トールと別れたジークフリートは、ミーメに出会う。
聖闘士星矢 アスガルド編 ジークフリート ミーメ
十数年前に書きました、ジークフリートを主人公として、「アスガルド編」に独自ねつ造設定を加えて書いた作品です。
なので「黄金魂」編の設定は入ってません。
たぶん、初めて書いた長編となります。
せっかくのなのでUP。
トールと別れたジークフリートは、聞こえてきた音色に誘われるように中庭へ足を
進めた。
中庭と言っても草木は雪に埋もれ、噴水の水は寒さで凍り付いている。その冷たい
噴水に腰掛け竪琴を奏でる青年がいた。
「弾いていたのは、ミーメだったのか」
返事をせず、ジークフリートが近づいてもミーメは演奏を止めない。
「隣いいか?」
無言の返事にジークフリートは隣へ腰掛ける。
「いい曲だな」
「・・・・・・・・「レクイエム」」
葬送曲。
そんなものをこんなところで躊躇なく弾くミーメ。メロディーに乗り抱える問題の
複雑さが透けて見える。
「今までどこにいたんだ?」
「ここには居られませんから、国外に」
「吟遊詩人のようにか」
「そうであったならよかった・・・・」
初めて聞く、感情がこもった言葉。
その名は哀しみ。
ジークフリートはそれ以上はなにも言わず、奏でられる曲を聞きながらフォルケルと
のことを思い出していた。
10年前。やっと外見も役職にふさわしいなりに成長したジークフリートは、
フォルケルから久しぶりに会いたいという連絡を貰った。
6年前に譲られてから一度も会うことも、会いに来ることもなかったフォルケル。
成人を祝う手紙が初めてであり、それからまもなくしての突然の招待にとまどいながら
も、ジークフリートは家を訪問した。
「お久しぶりです、隊長」
「隊長はお前だろう。よく来てくれたジーク」
六年ぶりの再会だというのに昔の話はそこそこに、フォルケルは会って貰いたい人物が
いると切り出した。
「その人はどこに?」
「この家近くの泉にいるはずだ」
フォルケルは案内の元行き着いた泉では、明るい陽の光の髪の男の子が一人竪琴を弾い
ていた。
「あの子ですか?」
「そうだ。わしの息子のミーメだ」
「では、あの子が 」
戦争が終結し、アスガルドへ還るフォルケルの腕には一人の赤ん坊が抱かれていた。
妻亡き後ずっと独身で通してきた堅物が赤ん坊を連れ帰った、と言うことでちょっと
した騒ぎになった。
「大きくなりましたね。この腕にすぽんとはまるくらいだったのに」
赤ん坊のミーメを抱き上げていた時の感覚を思い出し、きゅと腕を作る。
フォルケルが去るまでの短い間、ジークフリートはしょっちゅうミーメに会っていた。
「いい腕です」
ジークフリートはしばし演奏に聴き惚れる。
技術的に幼いが、いい師匠に就き精進すれば成長した暁には一流の奏者になるだろう。
「私の記憶が正しいのなら、あの子はもう6才だ。ヒルダ様と同い年ですね。どうです、
城に出仕させてみては。よい遊び相手になるし、城にいる一流の奏者から直接習えます」
竪琴が弾ける毛色の変わった子供にヒルダやフレアはさぞ喜ぶだろう。貴族の子とは
ようと遊ばないハーゲンも、ミーメなら仲良くなるはず。家柄もフォルケルの子だ。
問題はない。
だが、微笑ましい光景を浮かべて緩やかな顔のジークフリートとは裏腹に、
フォルケルは厳しい顔つきになる。
「ジーク。私はあの子を戦士に、近衛に入れたいと思っている」
え!?とジークフリートはフォルケルの顔を見やる。
「それは得策とは思えませんよ。あの子はあのまま音楽家への道を進ませた方がいい」
「解っている。これは私のエゴかもしれん。だが、それでは名は残らん」
フォルケルは空を見上げる。
「あの子の両親を殺したのはわしだ」
「!?」
「不幸な出来事だった。一人残されたあの子を立派な男に育てようとわしは両親に
