いろいろ書き散らしてます。 なお、掲載している内容につきましては、原作者様その他関係者様には一切関係ありません
侵入者
穏やかなある日の午後。
クラウスは、厨房でタキの午後のおやつにするケーキを焼いていた。
焼き上がりは上々。
今頃、領主の仕事で書類と格闘しているであろうタキと、タキのために何かしたいクラウスにひとときの安らぎが与えられるはずだった。
しかし、突如館の前に止まった車が、その安らぎを奪い取る。
「クラウス様 !!」
「おう、どうしたハルキ」
血相かけて厨房に駆け込んできたハルキは、ドアをぶち破るなり叫ぶ。
「お逃げください。また」
次の瞬間、クラウスの表情が曇る。
「残念だなハルキ、もう手遅れだ」
その言葉が終わるか否やの瞬間、ハルキの横から何者かが飛びかかってくる。
「ライカンスロープ!!」
襲いかかる長剣をクラウスは、そばにあったフライパンでガードする 。
ガァッン!!と激しい金属の激突音が厨房に響き渡る。
「腕は鈍っていないようだな」
「何しに来たんだよ、お前」
「お前に会いにだ!いくぞ」
クラウスの問いを無視して、ベルクートは次の攻撃に取りかかる。
「クラウス様っ!!」
「ちっ」
襲いかかるベルクートの剣先をフライパンで躱しながら、クラウスはハルキに伝える。
「ハルキ、お前そこのケーキもってタキのところに行け」
「ケーキって、この状況でケーキですか!???」
「すぐ済ませる。タキにもそう伝えろ!」
そう叫ぶなり、クラウスはフライパンをベルクートに向かって投げつけ、ベルクートがそれに気をとられた一瞬の隙に窓ガラスを蹴破って外に出る。
「こっちだ、来い」
「そうこなくてはな!!」
ベルクートはうれしそうにクラウスの後を追った。
(といっても銃は携帯してねぇし、どうするよ)
とりあえず、中庭に広がる木立の中に引き込んだものの、ケーキを焼くのに銃は必要ないだろうと部屋に置いてきたため、武器はない。
この方向は士官居住棟とは正反対の方向で、塀までただ木々が広がっているだけだ。
「どうした、ライカンスロープ。逃げ惑っているばかりじゃ、勝負にならん」
(勝手に挑んできたくせに、何が勝負だよ)
「くそっ」
苛つきながらもクラウスは、一矢報いる策を編み出し始める。
(こうなったら一か八か)
「ライカンスロープ。いつまでもこうしていられないぞ」
いく手に迫る若木や枝を切り払いつつ、クラウスを追いかけるベルクートは、木々が開けた場所で立ち止まっているクラウスの背中を見つけ、にやりと口元をゆがませる。
「勝負だ」
ベルクートが木々の間から飛び出し、剣で降りかかった瞬間、クラウスがベルクートの方を向いた。
「ふんっ」
「むっ」
視界が一瞬黒くなり、ベルク-トは目の前に広がる世界を切り払う。
眼前の世界は、ザァァと布が切り裂かれる音がして払われた、切った隙間から光が襲いかかる。
「はぁっ」
クラウスの声がしたと思ったとたん、体が触れられ、ベルク-トはすぐさまその方向へ、蹴りを入れる。
「ぐあっ」
クラウスが後ろに吹き飛び、地面に腰を打ちつける。
よろめきを目にし、ベルクートはすぐさま、片をつけに入る。
「はぁぁぁっっ」
ベルクートの剣がクラウスに振り下げられる瞬間、クラウスの体が横にそれ、ベルクートの腕がとられ、前に引っ張られる。
「むうぅっ」
ベルクートはクラウスが自分に向かって、左腕を振り上げているのがわかった。
その手には銃が握られていた。
「俺のを奪ったのか」
ベルクートの問いにクラウスは答えず、金の目を細めながら言い放つ。
「俺の勝ちだ。剣を引きな」
しかし、ベルクートは構えを解かず、にやりと笑うのみ。
とそこへ、息の上がる声に悲壮感と血相を入れた太めの少し老いた男が割って入ってきた。
「ベルクート殿ぉ~(泣き)」
