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幻想庭園

いろいろ書き散らしてます。 なお、掲載している内容につきましては、原作者様その他関係者様には一切関係ありません

花を吐く(4-3)


ハルキからクラウスへの思いを聞いたアズサは、自分の思いを自覚し始める。


百日の薔薇 アズサ→クラウス
数年前に書いたのを発見してアップしました。
 
松葉菊(マツバギク)     心広い愛情・怠惰・無為・のんびり気分




「ありがとうございました」
 1時間後、嬉々とした表情のマイスターに見送られ、げっそりとした顔をしたクラウスが、
よろよろとしながら店から出てきた。その肩からは、しっかりスーツが入った袋が下げられ
ている。
「大尉、大丈夫ですか?」
「・・・・・・・・」
 声も出せないほどやつれているクラウスにアズサはあわわと狼狽える。
「えっと、どこかで休憩しましょうか」
「あ、それいいです。僕のど渇きました」
「・・・・・・・・・・・・・ああ」
 クラウスはやっと声を出し、3人は軍関係者専用ホテルのカフェへ向かうことにした。

「ご注文は?」
「僕、チョコレートパフェ」
「カフェオレを」
「コーヒー、ブラックで」
 ウェイトレスが注文の品を運んできた後、カップに口をつけながら、アズサは、向かいに座っているクラウスに話しかける。
「マイスター、よほど大尉のことを気に入ってらっしゃるんですね」
「迷惑だ・・・」
 クラウスはげんなりした顔をする。
「デザインが沸いたからってしょっちゅう持ってくるんだよ。その分タキに献上すりゃあいいのに」
 元々身一つできたクラウスのためにタキが呼んだのだが、どうもクラウスの服は作りがいがあるらしく、当初2,3着を作るはずが、マイスターは10着も作ってきたのだ。
 そして、当初注文分のお代だけで結構ですからといって、全部置いて帰った。 
 それ以降も、マイスターは新デザインだ、季節の新作だと言っては注文もしていないのに持ってくるようになった。
「元々スーツは向こうの文化ですしね。それに大尉はよく似合うから」
 ちらっとアズサは、クラウスの服を見る。今日はきちんと休暇を取っているため、軍服ではなく平服だ。そのスーツはきっとマイスターが作ったモノなのだろう。クラウスの雰囲気にぴったりでサイズもきちんと合わせられている。
 なんだかんだ言いつつ。クラウスはそれに腕を通すのだ。だからマイスターを服を作るのをやめないのだろう。根は優しいのかもしれない。
 最もそれをクラウスに指摘しても、きっとクラウスは他に着るモノがないから、としか言わないだろうが。


 そのとき、ホテルの支配人らしき男が3人が座っているテーブルに近づいてきた。
「ヴォルフシュタット大尉でいらっしゃいますか?」
「そうだが?」
「師団よりお電話が入っております」
「・・・・・すぐ行く」
 クラウスは席を立ち、アズサに頼むと手を上げる。アズサはそれに手を上げて返し、
テーブルには二人だけが取り残される。
「何かあったんでしょうか?」
「・・・・そうだね」
 大尉という階級(ちい)にいても特殊な立場にあるクラウスが直接呼び出されるのは、主であるタキに何かあったときだ。
(タキ様に何か・・・・・)
 一瞬アズサは顔を暗くするが、ハルキが傍にいることを思い出し、すぐに顔色を戻した。
「大丈夫、すぐに戻ってくるよ」
 心配させないように笑いかけたが、ハルキが顔色を暗くしたのを見て、話題を変えようとさっきハルキがクラウスに買ってもらったホルスターに話題を向ける。
「ところで、さっき銃装屋で言ってたけど君の銃、大尉にもらったんだっ?」
「・・・・はい」
 急に話題を変えられ一瞬ぽかんとしたハルキだったが、銃のことを言われ、神妙な顔つきになる。
「これは、僕が初めてクラウス様と会話した日、前線に言ったときに手渡されたモノなんです」
 その日、上官からの買い出しで行った店でクラウスの姿を見つけた。あこがれのクラウスの姿をこんなに間近で見られる。そのことがうれしくて興奮したら、クラウスに反感を持つ友達とけんかして、店に置き去りにされた。
 そこへ話しかけてくれたのがクラウスだった。
「夢のようでした。クラウス様はそのまま僕をバイクに乗せてくれたんです」
 あこがれの人に話しかけてもらえた上に、バイクにまで乗せてもらえた。二人だけの帰り道、ハルキはこの喜びを誰かに伝えたくてしょうがなかった。
 途中、線路沿いを走っている際友達が乗っている汽車に遭遇し、窓際からこちらを見ている
二人に、ハルキは勢いよく手を振った。鼻高く自慢げに。
「その帰りで、僕たちは敵襲に遭遇したんです」
 初めて見た。戦争というものを。
 武官の子として士官候補生として、幼年学校を卒業するとする軍に入隊した。
 でも、まだ上官の身の回りの世話や使い走りばかりで、師団本部にいても戦場は遠かった。
 それがあの日偶然という形でも戦場に足を踏み入れたのだ。
「そのときクラウス様が手渡してくれたのがこの銃です」
 あの時このまま前線へ向かうというクラウスの背中で、はいと返事をした。
 その返事を気に入ったと言われ、この銃を渡されたのだ、
「けれど、僕がこの銃を撃つことは一度もありませんでした」
 無線を置いてきたクラウスは敵兵より無線を奪い。その無線手を任された。
 ひどい揺れの中をヘッドホンを落とさないようにしながら繋げるのに精一杯だった。やっと繋がったと思った瞬間、近くに砲弾が落ちたのだ。
「すぐ脇に落ちたんです。クラウス様が庇ってくれなかったら、僕は死んでいました」


