聖闘士星矢 アスガルド編 ジークフリート×ヒルダ
十数年前に書いたものがでてきたので、せっかくなのでアップしました。
よそ様のサイトに差し上げたものです。
手の上なら尊敬のキス。
額の上なら友情のキス。
頬の上なら満足感のキス。
唇の上なら愛情のキス。
閉じた目の上なら憧憬のキス。
掌の上なら懇願のキス。
腕と首なら欲望のキス。
「『さてそのほかは、みな狂気の沙汰』 か・・・・・・」
ジークフリートはフランツ・グリルパルツァーの『接吻』と言う詩を読んで、
そこでぱたんと本を綴じた。
昼間のフレアの言葉には驚いた。ヒルダのどこにキスをするなど、この詩のことだと
わからなければとんでもないことに発展しただろう。
(ハーゲンが言い当ててくれてよかった)
シド、ミーメ、ハ-ゲンはもちろん手の上。フェンリル、トール、バドもそれに同じ。
アルベリッヒは意地の悪い笑みを浮かべて、あわや唇・・・・かと思わせて手の上に。
その時、ほっとした空気というのはこういうものだとジークフリートは知った。
ヒルダの心の底からほっとしたという顔も。
最後にジークフリートの番になった時、なぜか空気が緊張した。皆に食い入るように
じっと見つめられ、ジークフリートはその場でかたまってしまう。
(何であんなに見るんだ)
その時のことを思い出し、ふぅとため息をつく。己の気持ちが周囲にバレバレなのは
知っている。だからといって、どうするどうする興味津々・・・の目で見ないでくれと
彼らの節度のなさにまいっていると背中に温かいものが触れる。見覚えのある白い腕が
胸の下あたりをぎゅっと締める。
「ヒルダ様」
「見つけました」
いたずらっぽい微笑みに、ジークフリートも先程とは違う柔らかな笑みをかえす。
「見つかってしまいましたか」
「ええ、まだみんな探してます」
「それは参りました」
「でもここには来ないでしょう。ここは私とあなたの秘密の場所」
ヒルダはどんっと頭を背中に押しつける。
ここは愛の聖地、神聖なる場所。二人だけの、二人きりの・・・。
「願いは決まりましたか?」
そう聞かれ、ジークフリートは正面を向く。
あの時ジークフリートはヒルダの手のひらにキスをした。 掌の上は懇願。
懇願とは何かと皆に詰め寄られ、ジークフリートは、
「皆が願うことだ。ヒルダ様がいつまでもご健康であられてその笑みが絶えぬように」
とヒルダの側近らしいことを言うが、その答えに納得できないフレアに詰め寄られ、
フレアにせかされ好奇心も手伝った面々に追いかけられ、ジークフリートはここに
かくれていたのだ。
「あの願いが私の願いです」
「本当に?」
背中からかかる声にジークフリートはきゅっと胸を詰まらす。
「本当です。あなたがいつも微笑んで、アスガルドを愛して・・・・」
まわされたヒルダの左手にそっと己の手を添える。
「そしていつまでも私を愛してくださるように」
遠回しにしか告げない気持ち。
だが、ヒルダはさらに意地悪を言う。
「ならどうして唇にしないの?」
痛いところを突かれ、今度はぐっと咽を詰まらす。
「それは・・・・・皆の前ですし・・・」
「私は許すと言いましたよ」
鋭い指摘が胸に突き刺さり、ジークフリートは胸を押さえる。今日のヒルダは意地悪だ、
と哀しみが心の涙となってひとすじ流れた。
同時にわき上がった羞恥心に声を詰まらせながら、必死に言葉をつないで本心を告げる。
「その・・・・・・・・・恥ずかしかったんですよ。本当にしたら冷やかしの対象になるし・・・・・それに・・・・・」
添えられた手がヒルダの手をぎゅっと握る。
「唇なんかにしたらきっと止まらなくなる」
ヒルダはジークフリートの頭を見上げる。柔らかなウエーブの髪が揺れる後ろ頭からは
恥ずかしさと照れ具合が透けて見える。
「ヒルダ様、私のキスはどこにしても『狂気の沙汰』なんですよ」
恥ずかしさで今にも倒れそうな心情のジークフリートにヒルダはとどめの言葉をあげる。
「私はそのキスが一番好きですよ」