望んでいた人物がアスガルドに現れた。
ジークフリートは幕上げをある人物に託すことに。
聖闘士星矢 アスガルド編 ジークフリート フレア
十数年前に書きました、ジークフリートを主人公として、「アスガルド編」に独自ねつ造設定を加えて書いた作品です。
なので「黄金魂」編の設定は入ってません。
たぶん、初めて書いた長編となります。
せっかくのなのでUP。

ヒルダに、捕らえた聖闘士を拷問するよう命じられたトールは正直困っていた。
ヒルダへの忠誠心はジークフリートに劣らないと自負している彼も、その命令には
気乗りしなかった。他の者に変わって欲しいとさえ思った。彼は弱い者を痛めつけること
が嫌いなのだ。
第一そんなものしたことがないのでやり方が解らない。
どうしようと頭を抱えているトールにアドバイスをしたのは、ジークフリートだった。
「三発ほど思いっきり殴って気絶させるんだ」
「そんなのでいいのか?」
「ああ。始めはこんなものだ。お前は不慣れだし、第一拷問役はよほどの覚悟か相手に
無関心でないとできないのさ。なに、形ばかりでも命令は実行したんだ。ヒルダ様も
お怒りにはならんよ」
「そうか・・・」
本当にそんなんでいいのかなぁという顔をするトールを、とにかく教えたとおりにしろ
と言って牢へ送り出したジークフリートは、急ぎ厨房へと向かった。
厨房はちょうど昼食の準備の追われていて、急ぎ料理をするコックや粗相の無いように
仕度を調える給仕係でてんてこ舞いの忙しさとなっていた。
ジークフリートはカウンターの上の他より豪奢な装飾のトレイを指さし、
「これはフレア様のか?」
「は、はい」
「私が運ぼう」
「えっ、あの、ですが・・・」
「あの方に話があるのだ。そのついでだ」
いつも彼女に食事を運んでいる侍女がおたおたとしているのを横目に、ジークフリート
はさっとそのトレイを持ち上げて運んでいってしまった。
現在、牢の収監者は一名のみ。
見張りの兵さえいない広く暗く底冷えする牢の一室で、フレアは心細げに隅の方で
ちぢこまっていた。
「フレア様お加減いかがですか?」
「よくないわ」
かけられた声につんととした返事をするフレア。ジークフリートは、入り口脇の小さな
ドアから持ってきたトレイを差し入れる。
「食事です。冷めないうちに食べてください」
「欲しくないわ」
顔をぷいっとそらされ、ジークフリートは参ったなと苦笑する。何か別の話題をと
考え・・・。
「ところでご存じですか。今ここにアテナの聖闘士が一人捕らえられているのですよ」
「え!?」
「アテナは邪悪がこの世に蔓延るとき地上に降臨する女神だそうです。我らの神とは
ずいぶん違う」
自分の言葉に自分で笑う。そんな無慈悲な神にどうして自分は使えているのだろう。
「彼らが来たのは、この地に邪悪が存在すると言うことなのでしょうか・・・」
フレアの目がきらめくのをジークフリートは見逃さなかった。
「フレア様、あなたはどう思われます?」
「私は・・・」
そんな正義の女神が来る。ならお姉様はやはり・・・。
「そうだと思います。アテナはきっと、私たちを救うために来てくださったのだと
思います」
「あなたはそう思われるか・・・」
ふっとジークフリートは笑う。小馬鹿にするのではなく、どこか憂いているそんな表情
だった。
「ここに純粋なる邪悪など存在しませんよ」
「え?」
「あるのは人の弱さ。それらが幾重にも積み重なって災厄を引き寄せているにすぎない」
フレアはどういうことかと聞こうとしたが、ジークフリートの言葉に阻まれる。
「彼らは捕らえられている仲間の聖闘士を助けるために来るのです。もしかしたら同じ牢
にいるあなたも逢えるかもしれません。その時あなたはどうされます?」
思いもよらぬことを聞かれフレアは頭が一瞬真っ白になる。
どうする?どうするの?そんな正義の女神が現れたら・・・。
私は、何の力も持たない私ができることは・・・・。
しばらく考えて、フレアはきっとジークフリートを見据え、はっきりとした声で答える。
「助けを求めます。アテナに、邪悪と戦う聖闘士達に」
「断られるかもしれませんよ?」
「いいえ。そんな慈悲深き女神ならきっと。きっと聞いてくださいます」
フレアの信じる心に、ジークフリートは心の中で満足する。
「そうなるといいですね」
そのことを決して悟られぬように、すっと鉄格子の前から離れる。
「侵入した聖闘士は、この階の下の一番奥の部屋に捕らえられているそうですよ」
去り際にさりげなくそう言い残し、牢屋から去っていく。
(何しに来たのかしら?)
ここに入れられて以来一度も会いに来なかった彼が。それもあんなことを話して。
いったい何をと思ったところでお腹がぐうっと鳴る。
一日中動かなくても腹はすくものだ。
フレアはちらりと先程持ってこられたトレイを見る。まだ冷め切っていないスープから
は、うっすらと白い湯気が上っている。
そっと手を伸ばしトレイを引き寄せる。
と、パンをのせた皿が傾いていることに気づく。何かしら?と思い皿をひょいっと
退けるとその下からは、
「あっ」
そこには、大小の鍵がつながれた鍵束が置かれていた。
フレアがいないことに気づいたのは、彼女に会いに来たハーゲンだった。全ての牢が
空っぽであり、フレアを釈放する許しが出ていないこと、さらに捕らえた聖闘士が消えて
いたことから二人が共に脱走したと思われ、ワルハラ城内は大騒動となった。
ヒルダは急ぎ追っ手をだし二人を捕らえようとするが、一足違いで二人はアテナのもと
に保護された。
世界を救いに来たと言うアテナをヒルダはせせら笑う。
「ならばお前が祈るがいい。まぁ、せいぜい半日しか持たぬだろうな」
アテナは氷が溶けないように祈りを捧げ、聖闘士達はアテナを救うために戦いを
仕掛ける。
ここに、神闘士 対 聖闘士の戦いが幕を上げた。
やれることは全てやった。あとは祈ろう。神に、運命に。
聖闘士達が勝つことを。