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幻想庭園

いろいろ書き散らしてます。 なお、掲載している内容につきましては、原作者様その他関係者様には一切関係ありません

花を吐く(5-2)

クラウスに勉強を教えているせいか、距離が近くなり、アズサはドキドキしっぱなしで・・・。

百日の薔薇 アズサ→クラウス  


数年前に書いた話をアップしました。
檸檬(レモン)        愛に忠実・心からの思慕・熱意・誠実な愛

 
 本日の戦況報告会の後、クラウスとアズサは二人して図書室を訪れた。
 クラウスは、治療中の間に言語の取得と本を読むのに努めたことから、大抵の本は
読めるようになった。それでも専門性のあるものはまだ難しく、アズサのサポートが
必要だった。
「これなんてどうです?今の大尉なら読めるかと思いますが」
「ふぅん。ま、読んでみるわ」
 じゃあこれもと積み上げた本で、テーブルの上に一山ができる。
「まぁ、大尉。こんなにたくさん読みきれるんですか?」
 今や顔なじみとなった女性司書が驚きの声を上げる。
「私としては、たくさんの本を読んでくださることはうれしいですが、軍に戻られた
身ではお忙しいでしょう?」
「まぁ、空いた時間に読んでみるよ」
「よろしいですけど、大尉、返却期限は守ってくださいね」
 女性司書は、赤い太文字で「返却期限厳守」とでかでかと書かれた紙を指さしなが
ら念を押す。クラウスがあ~っという顔のあと了解と返事したところで、図書室のド
アが勢いよく開かれる。
「クラウス大尉、いるかね!」
「げっ、ウエムラ」
 図書室中に響き渡るような大声に、クラウスの顔が青ざめる。
 だいたい、ウエムラ少佐が大声を上げるときは何かで激高しているときだ。特にク
ラウスのことに関しては沸点が低い。
「今日の戦のことだがな、お前はムラクモからずいぶん離れていたそうだな」
 ウエムラは大声をまき散らしながら、クラウス目がけてずかずかと突き進んでくる。
「貴様は自分の役目を忘れたか。貴様はタキ様起き死であり、専用での役目はその護
衛と援護だ。それなのにムラクモから離れるなど言語道断!!」
「ウエムラ、ウエムラ」
「言い訳は許さんぞ。それに今回はずいぶん遅く帰投しておって。貴様、いったい何
をしておるのだ」
「ウエムラ、後ろ・・・」
「私は貴様への疑いの目を無くしたわけではないからな、今度ヘンなまねをしよう己
ならそのときは」
「それより自分の身を心配しろよ」
「なにをぉ!!」
 貴様、何を言ってと絶叫しかけたところで、ウエムラは、ぽんぽんと肩を叩かれる。
「なんだ、うるさ・・・」 
 と、後ろを振り向いたところでウエムラは顔を青くした。ウエムラの真後ろで、
女性司書が般若の面をかぶっていた。
「ウエムラ少佐、ここはどこかご存じですか?」
「イマイ司書長・・・・」
「図書室ではお静かに・・・・ね・・・・?」
 イマイ司書長の迫力に負けたのか、ウエムラはクラウスのことも忘れてそそくさと
図書室をから出て行った。
「・・・・あれは俺のせいじゃねぇぞ」
「同感です。それにしてもすごい迫力でしたね」
 レイゼン家図書室には、歴戦の軍人さえも黙らせる鬼の司書長がいた。



「別にお前が持たなくてもよかったのに」
「いいんです。気にしないでください」
 クラウスが自分の部屋のドアを開けると、アズサは慣れたようにテーブルの上に
持ってきた本を置いた。
「じゃあ、どれから読みましょうか?」
「付き合うのか?今日疲れただろうから帰ってもいいぜ」
「大丈夫です。部屋に帰ってもすることがありませんし」
 アハハと笑うアズサにクラウスはふぅんとして、何か飲むかと聞いた。

 以前なら、考えられないようなことだった。
 今までは、戦が終わるとダテやモリヤと一緒にいて、今日の戦況やタキのこと、
今後のことなどを酒などを飲みつつ夜が更けるまで話しすか、ひとり部屋で休むかの
どちらかだった。
 でも、今は何でもいいから理由をつけてクラウスの傍にいたかった。
 何か話すとか、別に相手にしてもらわなくてもかまわない。
  ただ、傍にいることを許してもらいたかった。

