忍者ブログ

幻想庭園

いろいろ書き散らしてます。 なお、掲載している内容につきましては、原作者様その他関係者様には一切関係ありません

嘆きの薔薇

柳(ヤナギ)         わが胸の悲しみ・愛の悲しみ・自由・従順・素直

クラウス×タキ

「花を請う」の続き タキ視点

前提

 戦後  帝の護衛のためにクラウスがタキの元を離れて一人大極殿にいる。


 

 


 クラウスが、宮内庁と総司令部の要請により帝の護衛となったのは、冬の寒さがもっとも厳しくなりながらも、春の訪れを告げる梅の木の蕾がほころび始めた頃のこと。

 春の祝宴に外国からも客人を呼ぶことになったのだが、戦後間もないこともあり、近衛だけでは心許ない、クラウスならその実力、経験だけでなく、騎士としての忠誠心の高さと諸外国への名声の高さから申し分ないと言うのが理由であった。
 もちろんクラウスは嫌がった。

 私も嫌だった。しかし、帝からも直々に頼むと言われれば、断ることはできなかった。
 クラウスは、私の言うことに逆らうことはしない。

 かくしてクラウスは一人大極殿へと入り、帝の護衛として、その側についた。

 それから梅の花が咲いて散り、
 春の象徴である桜の花も咲いて散った。

 季節は初夏。

 私の騎士はまだ戻らない。

 

「まだ、戻ってこれそうにないか・・・?」
 クラウスの膝を枕に、脱ぎ去った衣を毛布代わりに素肌にかけて、タキはクラウス
の頬に触れた。
 クラウスはタキの寄せる手を取り、愛おしげに頬をすり寄せながら「すまねぇ」と
謝る。
「まだ、体制が整わなくてさ。なかなか離しちゃくれねぇんだ」

 春の祝宴は無事に終わった。
  しかし、その裏で密やかに実行された陰謀が、クラウスをここへ縛り付けた。
 今、帝は片時もクラウスを離そうとはしない。
 他の者も、クラウスほどの武人はいないと任せるままにしている。

 
  『レイゼン。君はいつ、自分の騎士を帝に差し上げたんだい?』


 脳裏にあの男の言葉が蘇り、タキはクラウスの頬に爪を立てた。
「・・・つっ」
 クラウスが小さく唸った。

「どうしたんだ?」
  クラウスが、不安げな目でこちらを見下ろしてくる。
「タキ、俺がいない間に何かされたか?」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・」
 タキはそのときには答えず、ゆっくりと身を起こすとクラウスの首の後ろにそっと腕を絡ませた。
「タキ・・・?」
「よい。私のせいだ」
 己の愚行のせいの誹りは、自分で受けなければならない。
(それでも・・・・)


 数刻前の帝との拝謁の場。


 帝がいる御簾の向こう。


 帝しか入ることができないはずのその御簾の向こうに・・・・。


  ぎゅっと、クラウスの首に絡みついているタキの腕の力が強くなる。
「タキ・・・」
「クラウス、お前は私の騎士だ」
 タキは宣するように言い放つ。


 後悔している。
 どうして、クラウスを手放してしまったのか。


 差し出したこの手をクラウスが再び取ったときから、この男をもう二度と離さないと決めていた。
 奪われず、奪わせもせず。
 この金色の瞳が、他の誰かを見つめるのを許さない。
  この男の命が、他の誰かのために散ることなど許さない。
 この男の身も心も命も、そのすべてが・・・・。


「私のものだ。私の・・・」
「そうだ、俺はお前のモノだ」
 クラウスは、タキの背中に腕を回し抱き返す。
「俺はお前だけのモノだ。だから安心しろ、他の奴らのモノにはならない」
 そうしてクラウスは、タキの白い胸元に唇を寄せる。
「んっ」
 タキがびくりと鳴いた。
 クラウスはそのまま鎖骨、喉元へと唇を移動させ、最後に赤い唇を吸った。
 少し離して息を吸って、舌を差し出して、舌を絡めとる。
「・・・・んっふぅ、んんっ」
 ちゅくちゅくと音を出して口腔を犯す。
 名残惜しげに唇を離せば、とろりと白い液が舌を伝った。
「クラウス・・・」
 とろんとした眼でタキはクラウスの顔を見つめる。
「俺の身も心もこの命さえも、俺のすべてはお前のモノだ。」
 だからと、クラウスはタキを再び抱き寄せ、その身を胸に抱く。
「必ず帰る。俺の居場所はお前の傍だ。ここじゃない」
「クラウス」
 タキはその腕をクラウスの背中に回し、その胸に抱き預う。

 

「クラウス様ー」
 ドアの向こうで、廊下をばたばたと走り、ドアがバタンバタンと次々開けられていく音がする。
 その賑やかな音に、クラウスは顔をしかめる。
「ちっ、奴らもう来やがったか」
 ここも直に見つかっちまうなと、クラウスは床にパサリと落ちていたタキの衣を手に取り、タキのむき出しの肩にかける。
 そして名残惜しげにタキの身体をもう一度ぎゅっと強く抱くと、その身を離し、周囲に散らばった己が着ていた衣を拾い、身にまとう。
 きゅっと腰紐を締めて、クラウスはタキの方を振り返った。
「じゃぁ、俺行くな。俺があいつらを惹きつけておくからその間に出てくれ」
 まだ衣をつけず、そのままぼんやりとしているタキを、クラウスは心配げにその傍にしゃがみ、顔をのぞき込む。
「大丈夫か?タキ。着るの手伝ってやろうか?」
「・・・・・よい」
 タキは静かにゆっくりと首を横に振った。
「そうか・・・」
「クラウス・・・」
 タキはゆっくりと己の手を差し出した。


「必ず、我が元へ帰れ」


 クラウスは口元にうっすらとした笑みを浮かべ、その手を取り、口づけた。


「必ず、我が主」


 じゃあなと、クラウスの姿がドアの向こうへと消えた。
 窓も閉め切られ、薄暗い部屋に一人残されたタキは、先ほど差し出した手を頬に寄せた。
 一雫の涙が、静かに頬を流れた。

 

 

 


 

PR

コメント

1. 無題

はじめまして!
薔薇の小説楽しみながら読ませていただきました。
ちょくちょく覗きにきますね。

カレンダー

05 2025/06 07
S M T W T F S
1 2 3 5 6 7
8 9 10 11 12 13
15 16 17 18 19 20 21
22 23 24 25 26 27 28
29 30

リンク

ブログ内検索