 アズサは思い出す。
 あの時、タキの代わりに大尉への応答を続けていて、やっと入電があったかと思ったら、聞こえてきたのは子供の声。
 子供の悲痛な叫び声が、大尉の負傷を告げていた。
 そのときのタキの顔を、泣き出しそうになるのを必死にこらえ、どこにいるのかと問いかけるタキの姿がいまだ脳裏に残っている。

「クラウス様はちっとも動かなくって、周り中爆発だらけで、でも僕は必死に助けを求めることしかできませんでした」
 そんな中見た、硝煙の中で揺れる敵兵の影。こちらに向けられた銃口がはっきりと見えた。
「もう、だめかと思いました」
 クラウスにもらった銃のことも忘れて、ハルキは悲鳴を上げて頭を抱えた。
 そして、頭の上を飛び交う銃声を聞いた。
 痛みはなかった。
 気づくと背中に温かな腕が触れていた。
「あの時、僕はやっと戦争というものに触れたんです。あの時から僕の中では戦争は遠いモノではなくなりました」
 あの時からハルキの中で何かが変わった。今までつまらないもの、たいしたことがないものと思っていた使い走りや身の回りの世話も、自分がこれを行うことで、この戦争を勝ち行くことに繋がるのではないかと考えるようになった。
「あのスパイを見つけられたことだって、はじめから分かってたわけじゃないんです。ただ、おかしいなって思っただけなんです」
 ふとした瞬間感じた違和感。胸の奥のしこりのような感覚は、なんだか放っておけなくて、止める友達の手を振り切りその男の後をつけた。
 そして、エウロテへの連絡現場を目撃・発見したのだ。
「これもみんな、クラウス様のおかげなんです」
 そして、ハルキはアズサの顔を見ていった。

「・・・・アズサ少尉。僕、クラウス様のことが好きです」

 突然のハルキの告白に、アズサはどきんと胸が高鳴る。
「クラウス様は、足手まといにしかならなかった僕を決して叱ったりはしませんでした。それ
どころか、僕にこの銃をくださった」
 あの時の情けなさを忘れないために重みが欲しいといったハルキに、クラウスは銃を譲り渡した。
「そのとき僕は決めたんです。僕は強くなる。強くなって。国を背負える立派な軍人になります」
 そしてハルキは照れくさそうに笑った。
「それで、できるならクラウス様の副官になりたいなぁって・・・。騎士って副官は持てるんでしょうか?」
「さぁ、どうだろう・・・」
 騎士は主の所有物(もの)。所有できる権利はないが主が許せば持てるかもしれない。
 タキはそれを許すだろうか?
(わからないな・・・)
「でも、大尉のこと、そう思うようになる気持ちは分かるよ」
 自分も見てしまったから、あの人の戦う姿を。戦場で見せる優しさを。
 あの金色の瞳が、死線の中で微笑むのを見てしまったら。
 きっともう捕らえられて、離れられなくなる・・・。



「アズサ少尉は、クラウス様のこと好きですか?」
 アズサは、ハルキを見た
 子供のまっすぐな視線が、アズサに問いかける。
 その胸に抱く想いの名を・・・。

「・・・・・・僕は」


「アズサ、ハルキ」
 そのときクラウスが急ぎ足で戻ってきた。
「出るぞ。すぐに師団へ戻る」
「どうしたんですか?クラウス様」
 ハルキの問いかけを無視し、クラウスはアズサの傍へより、耳元でささやく。

「上層部の結論が出たらしい。アサクラ総司令が直々にタキに伝えたそうだ」

 アズサは顔に緊張を走らせ、クラウスの顔を見る。
「いくぞ。すぐ支度しろ」
「はい」
「?????」
 どうしたの?という顔のハルキをアズサは促し、3人はカフェを出る。
 玄関を出て、駐輪場に停めてあるバイクに向かおうとして、クラウスがあっと足を止めた。
「悪い、先に行っといてくれ」
「え、大尉?」
「すぐ戻る。荷物を積んどいてくれ」
 クラウスはアズサに向かってバイクのキーを投げ、急ぎ足で商店が並ぶ方へ向かう。
「クラウス様、どこへ?」
「さぁ・・・・」
 

 とりあえずクラウスの言うとおりにし、2人はサイドカーとサイドバックに荷物を積み終えたところで、クラウスが戻ってきた。
「悪かったな。全部積んだか?」
「はい」
「よし、行くぞ」
 3人を乗せたバイクは街を抜け、師団本部へと向かった。

