ジークフリートを深く愛している黒ヒルダ。しかし、二人の思いはすれ違う。
聖闘士星矢 アスガルド編 黒ヒルダ×ジークフリート R15
十数年前に書きました、ジークフリートを主人公として、「アスガルド編」に独自ねつ造設定を加えて書いた作品です。
なので「黄金魂」編の設定は入ってません。
たぶん、初めて書いた長編となります。
せっかくのなのでUP。
ヒルダはとても不愉快であることを隠さなかった。
しかしゲイルロズはそれに気づかないのか、あの雪崩の件で自分がジークフリートに
どんな目に遭わされ、いかに自分の権限が傷つけられたかを熱弁する。
「近衛隊長は私なのですよ。いくら前隊長だからといって越権行為は許されません。
ヒルダ様どうか彼に処罰を」
ゲイルロズは自分が正しいと信じていた。ヒルダ様は自分が正しいとジークフリートを
処罰するはず。ぞのときこそ、自分が名実ともに近衛隊長になるのだ。
だから、信じられなかった。
この言葉は嘘だ、夢だと思いたかった。
正しいのは自分だ、自分なのだ。
なのになぜ 。
「言いたいことはそれだけか」
ヒルダの重みのある声が謁見の間に響く。
「ゲイルロズよ、私はずいぶんとお前を買いかぶっていたようだ」
「はっ?」
「お前がここまで愚か者であったとはな・・・」
ヒルダは傍らに立てかけていた槍を手に取りゆっくりと立ち上がる。ヒルダから
にじみ出る威圧感が、そこにいる人々を凍り付かせる。
「お前の愚かなる行動のせいで、私の優美なる時間は邪魔をされた。ゲイルロズよ。
全てはお前の愚かさ故だ。その愚かさをジークフリートのせいにするとは万死に値する!!」
ヒルダは槍先をゲイルロズに向け、小宇宙を底へ集中させる。
「お前のような者はいらぬ。死ねっ!」
槍先から光が発射される。ゲイルロズは恐怖から動くことができない。
「ひぃぃぃ」
届く直前、さっと横から影が飛び出し、ゲイルロズの前に立ちふさがる。
「ぐっ・・・」
影は全身から血を流しながら、床に膝をつく。
その場にいた誰もが驚きの声を上げる。ゲイルロズも、そしてヒルダも。
「ジークフリート!!」
驚きでよろめきながらヒルダは槍先を納める。
「なぜかばう」
「ヒルダ・・・様、むやみに命を奪っては・・・なりません」
「そやつはお前を侮辱した者ぞ」
「私の行為は越権行為・・・だった、それは偽りようのない事実です・・・」
ジークフリートは姿勢を直し、うやうやしく膝をつく。
「なにとぞご容赦を。この血に免じて・・・」
くぅと奥歯をかみしめ、ヒルダはくやしげにその場を去った。
それを許しと受け止め、ジークフリートは後ろで床にへたり込んで震える人物には
目もくれず、ふらりと立ち上がる。崩れそうになる身体を、壁際で一部始終を見ていた
シドとハーゲンに支えられながらその場を後にした。
ゲイルロズは自失呆然とし、同じく立ち会っていたアルベリッヒは嫌な予感をかみしめて
いた。
◇ ◇ ◇
『私は人々から慕われる戦士になりたいんだ』
彼はよくそう言っていた。
彼は人恋しかった。
産まれた時から彼の周りには人間がいなかったといっていた。
両親は生まれた時にすでになく妖精に育てられたという。
その妖精に裏切られた彼はひどく傷ついていた。愛されたがっていた。
しかし人慣れ、世間慣れしていない彼は人間の悪に遭遇することの方が多かった。
だから私は私だけは、私なりの方法で彼に力添えし、彼を愛した。
人払いをした部屋で、「ヒルダ」はベットの上に倒れ込み泣き伏す。
「うっ、うううっ・・・・」
なぜこうなってしまうのか。いつだって彼の幸せのみを考えてきた。
心から愛し、力を与えた。ジークは始めは喜んだ。
だがやがて悲しそうな顔をすることの方が多くなった。
それでも共にいた。
オーディンのあの命さえなければ二人は離れることはなかった。
(彼の望みはなに?)
