姫君と婚約者 アリィシア
雨のせいで、ガルディアに会えないアリィシアのお話。
十数年前に書いたものがでてきたので、せっかくなのでアップしました。

ザァ ッ。
アリィシアは、もうずっと昔からこの音だけを聞いているように思えた。
三日前からディアゴール王都周辺は厚い雲に覆われている。
雲は抱えてきた大量の水分を捨てるかのように雨を降らした。
その雨量の多さと激しさで三日前からアリィシアはガルディアに逢っていない。
おかげでアリィシアの心は空を覆うあの雲のようにくすんでいた。
(はぁー。いつまで降るのかしら)
降りしきる外を見て思い浮かぶ言葉はそればかり。
アリィシアは、一日に一回以上ガルディアの顔を見なければ生きていけない躯なのだ。
なのにもう三日も見ていない。
ガルディアの方から逢いに来てくれることは 、ガルディアはアリィシアと
一ヶ月は逢わなくても平気なので、それは奇跡に等しかった。
そんな時用に肖像画を作らせていたのだが、実物に比べると効果は微弱だ。
(逢いたいなぁ)
逢いたい。
ガルディアの顔が見たい。
そうしたら、このくすんだ心など一瞬で晴れ上がるのに。
逢いたい。
逢いたい。
いまずぐに。
「・・・・こうなったら」
アリィシアはすくっと立ち上がると、外に向かってビシィッと指さした。
「見てらっしゃい。あたしのガルディアへの愛は、あんたごときには負けないんだから!」
そうしてアリィシアはアルミラらを呼び、濡れても大丈夫な服を用意するように言った。
◇ ◇ ◇
「姫様、危険でございます!」
「おやめください!!」
必死に止める侍女を振り切るかように、アリィシアは厩の方へ走っていく。
「とめないで、みんな。今、あたしのガルディアへの愛が試されようとしているときなの!」
たかが三日くらいの雨で・・・と思えるが、恋は盲目状態のアリィシアには、雨も
立派な障害なのだ。
長い廊下を抜け、階段を一気に駆け下りると、外への扉は目の前だ。
より一層勢いよく走り、扉をバンッ!とぶち開ける。
「あっ!」
開けた瞬間、アリィシアの目に飛び込んできたのは、流れる水の壁ではなく、きらきらと
光る世界であった。
あれだけざんざんぶりに降っていた雨は、30分かそこらの間に綺麗さっぱりあがって
いたのである。
(きれい・・・)
木々の葉についた水滴が空からの光を辺りに乱射させ、まるで散りばめられた宝石が
きらめいているようだ。
それは、アリィシアの行く道を飾り立てるかのようだった。
アリィシアは空を見上げる。
去っていく薄暗い雲。
その間から降り注ぐ光。
そして 。
「わあ っ!」
空に架かる七色の橋。
「虹だわ!」
王都をまたぐように架かる虹を、アリィシアは王城からガルディアのところへと
結んでいるように思えた。
「光が導いてくれてるんだわ」
愛しい人の元へ 。
行かなければ!
アリィシアは、厩へ急ぎ、馬を用意させ飛び乗ると、疾風のように駆けだす。
逢いに行くのだ。
白い翼をもつ黒き魔法使いの元へ。
そしてたくさんの話をしよう。
アリィシアは、光の橋を渡るかのように駆けていった。