***********


 荷物を積んだサイドカーは狭いのでハルキが乗り、アズサがクラウスの後ろに座る。
「スグリからの連絡だったんだが、俺の無線に連絡しても通じなくて、さんざん御用達店(みせ)にかけまくったらしい。おかげで、電話口でさんざん嫌み言われてた。常時無線を携帯してろってさ。あんな重いの持ち歩いて街ん中歩けるかって」
 スグリはどうもクラウスに厳しい。クラウスが知らずにタキを傷つけたせいもあるが、どうもそれだけではないような気もする。
「でも、ずっと僕たちを探してくださってたんですね」
「・・・・・・まぁな」
 見方を変えればそれもある。だが、普段の接し方や兄のマイスターのこともあって、クラウスはそれを素直に認められない。
「上層部はなんと?」
「・・・・・・タキが直接話すそうだ」
「タキ様が・・・・」
 アズサの顔色が曇る。
「まったく・・・・」
 風の中を走りながらクラウスがつぶやく。
「どうしてあいつはいつもああなんだろうな?」
「大尉?」
「自分からつらい役目を背負い込もうとしてる」
「・・・・・・・・・」
 それは、アズサも思う。
 幼心にタキは我慢強い子供だった。領主の子で唯一の男子ということもあるだろうか、そもそもタキ自身の性格が誇り高く、自己責任感が強いのだ。
 民が己に命かかけてくれるが故に、それに答えようという思いが強い。
 それが必然として、自分という存在を押し殺してしまう。
「そのために俺がいるっているのに、あいつは・・・」
 でも、まぁとクラウスは言う。
「まぁ、いいさ。上層部(うえ)の奴らがなんと言おうと俺はタキを守る。方法なんて何でもいいさ。あいつの声が聞こえる場所でいられたらそれでいい」
「大尉」
「あいつの声が俺のすべてだ。俺を呼び覚まさし、俺を立たせ、俺を立ち向かわせ、俺を帰還させる」
 その声のなんと、力強いことか。
 意志の固さ、決意の強さ。
 すべてを捨てて、主に己のすべてを捧げる者の声に、アズサもまた奮い立たされる。
「僕もです」
 幼き頃から乳母子として、モリヤ、ダテと共にタキと一緒に育った。3人と誓っていた。
 3人でタキを守ろうと。
「タキ様を守るためにムラクモに載りました」
 キッと前を見据えて、アズサはクラウスに語りかける。
「僕も決めました。上層部がなんと言ったのか分かりませんが、万が一もうムラクモに乗れなくても、僕は戦います。兵卒でなくても、浮浪の民になっても、僕は僕なりの戦い方でタキ様を
お守りします」
 そう、そうなのだ。
 なぜ、あの時志願したのか。                                 
   何のために、あの汚濁の地へ足を踏み入れようと決意したのか。
 すべては、そう、タキのため。
「一緒に守りましょう、大尉。もう僕は足手まといにはなりません。僕も強くなります。あなたの背中を守れるほどに」
「俺の背中?おいおい、俺に担がれてたヤツが言うじゃねぇか」
 くっと口端をあげるクラウスの横顔をのぞき込むようにアズサは言う。
「だめですか?」
「・・・・・いや」
 クラウスはにやりと笑う。
「そういうの嫌いじゃねぇよ。いいぜ、守ってみせな」

 クラウスの言葉が、アズサに胸の中に花を咲かせる。

 アズサは、ぎゅっとクラウスの胴に回した腕を閉めた。

「そういえば、ハルキ君も」
「あん?」
「ハルキ君も強くなりたいそうです。それで将来はクラウスの副官になりたいと」
「副官?おい、そうなのかハルキ」
 クラウスはサイトカーに乗っているハルキに声をかけるが、ハルキからは返事がない。代わりに聞こえてきたのは可愛らしい寝息だ。
「・・・・寝てやがる」
「疲れが出たんでしょうね」
「おいおい、前線に近いこの場所で寝るなよなぁ」
 ああ、でもとクラウスは言う。
「俺に親しみを抱いたり、前線につれてかれても怖がらず、逆に強くなりたいつったり、果ては俺の副官ねぇ。こいつやっぱり大物だわ」
「そうです・・・ね」
「おまえもな」
「え?」
「お前も結構根性あるよ」
 アズサの頬がほのかな赤に染まる。それ以上何も言えず、アズサはクラウスの背中に額を押しつけた。

 向かいくる風を切り開きながら、バイクは前に進む。
 流れてくる風が気持ちいい。
 両側には果てしなき大地と空がただ静かに流れていく。
 空に敵機の影はなく、道行きを遮るモノは何もない。
 このままどこまでも、どこまでも行けそうで。
(行けたらいいのに・・・・)
 どこまでも、クラウスと二人で。
 もし軍に戻れないときは、クラウスについて行こうか。
 クラウスと一緒に戦おうか。
 (うん、それがいい)
 一緒なら、二人なら、何も怖くない。
 何があっても立ち向かって、きっとタキを守るだろう。



 アズサは、きゅっとクラウスの身体に回す腕に力を込めた。
 二人で戦うことに、不思議と心が沸き立った。


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