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幻想庭園

いろいろ書き散らしてます。 なお、掲載している内容につきましては、原作者様その他関係者様には一切関係ありません

神様だって嫉妬する

聖闘士星矢エピソードG  ティータン夫婦
十数年前に書いたものがでてきたので、せっかくなのでアップしました。

 永遠に続くかと思われた苦難の果てに、肉体を取り戻すことが出来たクロノス。
 しかし、アイオリアの想像を絶する攻撃を受けた結果、神としての記憶を失ってしまう。
 己が何者であるか。
 己がなぜ、現世に在るのか。
 生い立ち、生き様、全てを忘れてしまったクロノスに、臣下の神々はとまどった。
 とりあえず、いったん落ち着かせてから説明することとなった。


 さて、その説明役として、面影の色が濃く、名前も真っ先に覚えたヒュペリオンが請け負う
こととなった。
 自ら覚えている限り、主観、客観取り混ぜて、思いの限りを尽くして懸命にヒュペリオンは
説明した。
 クロノスは、能面のような顔で、ただ頷くだけだったから、本当に聞いているのか解って
いるのか心配になったが、まず一通り覚えてもらうのが先と、最後までそのまま話した。
「・・・なるほど、よく分かったヒュペリオン。ところで」
「はっ、なにか」
「あの柱の影から、ハンカチを噛みながら、鬼のような形相でこちらを見ている女は誰だ?」
 え?とクロノスが指さす方向に目を向けると。
「・・・・・レア(汗)」


「おーのーれー、ヒュペリオ~~~~ン(呪)」
 本来なら、あの位置にはわたくしがいるはずだったのに。
 真っ先に名前覚えてもらったからって、横取りしやがって!
 眼から嫉妬の炎がほとばしり、かみしめたハンカチがキリキリと鳴る。
「まあまあ、レア」
「ちょっと落ち着けって」
 その一歩後ろで、冷や汗かきつつテミスとイアペトスが諌めの言葉をかけていた。
「これが落ち着いてられますか!」
 レアに恫喝され、二人はすくみ上がる。
「妻のわたくしを差し置いて、なぜ、真っ先に思い出したのがヒュペリオンなのです!」
「それはまあ・・・」
「仕方ないじゃん。あいつが真っ先に復活したんだから」
 二人は反論するが、どうも声に気迫がない。
 レアはますます気を昂ぶらせ、ハンカチを噛む音が一層大きくなる。
「男に負けるなんて!わたくしの妻としての立場が~~~~~!!」
 だぁーっと相貌から滝のような涙を流し、とうとうハンカチを引き裂いてしまった。



「ぬっ、なんだ。突然泣き出しおった」
「レア・・・」
 あの女は貴方の妻です。と説明したところで、記憶のないクロスにそれがすぐ理解できる
とは思えないし、「妻とはなんだ?」と質問されでもしたら、答えに窮する。