その姿を見て、ようやくベルクートはあきらめたかのように構えを解いた。
「何をなさっておいでですが。我々の今回の訪問の目的をお忘れですか」
「忘れてなどいないさ、遊んでいただけだ」
ちっと少しふてくされたようにベルクートは剣を鞘に収める。
「何が遊んでですか。レイゼン家に着くなり飛び出していかれて。我らは同盟の使者として参ったのですぞ!!」
ぎゃんぎゃんと小言を言う男の言葉を耳たこだと言わんばかりに無視して、「じゃあな、ライカンスロープ」とさっさと一人で屋敷の方に行ってしまった。待ちなさいベルクート殿ぉ~と男がまたしても追いかけていく。
「クラウス様、大丈夫ですか、お怪我は」
慌てて走り寄ってきたハルキに、クラウスはやれやれといった表情で、よっこらせと立ち上がる。
「なんとかな。ちょっと打ち付けたくらいだ」
「すぐにスグリ少尉に見ていただきましょう」
うーんそこまでもな、とめんどくさそうにするクラウスは、あるモノを見てはっとなる。
「あ っ!!」
いきなりの叫び声に、ハルキは一瞬後退する。
「ど、どうなさったんですか」
「こ、こここれ、こないだタキがくれたやつじゃねえか!!」
あ、あ、あ、あ、とクラウスは泣きそうな顔で、地面に落ちているすっぱりと二つに切り裂かれたエプロンの切れ端を拾う。
これは先日、クラウスがいつも使っているエプロンが汚れてきたので、タキがわざわざ布から裁って縫って作ってくれたのだ。
(それを俺は、あんなやつのために・・・・・。)
ああああああと頭を抱えて泣き伏すクラウスに、ハルキは優しく、お裁縫の得意な女官に頼みましょうと声をかけた。
「まぁ、気持ちがわからんでもないが、いつまでもめそめそするな、うっとうしい」
スグリに傷口に薬を塗ってもらいながら、まだしっぽと耳がへたれているクラウス
のともに、エプロンの修復を頼みに言っていたハルキが戻ってくる。
「クラウス様、何とか縫い合わせてもらってきました」
話を聞いた女官は同情し、急いで縫い合わせてくれたのだ。
クラウスは受け取ったエプロンを広げてみる。
一応縫い合わさってはいるが、斬られたことがわからないくらいに、とはいかない。
クラウスは、はぁ~とため息をついて、タキになんと言おうと考え込んだ。
「クラウスッ!!」
飛び込んできた声にクラウスはビクウッ!!と耳としっぽを逆立てる。
「タ、タキ・・・」
「だいじょうぶか!?怪我はしてないか!?」
「心配ご無用です、タキ様。かすり傷程度ですよ」
スグリの冷静な回答を無視して、タキはクラウスに飛びつくような勢いで近づき、クラウスの顔をのぞき込む。
「目尻に涙が。どこか痛むのか?」
「ち、違うんだ。こんな傷たいしたことねぇ」
そう言い放つなり、クラウスはその場にひれ伏して謝った。
「ク、クラウス!?」
「すまねぇ、タキ。俺はお前の贈り物を守れなかった」
そう叫びながらクラウスは、件のエプロンをタキに見せる。
「これは・・・」
「あいつから銃を奪うために使ったんだ。すまねぇ、今日はこのエプロンを着けてたこと失念してた」
くくくーとこの国の人間なら腹を切りかねない嘆きを見せるクラウスに、タキはぽんと肩に手をやる。
「何を言う。襲われて己の身を守るために使ったのであろう。仕方がないことだ」
「タキ・・・」
タキはにこりと花のような顔で微笑む。
「それよりお前が無事でよかった。我が騎士。私のいないところで死ぬな」
「タ、タキィ~」
雰囲気のままタキに抱きつくとしたとき、はっと気づいた。
「た、タキ、どうしたんだ、その服の汚れは!!それ血だろう!?俺がいない間に何があった!?」
「ああ、気にするな。全部返り血だ」
「返り血ぃ!?」
タキとエウロテ側の会談が行われる予定だった部屋では、タキに刀の錆にされた大熊が転がっていた。