誓った。そこで考えた。どう育てればあの子の両親が満足するか。
そして思い立ったのが 」
フォルケルはゆっくりと振り向きジークフリートの顔を見る。
「ジークフリート、お前だ」
「私・・・?」
「『背中に痣を持つ者』の伝承をわしは知っている」
ぎくりとジークフリートの顔色が変わる。
「彼と供に復活する伝説の戦士 神闘士。わしはミーメをその一人にしたい」
「なっ・・・」
「神闘士となれば、その名はアスガルドの歴史に刻まれ、未来永劫語り継がれる。あの子
の名は永遠となるのだ。これしかないと思った。わしが命を奪った両親、そしてミーメへ
の償いはこれしかないと 」
ジークフリートはがしっと肩を強くつかまれる。
「教えてくれジークフリート。どう育てれば神闘士に選ばれる。あの子は、ミーメは
神闘士になれるのか!?」
フォルケルはすがりつくような目で迫る。つかんでいる手が震えている。それだけ彼は
真剣で、必死で。だが、ジークフリートは。
「知るわけないだろう、そんなこと!!」
どんっと思いっきりつき飛ばす。
「神闘士など伝説の存在。現実に存在しない」
「だが」
「フォルケル、お前は勘違いしている」
ぎっと睨みつけて言い放つ。
「ジークフリートは愚か者の名前だ! 愛する者を傷つけることしかできない、愚かな勇者
の名だ!!」
だっとジークフリートは背中を向け、走った。走った、走った。息が切れて、足が
がくがくと震え初めても走り続けた。
フォルケルとはそれっきり二度と会うことはなかった。
(このレクイエムは誰へのだ?)
フォルケルが殺されたと知らされた時は衝撃を受けた。急いで捜査団を設置、自ら率いて
捜査に当たった。
フォルケルは一撃で殺されていた。
もう老年の域に入っていたとはいえ、鍛え抜かれ、鍛錬を怠らなかった身体は頑強で、
相当の実力の持ち主でなければ一撃で殺すなどとても無理だ。自然、犯人候補の的は絞れ
られ、最も有力視されていたのが息子のミーメだ。彼にはフォルケルを恨む要素があった。
だが、この時すでにミーメはアスガルドから姿を消していた。
(何を思い過ごしてきた)
すっかり変わってしまった少年。
フォルケルにはあの後もう二度と会わなかったが、ミーメには正体を隠して何度か接し
た。
腕前をほめると照れくさそうに笑い、引く指に力がこもった。父との訓練がつらいと
こぼすことがあった。フォルケルは、かつてのジークフリートの時と同じ態度でミーメに
接したらしい。それは厳しくつらいものだ。
あのときの自分はもうなにもなかったから耐えられたが、ミーメはどう思っただろう。
愛する父が自分につらく当たる。愛する者に愛されないつらさ。
だから変わってしまったのだ。
顔つきも心も音色も 。
「フォルケルの墓へ入ったか?」
フォルケルと言った途端、ミーメの指がぴたっと止まる。
「墓は家の近くに作っておいた」
行ってやれとは言わない。
「邪魔したな」
背中を向けた途端攻撃してくるかと思ったが、なかった。ミーメは再び演奏を再開
した。
曲は先程と同じレクイエム。
(私も行かなければ)
そして謝ろう。
ミーメが神闘士に選ばれたことを。
神闘士が決して名誉な存在ではないことを。
その日の夜、ジークフリートは待ちに待った報告を受ける。
報告によると、聖域の内争は終わりアテナが戻ったこと。彼女が降臨したことにより、
聖域は落ち着きを取り戻し復興を始めたこと。彼女を護る青銅5人は黄金聖闘士全てを
倒し彼らに認められたこと。
ジークフリートはこの報告に喜々とする。
黄金だろうが、青銅だろうがかまわなかった。結果的に彼らが神闘士全員を倒せる
力量があればいいのだ。5人 対 8人。黄金12人を相手にしたのなら不足はない。
後は自然を装って演じさせるだけ。
舞台の幕上げは近い。