火宵の月
琥龍×禍蛇
十数年前に書いたものがでてきたので、せっかくなのでアップしました。
まだ、創作を始めたばかりの頃で、非常につたない作品です。
禍蛇 今年六〇歳。
成人して、晴れて琥龍の女になったけど、妻になったけど・・・・。
「このっ!浮気者 !!」
バキィッと威勢のいい派手な音が鳴る。
綺麗に入った拳に琥龍は三mは吹っ飛んだ。
「俺という者がありながら、他の女と寝るなんて!今日は帰ってくるな!」
ビシィッと決めゼリフを放つが、ピクリとも動かない琥龍の耳に果たして届いていた
だろうか?
この光景を目撃した外野は 。
「あーららっ」
「またかよ」
「綺麗に入ったな」
「ありゃー、しばらく動けねぇぞ」
と心配しているのかけなしているのか分からない台詞を吐く。
毎度おなじみの光景。
一五年前からちっとも変わらない。
禍蛇は琥龍の妻になったけれど未だに絵に描いた餅のようなものだ。
それというのも 。
「やだぁ、琥龍大丈夫?」
「ちょっと、しっかりしなさいよ」
「琥龍、あたしがずっーと側にいて、看病してあげるからね」
「ちょっとなに言ってんのよ。琥龍を看るのはあたしよ」
「違うわよ、あたしよ」
「あたしだって」
倒れている琥龍の周りで言い争う女達。
つまりはこういうことだ。
相変わらず琥龍を誘う女は多い。
これは村の成人した男がまだ数えるほどしかいないことも一因だろう。
一応、琥龍は村一番のいい男とされている。
抱かれるならいい男、有無ならいい男の子供という女の心情であった。
そして、それに琥龍もふらふらとついて行ってしまう。
後で、禍蛇が鉄拳制裁を下す。
このパターンから妻になっても離れられない禍蛇であった。
◇ ◇ ◇
いい女になりたい。
火月・・・・は無理として、他の女に目が入らないくらいに。
家に帰った禍蛇は、化粧箱から鏡を取り出すとのぞき見る。
金髪紅眼。
大人の証。
だけどまだ童顔。
成人したてだから仕方がないのかもしれないけど・・・。
でも、火月はこのくらいのとき、もっと大人っぽい顔立ちしてたのに、何で俺は
子供っぽいんだ?
うーんとうなりながらいろんな顔をしてみる。
怒った顔。
笑った顔。
目を伏せたり、
唇を動かしたり、
頬をあげてみたり・・・。
「なに、百面相してんだよ」
えっと、見ると鏡の中の自分の後ろに見慣れた足が映っていた。
「こ、琥龍いつのまに・・・」
「お前が鏡を覗き込み始めたくらいからな」
「ずっと見てたなぁ~~~」
かぁーっと顔が熱くなる。頭から湯気が出てきそうだ。
「今日は帰ってくんなつってんだろうが!出てけ!」
「なんだよ、いつものことだろ」
「うるさい、バカッ!」
「お前が一番だって」
「 そう言って・・・」
興奮のあまり絶句してしまった禍蛇をあやすように胸に抱き寄せる。
「お前が一番だ」
「 !!」
こう言われると、禍蛇は琥龍に敵わない。
敵わなくて悔しい。
こうやって、いつも禍蛇は琥龍の手玉に取られるのだ。
そうしてまた同じことが繰り返される。
それでも、禍蛇は琥龍が好きだった。
どんなに浮気されても、
どんなに女としてみられなくても。
「ちくしょ~~~」
好きだ。
どんな時も、琥龍を信じている。
信じているから、嫌いになれない、離れられない。
「ほらっ、禍蛇」
琥龍は少しかがんで、禍蛇の唇にちゅっと口づける。
「これでかんべんな」
「~~~~~~~////」
悔しいのと嬉しいのが入り交じって、うまくしゃべれない。
「・・・・・・・・・やっぱ好きだ」
やっと出た言葉に、琥龍はにんまりと笑うのであった。