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幻想庭園

いろいろ書き散らしてます。 なお、掲載している内容につきましては、原作者様その他関係者様には一切関係ありません

Adler Wolfjagd(アードラー ヴァルフヤクド)

百日の薔薇 ベルクート→クラウス

原作未来ねつ造注意。

狼はバラの元から鷲の手により連れ去られた。




 政変の果てに、皇国よりエウロテに戻った王妃一行。
 そのときの随行員は一人増えていた。


「・・・・というわけで、陛下、無事任務を遂行いたしました」
「ご苦労様。さすがは、私の大鷲(ベルクート)」
 せっかくの王妃の褒め言葉もさらりと流し、ベルクートは御前を失礼しようとする。
「あら、もう少しいなさいよ」
「もう報告は終わりましたので」
「最近つれないわねぇ、ベルクート。私たちの仲でしょう」
「失礼します」
「ねぇ、そんなに彼の具合は悪いの?」
「相変わらずです。ですが、医者の見立てによると順調に回復しているようです」
 ベルクートはそう短く返事をすると部屋を去った。
「全くなんという態度だ。いくら我らがエウロテに戻るのに多大な貢献をしたと言え、
陛下の言葉になんと無礼な」
「それだけ、執着しているってことよ」
 ふふっと王妃は口元に笑いを浮かべる。
「彼、黙っていればすごいハンサムよ。お前達も見たでしょう。あの髪と瞳の色。
ここの貴族にあの色を持つ者はいたかしら。もしいれば、すぐに近衛入りとなったでしょう」
 それにしてもと、王妃は思う。
(あの執着は復讐心からだと思っていたけれど)
 ベルクートの目尻のあの傷は、あの男が付けたという。
 あの列車であの男を見たときのベルクートのあの目。
(案外当たってたのかもしれないわね)
 そうして王妃は愉快そうに笑った。
「いまごろ、薔薇の師団長はどうしているかしら」
 彼が今ここにいると知ったら、あの美しい師団長は、はどんな顔をするだろう?



 王妃の元を下がったベルクートは、さっさと王宮を後にした。
 以前の彼の行動からしたら考えられないことだった。
 王妃と渡りを付けて以来、王妃の護衛としてベルクートは王妃の元を離れたことは
なかった。皇国にいたときでさえだ。
 だが、今のベルクートは、時間があれば、すぐに自分の屋敷に戻る。
 今までの功績として、王妃に与えられたベルクートの屋敷は、反王妃派の貴族から
没収した屋敷の中でもトップクラスの規模と美しさを持っている。
 貧しい一市民の出であり、貴族的な教養やら物質には興味がないベルクートには、
さほど感嘆をもたらさなかったが、アレを手元に奥にはちょうどいいと気づいてから
はいいもらい物をしたと初めて喜んだ。
 屋敷につくと、雇ったばかりの執事が主人を出迎えた。
「お帰りなさいませ、ご主人様」
「おい、あいつの様子はどうだ?」
 玄関が開けられるなり、執事の挨拶を無視し、ベルクートはずんずんと屋敷の奥へ
と突き進む。
「とくにおかわりはございません」
「入るぞ」
 目的の部屋に着くと、ベルクートはノックもせずにドアを開ける。
 部屋の中は、真ん中にダブルよりもさらに大きなベットが鎮座し、その傍らでは看
護師らしき女性が椅子に座って監護をしていた。
「おかえりなさいませ。本日もおかわりはございません」
「さがれ」
 そういわれると、看護師はさっさと部屋を後にし、部屋にはベルクートだけが残さ
れる。
 いや、もう一人いた。
 鎮座するベットには、一人の青年が寝かされていた。
 ベルクートは、ベットの上に競り上がり、青年の顔をのぞき見る。
「クラウス」
 ベルクートは青年の名を呼んだ。
 しかし、反応はなく、消えゆくような呼吸音がするだけだ。


 あの日、皇国から脱出したときのことだ。
 ベルクートは、追いかけてきたクラウスと再び闘った。
 皇国に来たときと同じように、中間地帯で。 
 あの時も冬だった。
 中間地帯は、降り積もった雪で地面は白く覆われていた。遙か彼方、地平線までも。
 激しい銃撃戦を制したのはベルクートだった。
 何発のも銃弾をクラウスの身体に撃ち込んだ。
 クラウスの身体は弧を描くように背中から地面に倒れ伏した。
 とどめを刺すためにベルクートは、クラウスに近づいた。
 そして、見てしまった。
 ライカンスロープと呼ばれたほどの戦士の死に際を。
 真っ白な雪の上に散らばる、金色の髪。
 飛び散る鮮血は、まるで薔薇の花びらのようにクラウスの身体を彩っていた。
 その、なんと美しいことか。
 喉がゴクリと鳴った。


 思い返せば、あの空で邂逅したその日から、ベルクートはクラウスを追っていたけ
れど、その身に直接触れたことはなかった。
 王妃とともに亡命したとき皇国レイゼン領にいたときでさえもだ。
 同じ屋根の下にいて、言葉も視線も交わしたことはあるけれど、その身に触れるこ
とはついぞなかった。
 目と鼻の先にいて、手を伸ばせば触れられる位置にいたのにだ。
 互いに突きつけるのは銃なのだから、仕方がないのかもしれないが。


 ベルクートは、片方の手袋を外した。
 そして、ゆっくりとクラウスに近づけた。
 ベルクートの指先がクラウスの頬にそっと触れる。
 クラウスの目は、開かれなかった。
 頬をつたう指先からじんと体中がしびれる。
 知らない土と水にまかれ、求めた愛を手に入れられることはなく、それでも求めた
ものに、己の誇りも含めた総てを捧げたクラウスの顔。
 ベルクートはその青ざめた唇に口づけた。
 血と錆の味がした。



 Adler Wolfjagd(アードラー ヴァルフヤクド) 訳 鷲の狼狩り

 芥子(ケシ・白)   眠り・忘却
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