アスガルドは、平和を守るから国力を増強することに舵を切り、他国を侵略することに。
変貌していく国をジークフリートはヒルダの傍で見ているばかり。
聖闘士星矢 アスガルド編 黒ヒルダ×ジークフリート R15
十数年前に書きました、ジークフリートを主人公として、「アスガルド編」に独自ねつ造設定を加えて書いた作品です。
なので「黄金魂」編の設定は入ってません。
たぶん、初めて書いた長編となります。
せっかくのなのでUP。
森に住んでいた邪悪な龍ファーヴニルが持っていた計り知れない財宝の中にそれは
あった。
指輪はたくさんあったが、中でもそれはひときわ輝き、その存在感を知らしめていた。
吸い寄せられるかのようにその指輪を手に取り指にはめた。
『誰だ』
どこからか声が聞こえた。あわてて周囲を見渡すが、鳥や獣の気配以外感じられない。
「誰だ、どこにいる!?」
『ここだ、お前の指にいる』
そこで俺は初めてこの指輪の力を知った。
「お前はしゃべれるのか?」
『私には魔力が宿っている。人と同じように考え、持ち主とならしゃべることができる』
驚いた。この指輪には心が宿っているのだ。
「俺の名はジークフリート。お前の名は?」
『人は私を「ニーベルンゲンリング」と呼ぶ』
城は以前より騒がしくなった。
首脳部は、陽の当たる場所へ出るために、まずアスガルドの南にある国へ攻め入ることを
全員一致で可決。十五才以上の男子に全員徴兵の義務が課せられた。
徴兵は近衛主導で行われるため、ゲイルロズは指揮しようとしたが経験がないだけに
手際が悪く、必然に副隊長のシドが主導権を握った。
ハーゲンはシドによりフレア専任の護衛の任を与えられ、毎日彼女の元へ通った。
アルベリッヒは、どうしたら効果的に攻め滅ぼすことができるか連日検討を重ねた。
その姿はまさに水を得た魚のようであった。
そんな彼らの働きに比べ、ジークフリートの仕事は暇そのものだった。
朝早く起きるとヒルダの元へ向かい、一日中彼女の側にいること。それが彼の仕事だ。
ヒルダは政務を大臣達に任せほとんど自室にこもり、ジークフリートに話の相手などを
させていた。どうしても、と言われ人前に出る時は必ずジークフリートを側に置いた。
外へ出かける時も必ずつれて行く。
それが彼の仕事なのだから誰も文句は言わなかったが、目くじらを立てる者はいた。
勢力図が変わったとはいえ、今まで自分の反対勢力の筆頭としていた人物が最高権力者の
側にいるのだ、気にする者は少なくない。ヒルダに何か吹き込むのでは、と言う者もいた。
しかし、今のところジークフリートは沈黙を貫いた。
今までなら反対に近い意見を述べていた政策を政務官が述べてもなにも言わず、
ただ突っ立っているだけ。彼らの言うことにもヒルダの言うことにもなにも言わない。
追い出された勢力からヒルダへの取り次ぎを頼まれても、自分がただの護衛だからと
断った。
どちらにも属さない存在になったジークフリートを、ある者は反感を少し筒募らせ、
ある者は警戒の目で見ていた。
夜が更けて、ヒルダの就寝の時間が訪れると、ジークフリートの仕事は終わる。
後は、ヒルダの部屋のほど近くにある小部屋で、近衛が交代で寝ずの番をするのだ。
彼らに後を任せ、ジークフリートはいったん退く。
だが、ジークフリートのもう一つの仕事がこれから始まるのだ。
自室へ帰り、次の仕事のための支度をすると、ジークフリートは部屋の壁のある部分を
そっと押した。たとえ巨大なハンマーで打ち抜こうともびくともしないはずの石の壁が、
薄い板切れでできたドアのように軽々と押し開く。その壁の奥には上へと続く階段があった。
ジークフリートはその階段を静かに上る。
かつて、この上の部屋に住んでいた女が、愛しい男に人目を気にせず会うために密に
作らせた秘密階段。その上の部屋に住める人間が、この国で最も大事な人物であったが
ゆえに、この回廊の存在は危険であるとして、その女の死後部屋ごと封印された。
その階段を下ってくるのを待っていた自分が、今度は上がっていくことが不思議だった。
行き着いた先にはドアがあり、彼はドアノブを回した。
「少し遅かったな」
そこは地上代行者の寝室だった。
あれ以来、ジークフリートはヒルダの望むままに動いた。
指輪は自分に執着していることをよく心得ているジークフリートはそれを利用しつつ、
これからのことを考えていた。
「ヒルダ」に戻った時に彼女が以前のままでいられるように、アスガルドが戦争を
引き起こす前に片をつけなければならない。犠牲もその後の動揺も最小限に。
(そのためにはどうするべきか・・・・)
「どうした?」
ジークフリートの下でヒルダがささやく。
「熱が入っていないようだな」
「今宵のあなたは昨夜にも増して美しく・・・」
「ふふ、うまいことを」
艶んだ笑みを浮かべながらヒルダはジークフリートの唇に吸い付く。
そのたびにジークフリートは胸が震える思いがした。
