いろいろ書き散らしてます。 なお、掲載している内容につきましては、原作者様その他関係者様には一切関係ありません
クラウスは6月の薔薇を摘む。
日が昇る前から起き出して、登り切る前に摘み取ってしまう。
何度か、自分も手伝うと申し入れたが、クラウスはわかったと言いながら、いつも一人ですべてしてしまう。
クラウスが造った庭で、クラウス以外には私を含め少数者しか入ることが許されないその庭で、その薔薇は咲く。
決して誰の手にも触れさせることのないクラウスの薔薇。
一度だけ、クラウスが薔薇を摘んでいる姿を見たことがある。
そこには自分の知らないクラウスがいた。
クラウスは、まるで祈りを捧げるように、その薔薇に口づけるように摘んでいく。
丁寧に優しく。
その姿は儚かった。
まるで、薔薇に囚われてしまったかのように。
私はその姿に手を伸ばすことさえかなわなかった。
クラウスは摘み取った薔薇の花びらでジャムを作る。
レシピは、彼の姉が彼が国を捨てる際に餞別でくれたと言っていた。
一度だけ食べた、生まれて初めて食べた薔薇のジャムの味。
クラウスにとってその味は故郷の味。
もう二度と帰ることのない故郷と彼を唯一繫ぐもの。
そのせいだろうか。
そのジャムは甘いはずなのに、
口に含むとどこか苦い。
クラウスはすべてを捨てて私のところへ来てくれた。
後悔はないと、私の傍に入れて幸せだと。
『俺はお前のもの』
皆は私をとても大切にしてくれる。
けれど、誰が私のためにすべてを捨てるだろう。
クラウスだけだ。
クラウスだけが、すべてを捨てて、私にすべてを捧げてくれた。
幼き日、藤の木の下で出会ったとき、願った。
『どうか、この男が私のものになりますように』
10年の時を経て、その願いは叶えられた。
その代償はあまりにも大きい。
それでも、彼を手放すことはできない。
きっともう私はもう二度と、この甘い蜜の味を味わうことはできないのだろう。
それが、私に課せられたクラウスを手に入れた代償。
それでもいい。
それで彼を私のものにできるなら。
蜜はいらない。
欲しいものはここにある。