忍者ブログ

幻想庭園

いろいろ書き散らしてます。 なお、掲載している内容につきましては、原作者様その他関係者様には一切関係ありません

黄金の指輪(3)

 ヒルダの変貌は、政変まで引き起こした。
 近衛隊長の座を去ることとあったジークフリートに与えられたのは・・・。


 聖闘士星矢 アスガルド編 ジークフリート シド


  十数年前に書きました、ジークフリートを主人公として、「アスガルド編」に独自ねつ造設定を加えて書いた作品です。
 なので「黄金魂」編の設定は入ってません。
 たぶん、初めて書いた長編となります。
 せっかくのなのでUP。







 その日からアスガルドは急激に変わっていった。ヒルダは祈りを止め、全ての神事が
執り行われなくなった。
 そして大臣以下政務に携わる者達の総入れ替えが行われた。新たに重臣となったのは、
反ヒルダ派を含む陽の当たる場所を望む者達だった。ただ一人を除いて   


「アルベリッヒよ、お前を参謀に命ずる。その頭脳を私のために使え」
「はっ、ありがたき幸せ」
 アルベリッヒは慎み深く任を受けながら、内心は喜々としていた。
 今まで疎まれ閑職に追いやられていたというのにこの大抜擢だ。参謀は政務、軍事とも
大きな影響力を及ぼす。
(全ての者が俺の前に跪く!)
 たとえ後ろにヒルダがいるとしても、いまはそれで満足だった。この時ほど、あの場所
であった出来事を傍観していてよかったと思ったことはなかった。
 しかし、一つだけ懸念が残った。ジークフリードが未だ役名につけられていないのだ。
 近衛隊長の座はアルベリッヒを支持する者に与えられた。もうジークフリートが務まり
うなポストはない。それつまり、お払い箱ということだ。
 しかし、あのヒルダがジークフリートを手放すとは思えない。
「ジークフリートよ」
「はっ」
 ヒルダに呼ばれ、目の前で跪いていたジークフリートが返事をする。
「お前の役目は私の護衛だ」
 広間がざわついた。それに背中を押されるようにアルベリッヒが真意を問いただす。
「お待ちくださいヒルダ様。近衛隊長のポストはすでにお決めになったではありませんか」
「近衛隊長とは、軍の総責任者と言うことだ。ジークフリートにそんな煩わしい職務は
やめさせ、私の護衛に専念させる」
「では、ジークフリートは城に残すと?」
「そうだ」
 不満の声が上がったにもかかわらず、アルベリッヒはそれ以上何か聞くのをやめた。
 余計なことを聞いてせっかく貰った地位を不意にさせられてはたまらない。
 あのヒルダはジークフリートにご執心らしい。
 今しばらくヒルダをおとなしくさせるためにも、その方が好都合というものだ。
(それに、俺はヒルダ様の参謀だ。地位は俺の方が上だ)
 言うべきことは全て言い終わり、閉会となった。
 ヒルダが去った後、人々の声は大きくなった。
「ヒルダ様は何をお考えなのだ?」
「我らに陽の当たる場所を与えるだと?」
「ヒルダ様はようやく我らの言い分を認めてくださったのだ」
「やっと日の目が当たってきたぞ」
「しかし、ジークフリートは残るのか」
「役得には就いていないのだ、そう心配するとことあるまい」
 様々な話が談じられる中、ジークフリートは静かに腰を上げ、方々から投げかけられる
視線と声を無視して、広間から出て行った。