 クラウスはタキのモノだ。

 アズサにとって、タキは敬愛と守護の象徴だ。
 何があってもずっとタキを支えたいし、守りたい。
 この幼い頃からの誓いは決して揺らぐことはない。
  そのタキからクラウスを奪うことなど考えられないことだ。

 クラウスにしたって、タキに身も心も捧げている。

 クラウスはタキのためにすべてを捨てた。
 すべてを捨て去る覚悟と心を持つ者だけがなれる、それが騎士。

 レイゼン家の騎士が100年ぶりなのも無理はない。
 なぜなら、人はそう簡単に己のすべてを捨てられないから。
 アズサもタキを守りたいと思う心はクラウスに劣らないと自負している。
 それでもタキのためにすべてを捨て去るほどの覚悟はない。
 家族も友人も大事だ。
 あの時、中間地帯に入ることですべてを捨てる覚悟だったけれど、騎士になるそれ
とはまた違うような気がする。
 
 クラウスはタキだけしか見ていない。
 タキだけしかいらない。
 タキがすべてだ。
 家族も国にも、タキには変えられない。
 そのために己の見に降り注ぐ屈辱と侮蔑さえ、無きに等しいものになる。
  その心はタキのためだけになる。
 最初から実ることのない恋心。

(それでも・・・・)
 それでもだ。
 それでも、アズサは、クラウスが好きだ。  
 クラウスが決して自分を見ることがないと分かっていても、彼が好きだと言える。
 口にすることはできないけれど。


「どうした?」
 本を読んでいたクラウスがふと顔を上げ、こちらを見ていた。
「大丈夫か、アズサ。」
「え・・・・」 
 大丈夫と口にするが、クラウスは、読みかけの本をテーブルの上に置いて少し身を
乗り出す。
「眠いんじゃねぇのか?もう夜も遅いし」
 ふと窓の外を見ると、いつの間にか暗くなっており、警戒灯の明かりだけがささや
かについていた。
「疲れたんだろ、久しぶりの前線だったしな」
 そう言われるとそうかもしれない。何だが、頭がぼうっとして、まぶたが重い。
「お前の部屋少し遠いしな。そこのベット貸してやるよ。」
 えっ!とアズサはぼんっと頭のてっぺんから沸騰し、眠気が一気に吹き飛ぶ。
「や、そんな・・・」
「いいから少し寝ろ」
 とっとと行けとクラウスに命令され、アズサはふらふらとしながら、クラウスの
ベットに潜り込む。

(うわーうわー)
 内心パニックになりながら、アズサはシーツにしっかりとくるまった。
「すみません・・・・お借りします」
「おう、おやすみ」
 そう言うと、クラウスはまた本の中の世界へと入っていった。

 寝ろと言われたもののアズサはなかなか寝付けなかった。
  シャツを借りて羽織るのさえまだなのに、いきなりベットに潜り込むなんて段階が
上である。
 ばくばくする心臓の痛みに耐えながら、アズサはこの音がクラウスに聞こえないだ
ろうかと心配になった。
(静まれ~、静まれ~)
 早く寝ろと言い聞かせながら、シーツをぎゅっと握りして、身をぎゅっと固くする。
こうなるのは、クラウスを見舞った日、意識がおぼろげなクラウスに抱きつかれベッ
トに押し倒されたとき以来である。

 あのときは、病室らしく消毒液と甘い薔薇の香りがした。
(あ・・・・) 
 アズサはシーツの中でうつぶせになって気づいた。
(大尉のニオイがする・・・)
 好きになるというのはすごい。
 くんと匂ってみると途端胸の奥がきゅんとする。
 想えばこうやってシーツにくるまっていると言うことは、大尉に抱かれているとも
言えることで。
 ゆるゆると身体から力が抜けていって、ゆったりと身体を預ける。
 好きな人にすっぽりと包まれて、心臓は小刻みながらももう痛くない。
(クラウス・・・)
 心の中だけでもその名を口ずさめば、甘い想いに包まれる。
「好きです・・・」
 聞こえるか聞こえないかのか細い声を出して、アズサの意識はとろりと溶けていった。



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