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幻想庭園

いろいろ書き散らしてます。 なお、掲載している内容につきましては、原作者様その他関係者様には一切関係ありません

幸福と平和

聖闘士星矢 アスガルド編 ジークフリート×ヒルダ

本編後、神闘士が復活してから数年後の設定です。
二人は結婚して子どもがいます。
そのほか、設定をいろいろねつ造してます。


十数年前に書いたものがでてきたので、せっかくなのでアップしました。
創作を始めたばかりの頃で、つたないです。










 五月。
 晴れ渡る空の下で人々の笑い声と祈りの言葉が響いていた。
 二十年前の今日、アスガルドを存亡の危機の貶めた戦争が終結した。
 アスガルドの各地では訪れた平和とその後の平穏を喜び、一方でこの戦争で亡くなった者達への弔いの祈りが捧げられた。
 生と死が共に祝われる日。
 この日は、ヒルダにとって別の理由で特別な日だった。
 ヒルダは、二十年前のこの日の朝、この世に生を受けた。


「お疲れ様でした」
「今日はとても疲れました」
 一日が終わり、娘を寝かせ、二人きりになってやっと、ヒルダはねぎらってくれる
夫に甘えた。
 今日は朝から仕事詰めだった。
 記念式典に加え、いつもの祈りも捧げなければならない。
 生を喜び、死を悼む。
 そこに、ヒルダの誕生を祝う言葉はない。


 平和の証と言われた。
 自分が生まれたから戦争が終わったのだと。
 なのにこの日が来ると皆終戦を記念するのに忙しく、自分の誕生を純粋に祝ってはくれない。
 両親さえも・・・・。

「お誕生日おめでとう」
 髪をなでられながら、耳元に囁かれた言葉。
「ありがとう」
(この人と娘だけね)
 今日という日をヒルダの誕生日として喜んでくれるのは。

 ある年、ヒルダはこの状況に絶えられなくなり、とうとう宴の最中に広間を抜け出した。
 人気のない裏庭でヒルダはワンワン鳴いた。
 一度あふれ出した涙は止まらなかった。
『どうなされました、ヒルダ様』
 追いかけてきたのはジークフリートだった。


「あっ」
 ヒルダは突然肩にもたれ掛かっていた体勢から膝の上に載せられ、ぎゅっと抱きしめられる。
「どうしたの?」
「うれしいんです」
 腕に力がこもる。なにかこらえるように、ジークフリートは言った。
「また、あなたの誕生を祝えることが、こうして触れられることが」

 あのとき、私はいらないのだと泣いた自分にジークフリートは怒ったような口調で言いはなった。
『バカなことを言いなさるな』
 ジークフリートはじっと私の目を見つめていった。
『あなたに会えたことは俺にとって最大の喜びです』
『あなたがいたから俺は救われた』
『この国にとっても、ご両親を始め全ての民、そして俺にとってあなたは失えない大事な人です』
 今思うと、あれは盛大な愛の告白ではないだろうか。
 でも、まだ幼かった自分はそんなことわかるはずもなく・・・・・ただ嬉しかった。
 たった一人でも自分の誕生を心から祝福してくれる人がいた。
 ただ、それだけで・・・。

「うれしい」
 ヒルダは向き合うように膝立つと、きゅっと抱き返した。


 プレゼントなんかいらない。
 豪奢な宴も必要ない。
 うわべだけの言葉はもっといらない。
 ただ一言を心から。
 そう言ってもらえる。
 これ以上の幸せを私は知らない。



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