舞台の幕上げのためにジークフリートは、密かに動き出す。
聖闘士星矢 アスガルド編 ジークフリート
十数年前に書きました、ジークフリートを主人公として、「アスガルド編」に独自ねつ造設定を加えて書いた作品です。
なので「黄金魂」編の設定は入ってません。
たぶん、初めて書いた長編となります。
せっかくのなのでUP。
『聖闘士?』
その存在を教えてくれたのはオーディンだった。
『そうだ、彼らはギリシャの女神アテナに仕えている』
『アテナとは?』
『アテナは地上の平和を守るために邪悪を戦う戦女神だ。私よりも強く、ポセイドンとも
対等に渡り合える』
オーディンは地上に降りる際いつも最後にこう言った。
『いいか、お前の手に負えぬ事態が発生した時は聖域に助けを求めよ。彼らは地上の平和
を守るため喜んで力を貸してくれるだろう』
オーディンよ。今、私は彼らの力を借りようとしています。直接頼むのではなく、
無理矢理巻き込む形で。
七人の神闘士が現代に復活した。
これで世界が手に入れられるとヒルダは歓喜する。
「では、早速聖域に乗り込もうぞ」
ヒルダの勇みだつ言葉に、神闘士達は闘志を高める。
しかし、
「お待ちくださいヒルダ様。無策な戦いはなりません」
高まる熱気に水を差す言葉を発したのは、驚いたことにジークフリートだった。
滅多にヒルダの命に逆らわない忠義の臣たる男に皆が一斉に視線を向ける。
「それはどういうことか?」
ヒルダが不快げに聞く。
「まず、気候のことをお考えください。アスガルドは夏でも寒い極寒の地。しかし
聖域のあるギリシャは一年を通して常夏の地。そこは我らにとって灼熱の砂漠も同然。
口惜しいことながら我らはハーゲン以外は灼熱の地での戦いに不慣れな者ばかりです」
「ジークフリート、貴様俺たちをバカにするのか!?」
牙をむいたのはフェンリルだった。
「俺たちが暑さごときで負けるというのか!!」
「そうは言っていない。しかし戦いは重要なのは戦闘能力だけではない。地の利が勝敗を
左右することものだ」
「ギリシャの地は我らに不利と?」
シドの言葉にジークフリートはそうだと断言する。
「これは侮辱かもしれん。しかし確実な勝利を手に入れるためには侮辱も飲まねばなら
んのだ」
そう、望む勝利を得るためにはなにもかもを飲み込まねば。痛みもつらさも過去の
美しさも未来の残酷さも。
「我らは我らの戦場で戦うべきなのだ。相手に不利で我らの有利な戦場でな」
「ならばそこはどこに?」
アルベリッヒが挑発するような顔で聞く。
「そこまで言うのなら、あなたはどこがふさわしいかもう見当は付けて付けておられる
のでしょうねぇ?」
絡みつくような隙あらば噛みつきそうな目にも躊躇せず、皆の注目が集まる中
ジークフリートは告げる。
「ああ、もうとっくに付いている」
我ら極寒の地に住まう者が戦うに最もふさわしい場所。そこは 。
「ここで。このアスガルドで我らは聖闘士達と戦う」
◇ ◇ ◇
「では、私はこれから聖域に向かいます」
「ああ、気をつけてな」
先兵として聖域に乗り込むのはシドに決まった。誰もが立候補したが、決まったのは
ジークフリートの鶴の一声だった。
『聖域へ行くのは我らの実力を見せるため。最も実力ある者が行くのがいい』
「雑魚は気にするな。大物だけを狙え。黄金聖闘士がいいだろう。揺動だからな、
殺す必要はない。重傷程度に留めておけ」
「わかりました」
では、とぺこりと頭を下げて戦地へ行くシドを期待を込めた目で見送る。
ジークフリートの戦いが始まった。
存続か滅亡か。
すべでは彼の牙にかかっている。
離れていく足音。二人以外は誰もいなかった廊下には今自分しかいないはず。
しかし、ジークフリートは似ているが微妙に違う気配を感じ取っていた。
「そこにいるか?」
話しかけても返事はない。
「シドが聖域へ向かった。お前も行くのか?」
暗い廊下に響くのはジークフリートの声だけ。だが、変わらず気配はそこにある。
「お前の分も用意してある。お前の部屋の机の上に置いておくから、後で取りに行く
がいい」
ジークフリートが立ち去り、完全に人がいなくなった廊下。
ゆらりと闇が揺らめいて、シドと同じ顔を持つ男が姿を現した。
シドの出発を報告するためにヒルダの元へ戻ろうとする行く先に、アルベリッヒが
いた。
「なぜシドに?」
不服はないようだが、選んだ根拠を聞きたいようだ。
「彼の実力が高いからだ」
「あなたではないので?」
「ヒルダ様がお許しにならない」
「ふふ、そうでしたね」
アルベリッヒは粘ついた目で睨みつける。
「あなたのおかげで私の株はがた落ちですよ。せっかく参謀になれたというのに今や
名ばかり・・・」
「それはお前の実力が役名に伴っていなかったと言うことだろう」
毒をたっぷり吹くんだ嫌みもさらりとかわすジークフリートに、アルベリッヒは
ますます苛立ちを募らせる。それはもはや殺意に近い。
(今に見ているがいい!!)