 また、変に解釈されたらレアの恨みを買い、最悪の場合殺されかねない。
 どちらにしろ、危機的な状況に追い込まれたヒュペリオンだった。


  ◇  ◇  ◇


 ヒュペリオン達は気づかなかったが、この光景をドアの隙間から見ている影が三つあった。
 影はそっとドアを閉め、中の人に気づかれぬようこそこそと移動する。
 もう大丈夫だろうという距離まで来て、影の一人が話し始めた。
「いーなぁー王は。あれだけ思われてさ」
 テテュスのうらやましそうな声に、クレイオスとムネモシュネは怪訝な顔をする。
「そうですか?」
「我なら、あんな重苦しい愛など迷惑なだけだがな」
 二人の連れない言葉にテテュスは、ぶうーっと頬をふくらませ、すねた口調になる。
「だぁってぇ、あたし、あれぐらいにオケアノスに思われたいもん」
「愛されているでしょう」
 その証拠が、彼女がオケアノスとの間に産んだ子供の数だ。
 その数約六千人。
 女神が産んだ子供の数ランキング一位だ。
 まぁ、愛が無くとも子供を産めると言うが、オケアノスに浮いた話は浮上しなかったの
で、テテュスは妻として愛されたのだろう。
「そうだ、あれだけ子供を産んどいて、まだ足りないのかお前は」 
 後何人産む気だと、クレイオスは呆れる。 
「そうじゃなくて、あたしもオケアノスにやきもち焼いてもらいたいの」
 二人ははぁ!?と首を傾げる。
「やきもちって、裏を返せばそれだけその人のことを愛してるってことでしょ。あたしは、
愛してるってよく言うのに、オケアノスってば、その一言も滅多に言ってくれないもん」
「結果に出ているではないか、結果に」
 クレイオスの言葉に、ムネモシュネも相づちを打つ。
「そりゃそうだけどさ。ちゃんと表現して欲しいの。言葉が駄目だったら、態度でさぁ」
 だからその結果が子供の数なのだが、思考力に欠けるテテュスに思いつくはずがない。
「テテュス、それは我が侭というものです」
「そうかなぁ」
 テテュスは、今ひとつ納得できないという顔をする。
 と、突然ポンと手を打つ。
「そうだ、実際に焼かせればいいのよ」
 聞いた瞬間、クレイオスとムネモシュネの眼は点になる。
「そうよ。振り返ってみれば、あたしオケアノス以外の男に目移りしたこと無いし、
やきもちの焼きようがないのよ」
 浮気でもして、やきもちを焼いたらオケアノスの愛も判るし、その態度でその深さも判る  というのがテテュスが考え出した論法だ。
 そうと決まればさっそく実行。
 だが、浮気するのは相手がいる。
「というわけで、クレイオス。あたしと浮気しよ」
「はぁ!?」
 なにを言い出すのだと、クレイオスは思わず一歩引き下がる。
「なぜ我なのだ!?」
「目の前にいるから」
「貴様っ・・・」
 アステルブレイドで叩き切ってくれる!と思ったが、現在刃が折れている。
 このときほど、刃が折れていて舌打ちしたくなるようなことはなかったと、後に彼は語る。
「貴様なぞお断りだ!他の奴にしろ!」
「他に誰がいるって言うのさ。今みんな夫婦そろってるし、イアペトスはあたしの娘の旦那だ!」
「だったら、人間の男でも相手にしてろ!」
「人間なんか相手になんないじゃん!」
 一発触発の状況を、黙って傍観していたムネモシュネはなにかに気づき、テテュスに呼びか
ける。
「テテュス、テテュス」
「何よ、ムネちゃん」
「もう焼いているようです」
 何がと返しそうになったが、ん?と後ろに振り向き・・・・目玉が飛び出しそうになった。
「オ・・・・オケアノス」

 ザザァッと一瞬で全身の血の気がひいていく。
 顔は普段と同じ顔。
 しかし、この身にまとう空気。
 これは絶対。
(怒ってる)
 兄妹一凶悪面と言われ、第一印象は「怖そうな人」。常日頃の仏頂面が、機嫌の悪いとき
には三割り増しとなり、道行く人は道を空け、半径五m以内は近づかない。
 かつてテテュスは、その言われようにオケアノスが侮辱されていると、我が身のように
怒っていた。
 しかし、今ならその言葉の意味がよく理解できる。
 逃げたい。
 逃げ出したい。
 あたしの躯よ、今すぐ動けと切実に願う。
 だが、動かなかった。
 動けない・・・・。


「ごめん、ごめんてば~~~~(泣)」
 テテュスは、オケアノスに担ぎ上げられ、連れて行かれた。必死に謝罪の言葉を泣き叫ぶが、届くことはなかった。

「あほうだな」
「ですね」
 二人はあきれた顔で見送る。
「表に出さないだけで、あいつは相当なやきもち焼きだぞ」
「その通りです」
「かつて、ネレウスが四時間かけて書いた恋文を、わざとぶつかって踏みつぶしたからな」
「あの温厚なネレウスもさすがに怒って、ちょっと仕返ししましたら、百倍返しにされました」
「なぜ気づかんのか・・・」
「そこがテテュスらしいところです」
「いい迷惑だ」
「ですね」

 テテュスがその後どうなったかは知らない。


  ◇  ◇  ◇

 
 回廊で起こった騒動を、少し離れた場所から見ていた人物がいた。
「やきもちか・・・」
 コイオスは思った。
 わたしも彼女以外の女には目もくれなかった。
 わたしが愛を告げても、素直に受け止めてくれず、返してくれないあの人。
 もし、わたしが他の女に目移りしたら、彼女は妬いてくれるだろうか・・・?

