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幻想庭園

いろいろ書き散らしてます。 なお、掲載している内容につきましては、原作者様その他関係者様には一切関係ありません

世間知らずの優しさ  

幻獣の國物語  香耶 統利 モブ女あり。
夫婦なのに、夫への恋心がまったくないが、妙な正義感はある香耶のお話。
20年近く前に書いたものがでてきたので、せっかくなのでアップしました。
まだ、創作を始めたばかりの頃で、非常につたない作品です。
書き足してもいいけれど、一応まとまっていたので、このままアップ。
キャラの性格が、原作と違うなぁ。





 はっきり言って、統利は女たらしである。
 二十数年生きてきて、手に付けた女は星の数・・・・といったら多すぎるが両手足の指の数を足しても数えきれぬほどの女と付き合っていたことは確かだ。
 その為か妙な因縁を引き寄せてしまい、面倒ごとに巻き込まれることはたびたびあった。 
 そのたびに己の持てる力のいくつかを行使して、片付けてこられたのであるが・・・・。
 今回ばかりはそうはいかなくなってしまったのである。



 ある日のこと、統利は香耶をつれて市街に降り、隠れ家の一つで何日か過ごすことにした。
 その隠れ家はその名の通り世間一般からは秘密だった。勿論例外はあり、中には昔付き合っていた女も何人かは含まれていた。
 その昔の女が滞在中に訪ねてきたのである。
 しかも厄介な問題を抱えて・・・・・。


 ◇  ◇  ◇


「わたくし妊娠しましたの」
 やって来るなり開口一番そう言い放った女は、統利の昔なじみの娼妓館の女だ。
「貴方の子です」

 統利は何度かこの女と寝たことがあった。それは認める事実。
 さて、このようなとき問題になるのが、お腹の子の父親は本当に統利かと言うことだ。
 女の腹はまだ初期のせいか外からはなんの変化もみられず、本当に妊娠しているのか
皆目つかない。ウソという場合もある。
 このような状況下に置かれた妻子ある一般男性は、大抵「本当に妊娠しているのか」とか
「お腹の父親は本当に僕なのか」と言って受け止めず、よほど良識ある男性か優柔不断男以外は
「堕ろしてくれ」と言うのが世の常である。
 不思議なことに統利は、驚愕するとか、批難や反論を述べることもなく黙って女の話を聞いていた。 
「でも、だからと言って、わたくし貴方に結婚を迫るためにここに来たのではありませんの」
 それを聞いて統利は来たなと思った。
「とは言いましても、女手一つで子供を育てるのは大変ですし、わたくしみたいななんにも
ない女がまともな職に就けるわけでもありません。何よりこの国は女に冷たいですから」 
 可陀は軍事国家であるためか、男尊女卑の慣習が強く、女性の権限は著しく低い。
 近年それを撤廃しようという動きもあるが、まだ社会に浸透してはいない。
「で・・・・金をよこせと」
 やっと本音が出たなという態度の統利に女はくすくす笑う。
「よこせ、だなんてそんな・・・。ただわたくしはこの子の父親としての責任を取ってもらい
たいと思っただけですの」
 それを脅しというのだと心の中で毒づくが口にはしない。
「いくらだ」
 さっさと終わらせたい統利に女はにっこりと笑みを浮かべた。
「そうですわね・・・・一千万ほど頂きましょうか」
 一般男性にとっては目玉が飛び出る値段だが、統利に言わせればはした金である。
 懐から小切手帳を取り出し、いくらか書き込んで、一枚を破り女に渡す。
「これで我らの関係は終わりだ。再び遇うことがあっても我らは他人。わかっておろうな?」
「心得ております」
 女は極上の笑みを浮かべそれを受け取ろうとした     。


