聖闘士星矢 アスガルド編 シド+バド 兄弟話
十数年前に書いたものがでてきたので、せっかくなのでアップしました。
創作を始めたばかりの頃で、つたないです。

返しておこう。
わざわざ今日のような日に渡す物ではないけれど。
これ以外は思いつかなかった。
「入るぞ」
ぶっきらぼうに挨拶して乱暴にドアを開けるバドを、シドは向かっている書類から
目を離して笑顔で迎えた。
「どうしました?パーティーは夜ですよ?」
「わかってるさ。ちゃんと出る。でもその前に渡しとこうと思ってさ」
バドは腰に差していた短剣を一本取りシドの目の前に置く。
装飾はシンプルだが、一目見て決して些末な作りではないと判る短剣。
刻まれている紋章は、顎に届くほどの長い犬歯を持ちかつて地上最強と言われた
虎(サーベルタイガー)。名前は・・・・。
「これは、あのときの・・・・」
シドは震える手で短剣を手に取り、信じられないようなものを見るような目で
まじまじと見つめた。
刻まれた名前だけが違う一対の短剣。
自分たちのつながりを唯一証明する物。
でも、そんなこと知らなかった自分はあっさりと手放し、後に知った両親に
こっぴどく叱られた。
「何度も売ろう、さもなくば捨てようと思った」
バドは自分で自分を嘲笑うかのような顔になる。
「でも、できなかった。なんでだろうな」
何度も何度も実行しようとした。けれど、いつも土壇場でひっくり返る。
こんな自分が女々しく思えて腹正しくて。行き場のない衝動が胸の内にたまっていった。
「こいつは返す」
「でも、兄さん・・・」
「二本もいらないからな」
シドはそれ以上聞かなかった。聞かなくても、バドは答えを出したのだ。
「話はそれだけだ」
邪魔して悪かったなときびすを返すバドを、シドは立ち上がり、
「待ってください」
振り向いたバドにシドは、
「兄さんからだけじゃ不公平だ。俺からも・・・・」
でもなにを?
少し迷ってそうだとシドは勢いよく窓を開けた。外の冷気が一気に室内へ流れ込む。
「さぶっ。おいシド」
なにすんだと文句たれるバドの目の前で、シドは窓から身を投げ出した。
「シド!」
バドは慌てて窓辺に駆けるよる。だが、シドは優雅に着地しておりバドを見上げて
呼びかける。
「兄さんも降りてきてくださーい」
大声を上げて両手を振る弟になに考えてんだとぶくつきながらも、バドも同じく
窓から飛んだ。
シドはバドが着地したのを見届けると、きょろきょろと辺りを見回して、赤い実を
つけた木を見つけ駆け寄る。その木の枝でも折るのかと思いきや、シドはすぐ側に
しゃがんで足下の雪をかき集め何かを作り始める。
バドが首をかしげながらも歩いて側による。
シドはその木から赤い実二つと葉を二枚ちぎり雪の固まりにつけた。
「どうぞ受け取ってください」
シドが差し出したものを見てバドは目を丸くした。
「なんだこりゃ?」
「見てのとおり、雪うさぎです」
いや、それが判るが何でそれがプレゼントなんだ?
シドの意図することが皆目見当つかないバドはますます頭を混乱させる。
「私が兄さんから奪った物はたくさんあります」
シドがしんみりとつぶやく。
「でも、軽々と譲ることはできない。両親ももういない。あのときのウサギも
今すぐとはいきませんから・・・・」
そこでバドはやっと弟が言いたいことを理解した。
(それで雪うさぎね)
考えることがいかにも育ちのよい善人な貴族らしい。
昔なら、まだ互いが互いを知らぬふりを続けていた頃なら激昂していたに違いない。
けれど、今こうして互いに向き合い会話を交わす関係なら・・・。
「もらっとく」
シドはにっこり笑った。
バドはどうやって持ち帰ろうかと考えた。