いろいろ書き散らしてます。 なお、掲載している内容につきましては、原作者様その他関係者様には一切関係ありません
どこの国にも物怖じしない子供とはいるものだ。
戦場から帰ったクラウスが一人で一服していると、どこからともなく小さな視線が数人分突き刺さる。
「タキ様の騎士だ」
「すげぇ、金髪だぁ。目も金色だぜ」
「耳でけぇ。しっぽも長いし、ふさふさだぁ」
そう遠くないところで4,5人固まってキャアキャア言っている。
これを聞くと、クラウスは今年も新人が入ってきたなぁと感じる。
この国に来て数年。存在は認知されてはいるが、やはり話を聞くだけと、実物を目にするのとでは違うらしい。
毎年のように少年兵(しんじん)に見世物扱いされ、この目としっぽについて言われるのにも、もう慣れた。
最初はあれほどうっとうしかったのに、慣れとはすごいものだ。
ファンサービスとばかりに、しっぽをばたばたと動かしてやる。
途端、歓声が上がる。
「動いたぁ~」
「すげぇ~」
目がきらきらと輝く。
猫は動くモノを襲う習性がある。
この国来たばかりの頃、初めて会ったタキの妹たちにしっぽの毛をむしられたが、今はクラウスにそんなまねをする者はいない。
現に彼らは遠くから見つめるだけで、近寄ってすら来ないのだ。
昔は畏怖で、今はあこがれが過ぎて。
でも、中には一人くらい物怖じしない子供というモノだ。
その証拠に、ほら・・・。
「クラウス様!!」
興奮で頬を紅潮させた少年兵の一人が、傍に駆け寄ってくる。
「お疲れ様です。ご無事のお帰りなによりです」
「おう、ありがとな」
にっと笑いかけてやると、子供の顔がぽわっとなり、耳としっぽがぴぴーんと立つ。
「あ、あのほかのみんなが言ってました。今日もクラウス様がすっごく活躍されたって」
「活躍ってほどでもねぇさ。いつもどおりだ」
クラウスは一服吸い、はぁと白い煙を吐き出す。
「お前、新人か?」
「は、はい。先月から配属されました。カイリ・イトウ候補生です」
カイリは、ぴしりと猫の耳と背中としっぽを立て敬礼する。
「そうか。なぁカイリ。お前はどんな軍人になりたい?」
「クラウス様みたいにです」
クラウスの問いに対し、カイリは即座に答えた。
「へぇ、なんでだ?」
「だって、クラウス様ほど強くかっこいい方はいらっしゃいませんから」
「・・・・そうか?」
「はい!!」
にっこり笑って答えるカイリが可愛くて、クラウスはふっと頬を緩める。
「そうか、まぁがんばれ」
「僕もいつかクラウス様のようになれますか?」
カイリはクラウスに問いかけた。
「そうだな・・・」
クラウスは不敵に笑う。
「それさえ忘れなければ、お前もなれるさ。あいつみたいにな」
あいつ?という顔をするカイリに、クラウスはにやにやと笑う。
そこへ・・。
「クラウス様、こちらにいらっしゃったんですか」
やっと見つけたいう顔をした青年が、息を切らせつつクラウスに向かって走ってくる。
「すぐに作戦会議室にお越しください。総司令部からクラウス様宛に入電です」
「ご指名かよ。また面倒ごとを抱えやがったな」
クラウスはピンと煙草を地面に投げ捨てようとして、
「クラウス様。煙草はここに」
青年が携帯灰皿を取り出す。
へいへいとそこに煙草を押しつけ、じゃあ、行くかと歩き出す。
「君ももう戻りなさい。あそこにいる子たちにも伝えること」
ピッと固まりを指さし、いいねと念を押すように言うと、青年は灰皿をしまい、クラウスの後に続いた。
二人がだいぶ離れてから、わらわらと少年たちが出てきた。
「あれ誰~?」
「俺知ってる。ハルキ・ヤマモト少尉だよ。青年将校一番の有望株でクラウス様の副官さ」
「なんかさ、最初タキ様直属になるはずだったんだけど、タキ様とクラウス様に直訴して、クラウス様直属にしてもらったんだって」
「クラウス様がこの国来たときから、クラウス様のことを慕ってたんだって」
「すげぇ~」
「司令室ではタキ様もいらっしゃっております」
「タキもか。こりゃ相当厄介なヤツだな」
「はい。ですが、クラウス様なら大丈夫です。僕も全力でサポートいたします」
「はっ、そりゃありがたいね」
ハハッと笑うクラウスは、おっそうだと先ほどのことを口にする。
「さっきさ、カイリってガキが話しかけてきたぜ。俺みたいになりたいってさ」
「今のこの国に、クラウス様に憧れない者はいませんから」
クラウスのタキを守りたいという思いと騎士としての働き、そして戦場での活躍は、年月と共に、この国の人々のクラウスへの評価を様変わりさせた。
いまやクラウスのことを敵のスパイと言う者はおらず、逆にこの国の英雄、レイゼン自慢の騎士と言う者まで現れた。
その証拠に、毎年入隊してくる少年たちの口からクラウスを侮蔑する言葉は聞かれない。
(こいつが一番最初だったんだよな・・・)
クラウスは、後ろ目でちらっとハルキを見やる。
大人たちのまねをして、クラウスのことを侮辱すること口にしていた少年たちの中で唯一口にしなかった少年。
あこがれと慕う心だけを持ち続け、突然背負わせてしまった重みを己で背負い、己の力と変えた少年。
その少年が今や若手ホープとなり、クラウスの副官となった。
『もし、僕が士官になったら、クラウス様の副官にしてください』
それは幼き日、ハルキが口にした願い。
あの頃は、タキ共々政変と陰謀に翻弄され、軍に居られるどころか生死さえ危ぶまれていた。
その中で願われた、死など少しも恐れない若い生命だけを宿している少年の望み。
叶えられるかどうか分からなかった。
不確実な約束はしたくなかった。
それでも、自分に向けられる強い憧れを宿した眼差しに負け、約束した。
『ああ、いいぜ。お前が俺のそばにまで来れたらな。約束だ』
はたして、クラウスとタキは何とか難局を乗り越え、約束の日はやってくる。
師団長(タキ)直属の椅子を蹴ってまで、ハルキはクラウスの傍に居ることを熱望した。
『約束したじゃないですか、クラウス様。僕はあなたの副官になりたいんです!!』
いいのかと問うクラウスに、ハルキは迫るような勢いでそう言い放った。
「あいつもさ、いつか言うかもしれねぇなぁ」
「なにをです?」
「俺の副官になりたい」
途端にハルキが声を荒げる。
「ダメです。クラウス様の副官は僕だけです」
「おいおい・・・」
クラウスはあきれた声を出す。
「若手ホープが何言ってんだ。そのうち一個小隊を任すぞ」
「えっ、嫌ですよ。クラウス様配下なら別ですが」
「騎士(おれ)が隊を持てるかよ」
騎士は主の所有物だ。あらゆる権利を放棄しているので、隊を持つと言うことはその観念に合わない。直属の副官を持つことも異例のことだ。
「そのうち追い出すからな、覚悟しとけ」
「そんな、クラウスさまぁ~」
涙目になるハルキをクラウスはハハッと笑い飛ばす。
全くどうしてここまで入れ込まれたのか。
異質なモノに惹かれるのは子供の特性だけれど、こうも長く続くとは。
『僕、クラウス様みたいになりたいです』
幼き日のハルキの口癖・・・。
(光栄なこって)
絶対、本人(ハルキ)には言ってやらないけれど。