 コイオスはその人の元に急行した。
 目当ての人物は、部屋で椅子に座って本を読んでいた。
 そっと近づき、後ろから抱きしめる。
 その人は、びくりともしなかった。
 しかし、そんなことは想定済み。
「ポイペ」
「何?コイオス」
 内心ドキドキしながら、先程思い立った疑問を投げかける。
「もし、わたしが浮気したら君はどうする?」
 それにポイペは少しの動揺もなくさらっと答えた。

「コイオス。浮気したら即離婚、ていう結婚の時の約束覚えてる?」

 部屋に一瞬で充満する冷たい空気。
「すみませんでした」
「解ればいいのよ」
 
 冗談でも言ってはいけない言葉がある。

 彼らの浮気発覚後の対処話は、二分ほどで終わった。
  ◇  ◇  ◇


 ポイペの部屋のドアの前で立ち止まっていた人物が、そっとそこから離れていった。
 彼女が自分の部屋に着くと同時に、彼女の夫が心底疲れた顔をして帰ってきた。
「お帰りなさい」
「ただいまティア」
 向けられた妻の無垢な微笑みに、癒されていくヒュペリオン。
 こういう時、彼女が天然でよかったと思える。他の姉妹達がいろんな意味で強烈なので、
そのほえほえっとしたところに彼は惹かれたのだ。
「あのね、先程ポイペの部屋に寄ろうとしたんです」
 ティアは、そこで聞いた出来事を話した。 
「そうか、彼らしい」
「はい。でもコイオスが浮気なんて考えられません」
「そうだな。だが、反対と言うことも・・・」
「ありえませんよ。第一、相手が寄ってきません」
 そうだった・・・とヒュペリオンは昔の記憶を掘り起こす。
 まだ彼らが若かった頃、コイオスはポイペに恋い焦がれていた。
 ポイペも内心愛慕の情を寄せていたのだが、コイオスはきちんと手に入れるまでの不安から
か修羅を燃やし、ポイペに近づく男や流し目で見る男達を、裏でひどい目に遭わせていたのだ。
 一時は「ヤキ入れのコイオス」と呼ばれ、非常に畏れられた。
 そういえばわたしも、ティアに近づく男をどさくさに紛れてついでに殺ってもらっていた・・・。
 今となっては、懐かしい思い出だ。

「彼らにこの問答は愚問だな」
「はい」
 お互いに笑みを交わし合う二人に周りには、ほのぼのとした空気と花で満ちあふれ、蝶でも
飛びそうだ。
「ところで、ティアはわたしが浮気したらどうする?」
「ヒュペリオンがですか?」
「そうだ」
「そうですね。その時は、全身矢ガモにでもなっていただきましょうか」
 ティアは、微笑みを壊さずに答えた。
「それは怖いな。そうならないように努めるよ」
「ヒュペリオンは、わたしが浮気したらどうします?」
「その時は・・・・相手を殺して、君を殺して、わたしも死のう」
「まぁ、ロマンチックですわ」
 そうして、二人はくすくすと笑い合う。
 この間、二人の周りの空気は変わらない。
 しかし、正常な思考の持ち主ならば青ざめ、さらに勇気のある者は「どこがだと」つっこみたくなるような状態であった。
 けれど・・・。
「本当に君は素敵だな、ティア」
「貴方もです。ヒュペリオン」
 彼らは、それで幸せそうなのだから、これはこれでいいのかもしれない。


 人は、神(かれら)が造った。
 だから、人は神々の姿が反映されているのだ。
 つまり、人も神も本質は変わらないと言うことなのだ。

 男と女の関係が神話の時代から変わらぬように・・・。
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