 すぐに自室には戻らず、執務室に向かった。
 扉を開け、そのまましばし部屋を眺める。
 代々近衛の統率者である隊長が使ってきた部屋。ジークフリートがこの部屋の主と
なったのはわずか十歳の時だった。
 十六年前の戦争終結後、責任を問われた当時の隊長フォルケルにその座を譲られて
以来、ジークフリートはこの部屋で過ごした。
 今改めて眺めていると、胸にひしひしと愛着と哀愁がわいてきた。
(なにを感傷的になっているんだ俺は・・・)
 わき上がってきた感情を振り払い、私物の整理を始めた。
 その途中シドが訪ねてきた。
「あなたがこの部屋とこんな形で別れるとは」
「私はもう近衛隊長ではないんだ。当然だろう」
 がたがたとあちこちから私物を引っ張り出してはまとめていくジークフリートの姿を、
シドは悲哀を込めた目で眺めていた。
「手伝いましょう」
「いや、いい。私物はほとんど置いていないんだ。すぐに片付け終わる」
 全ての私物を机の上に出し、持ち運びしやすいよう箱に詰めていたとき、廊下から
がやがやと騒がしい声が近づいてきた。
「この声は」
「新しく隊長に就任したゲイルロズだな」
 ゲイルロズは、シドやアルベリッヒと同じくらいの名門出身でアルベリッヒの支持者
でもあった。
「やぁやぁ、これは前隊長殿。荷物の整理は終わりましたかな?」
 後ろに部下を二、三人引き連れて、にやにやとしながらゲイルロズが入ってきた。
 ゲイルロズはジークフリートより5つほど上であり、年下で庶民の出である
ジークフリートが軍の最高責任者であることを妬んでいた。
「早う明け渡して欲しいものですな。今日からここは私の部屋ですので」
「口が過ぎるぞ、ゲイルロズ」
 シドが牙を向ける。
「隊長の座には、前隊長からこの部屋を渡されたとき初めて着くのだ。お前はまだ渡され
ていない。従って未だ隊長はこのジークフリード。無礼な口をきくな!」
「なにぃ」
 ゲイルロズの後ろにいた男達が逆に牙を向ける。間に流れ始めた険悪な空気を止めた
のはジークフリートだった。
「よせ、シド。これからゲイルロズ殿は隊長となった方だ。副隊長を務めるお前が隊長と
もめてどうする。近衛同士で争いを起こすなど、ヒルダ様が悲しまれる」
「しかり。さすがジークフリート殿だ。解っていらっしゃる」
 満足げなゲイルロズに、シドはくっと悔しがる。
 ジークフリートは箱のふたをぱたんと閉めた。
「これでまとめ終わった。シド、運ぶのを手伝ってくれないか」
「あ、はい」
 最後に、ジークフリートは一つの鍵束をゲイルロズに差し出した。
「これが代々近衛隊長が持つ鍵束だ」

 かちゃり。

 ゲイルロズが受け取ると同時に、ジークフリートとシドは部屋を去った。




 ジークフリートの部屋へむかって廊下を歩く間、シドはむかむかとしていた。
(明日からあんな男の下で働かなければらないなど、冗談でもきついのに)
 こう見えて人への好き嫌いが激しいシドにとって、拷問にも思えた。
「そんな顔をするな」
 ジークフリートがやれやれと言った口調で慰める。
「ヒルダ様がお決めになったことだ、仕方あるまい」
「そうですが、この度の人事納得がいきません」
 あのアルベリッヒがヒルダ様の参謀とは。あれほど嫌っておられたのに、いったい
ヒルダ様はどうされたのだ。
「あんなヤツが指導者など、アスガルドは滅亡への道を歩むぞ」
「シド、口を慎め。」
 ジークフリートは叱咤する。
「場所を考えろ、誰に聞かれているか知らんぞ」
「・・・・・・・」
 ぶすっとした顔で黙ってしまったシド。二人は無言で歩いていたが、ジークフリートが
おもむろに口を開く。
「シド、ゲイルロズは軍人を多く排出してきた家の出身だが、長く文官として勤めてい
た。軍事に関してはさっぱりだろうよ」
 シドは、はっとしたようにジークフリートの顔を見る。そしてくくっと小刻みに震え、
にたりと笑った。
「そうだでした。明日から楽しみですね」
 腹の底にどす黒いものを抱えたシドにジークフリートは苦笑しながらも、そっとエール
を送ったのだった。


 部屋の前に着くと、女官達があわただしく出入りしていた。手に持っているのは
ジークフリートの物だ。
「これはいったいどういうことだ・・・?」
 ジークフリートは彼女たち達を指揮している年配の女官に聞いた。
「お前達は何をしている?私の荷物をどこへ?」
「ヒルダ様のご命令でございます。ジークフリート様の部屋を変えられるようにと」
「新しい部屋に移れということですか。それはどこに?」
 シドが聞くと、驚くべき返事が返ってきた。
「南回廊にある部屋のうち、中央の部屋でございます」
 その部屋は人が住む機能を全て備えていたにもかかわらず、なぜか長きにわたり使用
することを禁じられてきた部屋だ。
「間違いないのか」
「はい」
 きっぱりと言い切られてしまった。頭がくらくらとする。
「全ての荷物を運び終わりました」
「ご苦労様。ああ、お二人が持っている荷物もお運びしてね」
「いや、これは自分で」
「それは困ります。私たちがヒルダ様に叱られてしまいます」
 女官達は二人の手から荷物を取り上げると、さっさと運んで行ってしまった。
「・・・・・・・」
「ねぇ、ジーク。本当にヒルダ様はどうなさられたんでしょうね」
「さぁ・・・」
 アスガルドで何かが起こっている。
 だが、それがなんなのか・・・。
 つかみようのない不安が、ジークフリートの心に渦巻いていた。



PR

コメント

カレンダー

07 2025/08 09
S M T W T F S
1 2
3 4 5 6 7 8 9
10 11 12 13 14 15 16
17 18 19 20 21 22 23
24 25 26 27 28 29 30
31

リンク

ブログ内検索