ある日、一日休暇をもらったジークフリートは、ワルハラ宮を見て回る。
聖闘士星矢 アスガルド編 ジークフリート
十数年前に書きました、ジークフリートを主人公として、「アスガルド編」に独自ねつ造設定を加えて書いた作品です。
なので「黄金魂」編の設定は入ってません。
たぶん、初めて書いた長編となります。
せっかくのなのでUP。

しぶるヒルダに無理を言って今日一日休みを貰ったジークフリートは、朝早く東回廊奥
にある部屋へ向かった。
ここは、以前のジークフリートの部屋の階下反対方向にあり、同じように人目に付きに
くい場所にあった。
しかし日当たりなどはよく、生活環境は以前のジークフリートの部屋よりはよかった。
この部屋は使われておらず、持ち主が決まっていないのに、ジークフリートはここを
住めるように整えさせた。
部屋に付くと、世話係の女二人が部屋のしつらえを整えていた。
二人はジークフリートが来ていることに気づくと慌てて手を止め、挨拶をした。
「ジークフリート様、おはようございます」
「おはようございます」
「おはよう」
ジークフリートは部屋に入ると中をぐるっと見回す。
今は途中だが、長年掃除をしていない時のにおいはしない。二人はきちんと命を果たし
ているようだ。
「ご苦労。何か変化はあったか?」
そう聞くと、二人は顔を見合わせる。どうしようと迷いのある顔にどんな些細なことで
もいいからと言ってやっと聞けた。
彼女たちの話によると、食事は下げに行くとほとんどなくなっており、部屋には使われ、
ベットには誰かが寝ていた形跡があったという。
気味が悪いという顔の二人に、ジークフリートは「そうか・・・」とほっとした笑みを
浮かべた。
ジークフリートが出て行った後、二人は仕事を再開しながら先程のこといついて話した
始める。
「なんなのかしらねぇ、あの方は。私たちは気味が悪いのに微笑まれて」
「そうね。まるでそうでよかったって、感じだったわね」
彼女たちは部屋係に任命された時一緒に奇妙なことを言われた。
この部屋には毎日掃除し、ベットメイキングをすること。食事を日に三度運ぶこと。
それらは決められれた時間に行わなければならずそれ以外の時間は入ることも近づく
ことも禁ずる、というものだった。
彼女たちは首をかしげ「なぜですか?」と聞いたが「機密であり、お前達が知る必要は
ない」と言われ、それ以上追求して何かあったら怖いので、そのまま大人しく命ぜられた
とおりにしていた。
「やっぱり聞いてみようかしら」
好奇心がうずいてきた一人がうーんとうなる。
「やめなさいよ。なにかあったらどうするの」
「だって気味が悪いじゃない」
「もし、ヒルダ様の耳に入ったらどうするの」
何でそこでヒルダ様が出てくるのよという顔に、そう言った女は恐ろしげに語った。
「この間、シャーロットが辞めたでしょ」
「知ってるわよ。一身上の都合でしょ」
「それがね。ヒルダ様付きの侍女の話によると、彼女が辞める日の前日にヒルダ様に
「そなた ジークフリートに気があるようだな」って言われたんですって。そしたら彼女、
顔を真っ青にしてその場に倒れたんですって」
「え・・・・?」
「その日一晩中うなされてね。次の日に即辞表を提出したんですって。
なんでもジークフリート様に色目を使ったとか疑われたみたい。ジークフリート様に
むやみに侍女を苛めたり解雇したりしてはいけないって言われてるから、手はお出しに
ならなかったらしいけど、あの方に睨まれたらいられないわよねぇ」
さあーっと聞いていた女の顔色が変わる。
「私たちも危ないってこと?」
「そうよ。私たちは女官長様を通してけど、ジークフリート様から直接任命も同然
でしょ」
おまけにこんな人目に付かない部屋の世話係などどんな尾ひれが付くかわからない。
顔色を悪くした女は、早くこの部屋から出て行きたくて急いで手を動かす。動かしな
がら頭の中で辞めることを考えた。
ジークフリートが次に向かったのは、西の塔付近。ここにある部屋は全ては物置として
使われており、兵も最上部に二人いるだけなので人かずは少ない。あたりを気にしながら
足音を立てないように静かに歩いていると、
「ジークフリート様」
壁に寄り添うように立っていた使用人と思われる青年が、すっと頭を下げて礼をとる
「ユーザか」
「はい」
「どうだ。彼らの様子は」
「酒の席でしょっちゅう愚痴をこぼしておます。時に物騒な言葉も飛びだしますが、
行動に移すことはないと思われます」
「だが、酒の酔いに任せて何をしでかすかわからん。引き続き監視しろ。それと何か弱み
かないか探れ。どんなささいなことでもいい」
「はっ」
彼が立ち去るのと同時に、塔の階段を上る。
現在もたらされる報告によると、両派ともヒルダに対する不信が次第に強くなって
いる。
当然だろう。短い間に政策がころころ変わり官僚も替わる。これで落ち着いて従えと
言われても無理だ。
何せ彼女の性格が大きく変わってしまったのだ。これにとまどい、ついて行けなく
なって辞めていった使用人の数は男女ともすでに二十名を超えた。
まとまった現金を手にできる職業が少ないアスガルドにあって、王宮に仕えることは
名誉であり、花形なのだ。
だからこの数は異常と言ってもいい。それほど彼女が好かれていたといえる。
(早く手を打たなくては・・・・)
神闘士は全員揃っている。実力ある彼らだが、彼らと対等に戦える闘士に当てがない
訳じゃない。
だが、そこに内紛があったと聞いており、頼れるかどうかは情報が少ない今判断が
難しかった。
密偵は放っているが、いつ帰るか、無事に帰ってこられるか、万全の準備をして送り
出したがそれでもわからない。その間に指輪が暴走するのを防ぎ、不信を持った人々が
暴動など起こさないようにしなくてはならない。
まだ人々の胸には前のヒルダが、指輪にはジークフリートへの愛情が残っている。
「それもいつまで持つか・・・」
不安で重くなる心と体を奮い立たせ、ジークフリートはある部屋のドアを開けた。
ほこりっぽいにおいが充満し、箱やタンスなどが雑然と置かれている物置で、なにやら
がたがたと置いてある荷物を動かす。
「確かここら辺にあるはずだが・・・」
箱の側面に書いてある文字を読んだり、ふたを開けて中を確認したりして、ようやく
見つけ出すことができた。
「よかった、あった・・・・」
顔がゆるみがすぐに曇る。
今、渡しておくべきか。だが、それでは期待をかけすぎはしないか。フェンリルには
あのまま人に対して不信を持たし続けておく方がいいのではないか。
しばらく箱を見つめ、ジークフリートはそれをそのままそこにおいて物置を出た。