「ちょっと待つのじゃ     !!」


 バァン!と派手な音を立てて扉が大きく開いた、と共に若い女の声が部屋に響き渡った。


 ◇  ◇  ◇


「・・・・香耶」  
 いつからそこに・・・・。
「もしや聞いて・・・」
「統利、おぬしという奴はなんという薄情な奴なのじゃ     !!」
 統利の型割にいる女が目に入っていないかのように、香耶は真っ直ぐ統利の方につかつかと
歩み寄り、統利をビシッィ!指さし、語気を強め怒りを込めて言い放った。
「こんな哀れな、しかも身に子を宿すおなごにいたわりの言葉一つかけぬとは、おぬしに
情というものはないのか!」
「いや、あのな香耶・・・」
「おまけにこの父親はおぬしと言うではないか。父親でありながら妻子共々路上に捨て去る
とはなんたる下劣なる行為!」
「だから、その・・・・」
「そして、捨てられてもおぬしを恋い慕いやっと探し当てたと思ったら、金で全てを解決し、
再び冷たい世間に捨て去ろうとするおぬしの所行、妾は断じて許さぬ!」
「あの・・・・」
 弁解の言葉を述べようとする統利を無視し、香耶は女の方に振り向く。
「女よ」
 目の前で繰り広げられる行為を青い顔をしながら黙ってみていた女は、いきなり呼ばれて
びくっとする。
「今まで苦労であったのぅ。おぬし名は?」
「あ、あの・・・・・き、金連と申します」
「そうか、金蓮か。美しい名じゃ。金連よ、安心いたせ。あんな薄情な男など頼らずとも
よい。おぬしと腹の子の面倒はこの香耶がみてしんぜよう」
「ええっ!?」
「なにぃ!?」
 思いもよらぬことを言われ、統利も金連も素直に驚きの声を上げる。
「い、いえ、でも利さんには貴方様がいらっしゃいますし、わたくしなど・・・・」
 金連は遠慮の姿勢を見せ、統利もそれに同調するかのように、
「そうだ、我は女など囲う気はないぞ」
 それを聞いた香耶は額に青筋を浮かべて、統利に怒鳴りつけた、
「今更なにをぬかしておるのじゃ!おぬしは後宮に女を五十人も抱えておるではないか!
今更女の一人や二人どうってことないであろう!」
「ご、ごじゅう・・・?」
 はじめて聞かされた事実に金連は唖然とする。彼女は統利が女たらしで、金持ちであることは知っていたのだが、実際そんなに多くの女を囲っていることは知らなかったのだ。
「で、でもそんな所に行きますと、子供が・・・・・」
 寵愛を受けようと陰謀渦巻く後宮でもし跡継ぎを産んだら、どす黒い抗争に巻き込まれるのは必至だろう。とくに皇帝の子ならば・・・・・。
「心配か?ならば・・・・・おお、そうじゃ」
 香耶はぽんと手を叩く。
「その子は妾が育てれば用意のじゃ」
 それを聞いた統利と金連の心境は、驚くと言うよりまずい展開になったなという方が正しいだろう。
「子供というのは幸せな環境で育たなければならぬのじゃ。たとえ不義の子だろうが、その子
自身に罪はない・・・。そうじゃ、そうすればよいのじゃ」
 我ながら名案じゃと得意げな香耶に対し、金連の顔色はますます青くなり文字どおり真っ青になった。
 統利も最悪の展開になったと苦り切っている。
「そうと決まればさっそく準備してこなければ」
 香耶はもう二人など視界に入っていないかのように、一人自分が取るべき行動を考える。
「まず部屋の用意じゃな。あと衣装も整えて・・・・。そうそう赤子のためにもいろいろと
必要じゃのぅ。では、妾はちょっと行って準備させてくるから、待ってておくれ」
 香耶はパタパタと走り、この部屋から出て行った。
 

 ◇  ◇  ◇


 嵐のような出来事に金連はしばし呆然としていた。金連にとってこれは全くの予想外の出来事であった。彼女はただ目的を果たせればよかったのだ。香耶の申し出に対しどう対処するか・・・・、それが第一に考えなければならないことだが、頭が回らない。
「金・・・・連・・・・・・・おい、金連」 
 統利に大きな声で呼びかけられても、反応は薄い。
「・・・・・・・はい・・・・」
「おぬし、どうする。我の元に来るか?」
 一度捨てられても追いすがろうとする女が、こう言われて喜ばない者はまずいないだろう。
 しかし、金連にはどうしてもそれを喜べない、香耶の申し出を受けることは出来ない事情が
あった。
「いえ・・・・わたくしは・・・」
「腹に我の子がおるのだろう」
「いえ・・・・」
 先程までお腹に統利の子がいると豪語していたのが、急におとなしくなった。躰も小刻みに
震えている。
「あの・・・・利さん」
「おらぬのだろう」
 金連ははっとした顔つきで統利の顔を見る。
「おぬし、本当は子など宿してはおらぬのだろう」
 金連は顔をうつむかせ、小さくコクンと頷いた。
 統利はやれやれと懐からキセルを取り出し、一服した。
 こんな女が幾人来ただろう。
 統利が今まで付き合ってきた女達の中で、統利から金をせびろうとした者が何人かいた。
大抵欲に駆られた者だったが、若干名はやむにやまれぬ事情という者だった。
 統利はそんな女達の要望を黙って叶えてやっていた。
 それで面倒が片付けば安いものだと思っていた。
 それにいざとなれば     。
 今回の金連の件もそうだ。
 香耶が出しゃばってさえこなければ、短時間で解決したのだ。
 逆に余計に面倒になってしまった。

「理由は聞かぬ」
 聞いてもろくでもないか暗く深刻化どちらかであるし、第一聞きたくない。
「・・・・ここから逃げるか?」
「逃がしてくださいますの?」
 疑惑めいた目を向ける金連に、統利はああと肯定する。
「逃がしてやろう。我は女には優しいのだ」
 最後の部分の戯れ言もここから逃れたい金連にはどうでもよく、ただ逃がしてくれるという
言葉にかけた。
「金もやろう。手切れ金だ」
 統利は金連を立たせ、耳打ちする。
「但し、此度のことは誰にも漏らすな」
 もしそうなったらどうなるか・・・・・金連は経験と本能で知っており、絶対に口にしない
ことを約束する。
 統利はにっと笑い、金連の背中を押し、逃亡を促す。
「ここを出たら右へ行け。突き当たりの廊下を左に行き、一番奥のドアを開けたら裏口に出る。
そこからは一本道だ」
 挨拶のそこそこに金連は懐に大事そうに小切手をしまい、ドアから少し顔を出して、誰も
いないことを確認し、走り去っていった。


 問題の元凶は去った。 
 しかし、一番厄介な問題が残っている。
 あの世間知らずの香耶に、このようなたかり行為があることあると説明しても理解する
であろうか?
 逆に不信を増大させ、侍女を通してあらぬ噂を立てられても困る。
(頭の痛い問題だな)
 だが、統利の対策を練る時間を与えぬかのように、香耶の足音がすぐそこまで迫っていた。 
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