隊長の雑務は煩わしかろうと地位から退けさせたのは間違いだったのだろうか。
だが、戻したところで一緒にいられる時間が減るのは嫌だった。
一緒にいたいのだ。ずっとずっと、あれの命が消え果てても・・・。
「ヒルダ様」
ドアの外からノック音と共に聞こえてくる声に、ヒルダはがばっと顔を上げ涙をぬぐう。
「入れ」
「失礼します」
入ってきたのはジークフリートで、所々に包帯を巻いていた。
「泣いておられましたか」
涙の後に気づいたジークフリートは少々痛々しげにその目元に指をはよわせる。
「あなたが涙を流す必要などありませんよ」
「・・・・・・・」
ヒルダは無言で額の包帯に手をそっと当てる。
「そんなにひどいのか」
「いいえ、シドに大げさに包帯を巻かれまして。大丈夫ですよ。二、三日すれば治ります」
「傷口を見せよ」
そう命じられ、ジークフリートは遠慮がちに額の包帯をするるととく。
現れた多数の小さな傷にヒルダは手を当てる。そこからあふれ出す小宇宙が、どこに
傷があったのかと思わせるかのようにきれいに消していく。その小宇宙に「ヒルダ」を
感じられジークフリートは懐かしく嬉しく思う。
「他にもあろう、全て見せよ」
「もういいですよ」
「見せるのだ」
観念したのかジークフリートは服を脱ぎ、身体中の至る所に巻かれた包帯を解いた。
愛しいものをなでるように、時には唇をはよわせて消していく。荒々しく貪るような
行為とは違う。けれど同じように胸が熱くなる。
「望みは何だ?」
ヒルダはふうっと吹きかける風のように耳元でささやく。
「お前の願う全ての望みを叶えてやりたい。何を望む?」
「私は・・・・」
雰囲気に流されてはいけない。真の望みは言うべきではない。ここで言うべきことは
アスガルドのため、ヒルダ様のため・・・これの機嫌を害さぬもの。
「では、まず 」
再び中枢部は騒がしくなった。
まず近衛隊長が更迭され後任にシドが選ばれた。立てられた政策の実行は凍結され、
依然と変わらぬ日常業務のみが行われた。
アルベリッヒは参謀として様々な意見や考えを述べるが、届きにくくなった。
皆がジークフリートを疑った。
彼の言うことをヒルダは何でも聞くことを先の件で思い知った。
そして害を及ぼそうとする者は排除されることを。
彼らは息を潜め目をこらしてジークフリートの一挙一動を観察した。どちらなのか
計ろうとした。一時は今のヒルダへの反対派とも思われた。
しかし、それはすぐに覆される。
「神闘士を復活させる」
愛のひとときを終え、気怠い空気に満ちた部屋にその言葉は冷気のように熱を下げる。
「我らが世界へ進出には聖域が邪魔だ。聖域を滅ぼすためには彼らの力が必要」
「ですが、彼らは伝説の存在では?」
「いや、実在するのだよ」
にやりとヒルダがジークフリートの顔を見上げる。
「宿命を背負いし戦士も揃っているようだし、今生が好機よ」
するっと身体を上に動かし、顔と顔を向き合わせる。
「世界を手に入れよう、ジーク。我らは世界の王となって全てを支配するのだ」
今度こそ、あなたを王に。
きっとこれが本望と思うから、ニーベルンゲンは動く。
ポセイドンに力を借りなくてやり遂げてみせる。
私はニーベルンゲン。
持ち主に世界を支配する力を与えるもの。
「あなたの望みのままに」
愛しい男の賛同を受け取り、ヒルダはにっこりと笑って口づける。
だから、気づかない。
ジークフリートの目があのときと同じ目をしていたことを。