これは「ヒルダ」の意志ではない。けれど・・・・。
「こっちにも口づけをちょうだい」
ヒルダは両足を大きく開き、はしたなく蜜をたれ流す口を見せる。ジークフリートは
『彼女』が望むままに身体を下にずらしそこに口づける。と、
「ヒルダ様、起きておられますか!」
兵のあわてふためいた大声とドンドンと激しくドアを叩く音が先程までの妖しい雰囲気
を一変される。
せっかくのいい時をにぶち壊しにされ、ヒルダは不機嫌そうに鋭い声で
「なんの用だ!」と投げ返す。
「ヴェルダント山の山腹で雪崩が発生し、ふもとの村が埋もれました!多数の住民が
巻き込まれた模様。ヒルダ様急ぎ赴きください!!」
塀は分厚いドアが遮らぬよう咽から声を振り絞って必死に火急であることを伝える。
しかし・・・、
「その必要はない」
ヒルダの冷たい言葉に、兵は驚く。
「で、ですが」
「なんのために近衛がいるのだ。ヤツらが行けばよいだろう。ヤツらは何をしている」
「副隊長のシド様が全員を率いて向かわれました。隊長のゲイルロズ様も仕度ができ次第
向かわれるかと」
「ならそれでよいではないか。私がわざわざ行く必要はない」
「は、はぁ・・」
「まだなにかあるのか!」
「い、いえ、夜分に失礼いたしました」
ヒルダのすごみ声に兵はあわててその場から去る。フンと鼻を鳴らすと、
ジークフリートの方へむき直す。
「どうした?動きが止まっているぞ?」
「は・・・」
「つまらぬことで邪魔されたからな。機嫌を直せ。さあ・・・」
ヒルダの促され、ジークフリートは愛撫を再開する。
ジークフリートは今までもよりもより激しくヒルダを抱いた。濡れそぼった秘部に
いきり立つ己を入れ、先程のことでの苛立ちをぶつけるかのように貫く。
寝台がぎしぎしと壊れるのではないかと思うほど揺れ動く。あまりの激しさに
ヒルダはひぃひぃと泣いた。
「ああ・・・は、激しすぎるわ・・・・もっ、もっとゆっくり・・・・」
しかし聞く耳持たぬかのように、ジークフリートはさらに激しくヒルダを突き上げる。
「あっ、そんな・・・・もう、許し・・・」
「くうっ」
「あ、ああ っ!!」
身体を弓なりに反らしシーツに爪を立て、絹を引き裂くような嬌声を上げヒルダは
意識を手放した。
ジークは息を整えながら、ヒルダの呼吸が荒くから穏やかな寝息に変わったことを確認
すると、自分と彼女の身を離し、寒くないよう布団を掛けてやる。
そして、さっとシャワーを浴び、散らばった服を急ぎ身につけると、秘密階段を駆け
下りた。
◇ ◇ ◇
現場の村では兵達がわらわらと救援活動に追われていた。
一瞬のうちに財産と大事な人たちを失い打ちひしがれる人々を励ましつつ保護し、
まだ雪に埋もれたいる人々を助けるために雪を掘っていくが、辺りは暗く、雪は散り吹き、
またいつ何時雪崩が二次発生するやも知れない状況下で救助は難航していた。
シドは要所要所で的確な指示を飛ばしていたが、ゲイルロズが来てからそれも叶わなく
なった。ゲイルロズは自分の権威が貶められるのを嫌い自分が指揮すると言って聞かず、
シドとの対立を深めていった。
「そんな指揮で動けるか!」
「うるさい!私が隊長だ、私の言うことを行け!」
日頃の相手に対する不満が噴出し一発触発の雰囲気の中、誰かが叫んだ。
「ジ、ジークフリート隊長!?」
その声にシドとゲイルロズは争いをぴたっと止める。
「ジ、ジークフリート・・・!?」
「来てくれたか!!」
愛馬にまたがり、散り吹く雪を切り裂くかのように迫ってくるのは、間違いなく
前近衛隊長ジークフリートだった。
「隊長!」
「ジークフリート様」
ジークフリートは現隊長と副隊長の前で馬を止める。
「ジーク」
「知らせを聞いていても立ってもいられなくてな」
シドと兵達の顔色が明るくなる。しかし、
「何の用で来られたのかなジークフリート殿」
いかにも邪魔だと言わんげにゲイルロズが抗議の声を上げる。
「ここは我々がやります。あなたはもう近衛ではないのですからさっさとかえ」
ドカッと鈍い音ともにゲイルロズは横に吹っ飛び、目をむいて気絶する。
「ゲイルロズ。お前が隊長になるのを反対すべきだったよ」
ジークフリートは兵士達の方へ向き、声高らかに叫んだ。
「皆、住民達を助けるために今一度私の指揮に入ってくれ。全ての責任は私が取る」
一瞬シン・・・とするが、
「了解」
「承知しました隊長」
「どうかご指示を」
隣でシドがニッと笑い、遠くでハーゲンがぐっと親指を上に立てる。
ジークフリートの的確な指示のもと救出は順調に進み、夜が明ける頃にはほぼ全員の
安否が確認された。
村人の半数が死亡。重傷者も多く、この村は消滅する可能性が高い。
いくら雪に囲まれているとはいえ、過去数十年、これほど大規模の雪崩の発生は例にない。
これもきっと、祈りを辞めてしまったことが原因だろう。
両極の氷が溶けるのを防ぐために捧げられる祈り。
だが、被害はまず自国にやってくる。
これはまだ警告。
災厄はまだ始まったばかり。