廊下に響く足音が先程より太く荒い。沸き立つ苛立ちが歩き方にでていた。
「なぜあんな人間に・・・・」
育ってしまったのか。生まれ持った特権をなぜ持てたのか、それに何の疑問を持たず
平然と行使し、自分は人と違うのは当然と他人を見下す。今の名門という地位を回復する
まで、彼がどれほどの血と汗と涙を流して冷酷な状況に耐えたと想っているのか。
先祖の苦労は子孫には伝わらなかったのか・・・。
(彼も確かに出世欲、権威欲を持っていた)
だが、彼はあくまでアスガルドのため、時の地上代行者のために能力を使った。
(だから私もあの秘密を教えたというのに)
今となっては後悔する。きっと知っているだろうアルベリッヒは、本来の目的のため
には使わない。
ジークフリートは、沸々とわいてくる苛立ちを歯がみしながら長く暗い廊下を歩いて
いた。
いつもなら2、3人はすれ違うのだが今日は誰一人ともすれ違わない。
今ワルハラ宮に人は少ない。非常事態宣言を出し、必要最低限の使用人だけを残して、
後は全員家へ帰した。
「ジークフリート」
柱の影から金色に輝くふわふわした髪の少女に声をかけられた。
「フレア様」
持っていた苛立ちを遠くの方へ押しやり、いつも彼女に接する顔を作る。あわてて
やったので作った顔は少し歪んでいた。
「ジークフリート。あなたは気づいているんじゃなくて。お姉様のこと」
「何のことでしょう?」
「とぼけたってダメよ」
不思議とこの姫は感が強く嘘や異変を見破る。
フレアはじっとジークフリートを見つめる。
(ああ、なんてそっくりな・・・)
フレアとヒルダは姉妹だが容姿も性格も大きく異なる。
だが、眼差しは同じで・・・。
「私知ってるわ。昔お母様に教えて貰ったの。あなたは・・・」
「フレア様。私ができることは何があってもヒルダ様をお守りすること。
それだけです」
「あなたはアスガルドを護るためにオーディンが遣わす勇者。そうなんでしょう!?」
耳にまとわりつくような叫びを必死で振り切り、ジークフリートは逃げるように
その場から立ち去る。
フレアは独自で動き、事あるごとにヒルダに目を覚まして欲しいと訴える。
始めは聞き流していたヒルダもさすがに我慢ならなくなり、とうとう投獄して
しまった。
「ハーゲン・・・」
「ジーク、どうしよう。フレア様が」
「ハーゲン。フレア様のためにも神闘士としての役割を果たせ。目を見張るような活躍を
すればヒルダ様もお前の進言を少しは聞いてくださるようになるだろう。それまで辛抱
するんだ」
(心にもないことを俺は言っている)
神闘士としてヒルダへの忠誠とフレアへの思いの狭間で苦しむハーゲン。本当はどっち
を選ぶのが正しいか教えるべきだが、できない。決めてしまったのだ。心を鬼とし目的の
ためには他人の心を踏みにじってでも。
ハーゲンは悲しそうな顔をして力なく肩を落とす。だが二日後、答えが出たのか
きびきびと動きトールやフェンリル相手に鍛錬をかさねる。
そんなハーゲンの姿を見守りながら、ジークフリートはあることを思いつく。
それはとても危険なこと。一歩間違えれば彼女の命はこの世から消え去るだろう。
けれど・・・・。
そんな折り、警備兵から聖闘士がアスガルドに侵入したという報告がもたらされる。
ジークフリートは急ぎ兵を出しその聖闘士を捕らえ牢につなぐ。
どうやら先日のシドの急襲で聖域はアスガルドに興味を持ってくれたらしい。
その聖闘士は捕らわれるときにたいした抵抗はしなかったという。それが何を意味する
か悟ったジークフリートは少しずつ包囲網が狭まっていることを感じる。
そしてその騒動から3日後、聖域に放った密偵よりアテナがアスガルドへ向かったと
いう知らせが入ってきた。
役者は揃った。
(後は舞台の幕あげ役をあの方に任せるだけ)