークフリートの胸に縋りつく。
「勇者よ、そなただけだ。頼りになるのはそなただけしかおらぬ」
「必ずお守りいたします」
ニーベルンゲン(お前)ではなく、ヒルダを。真のアスガルドの平和を。
「では、行って参ります。ヒルダ様はここでお待ちください。必ずや勝利を手に還って
参ります」
「待っているわ」
誉れの目で見送るヒルダ。ジークフリートは部屋から出るとふっと笑う。
彼女は必ず現れるだろう。
アレは私から離れられない。
ニーベルンゲンよ。
私と聖闘士達の前に出てきた時こそお前の最後だ。
(!!・・・・・・まただ)
あの気配がする。この戦いが始まった時からワルハラ宮の周りをまとわりついていた。
神闘士でも聖闘士でもましてやアテナのでもない。ふと、思い出す。
これはどこかで感じたことはなかったかと。今までは戦いの行方に気を取られて
わからなかった。
だが、
(どこだ)
必死に記憶をたどる。
遠い、遠い遙か昔。オーディンと供に訪れた 。
( ぬかった!!)
なんということだ。ニーベルンゲンとヒルダに気を取られてそこまで考えなかった。
ニーベルンゲンリングはどこへ捨てた 泉だ。
ヒルダに祈りの場は 海近く。
アスガルドの敵はニーベンルンゲンじゃない。
真の敵は海の中にいる。
(だが、今更引き返せない)
神闘士は自分を覗いて自分を除いて全員死んだ。
聖闘士はすぐそこまで迫り、アテナの小宇宙も限界近い。
ヒルダはまだリングに捕らわれたまま。
そしてアレに監視されている今、下手な動きはできない。
全ては自分の失策だ。
(ああ、どうして俺は)
護ろうとして、破滅へ追いやるのか。
だが、まだ希望はある。
それに全てを託してジークフリートは突き進む。
(聖闘士よ、俺を殺せ。そしてバルムングの剣を)
その時こそ、アスガルドの平和は守られる。
そして願う。
きっとこの後始まるであろうあの神との戦いに、彼らが勝利するのを。